真実の鏡
不死身のトロールを倒した僕たちはその場で跳びはねたが、やることがあった。
真実の鏡を捜索する――のではなく、邪教徒たちを救うのだ。
「邪教徒を救う?」
信じられない顔をするのはアナスタシア。
「彼らは我らの。いや、この世界の敵ですわ」
「かもしれない。しかし、僕は傷付いた人を見捨てられない」
アナスタシアはなんとか言ってやって、とルナマリアを見るが、彼女は「なにを言っても無駄ですよ」と言う。
「ウィル様のお母様、ミリア様は聖魔戦争の折、一度戦闘が終れば、敵味方、関係なく治癒したそうです。なんの躊躇いもなく先ほどまで戦っていた兵士を平然と治したそうです」
「なぜそんなことを」
「邪神の尖兵となっていた人間は望んで戦っていたわけではないからです。邪神に家族を人質に取られ、仕方なく戦っていたものも大勢いた。いわば被害者なのです」
「中には望んで参加した人もいるでしょう」
「いるでしょうね。しかし、そういう人たちは幼き頃から。いえ、生まれたときから他人の愛情を知らずに育ったのです。そのような野獣のような人間も人の優しさに触れると改心します」
「しないこともあるでしょう」
「でしょうね。しかし、それでもウィル様は――」
と言うとルナマリアは腕をまくる。
「私も微力ながらお手伝いします」
「ルナマリア……」
僕はつぶやく。
「邪教徒たちは回復すれば手向かってくるかもしれませんが、それもまた一興。ウィル様の思うがままに行動してください」
と言うとまだ息のある邪教徒に回復魔法を掛ける。
邪教徒は「ぷはーッ」と息を吹き返すと、淀んだ目で僕たちを見ていた。
僕とルナマリアは助かりそうな順から回復魔法を掛け、計五人の命を救った。
彼らは誰ひとりとして刃を向けてくることはなかった。
ただ棄教するものもいなかった。
礼を言うもの、言わないもの、様々であったが、とあるゾディアック教徒が情報を漏らしても他のものはなにも注意しなかった。
ひとりのゾディアック教徒は言う。
「礼は言わない。言えない。なぜならば俺はゾディアック様を信仰しているから――」
「人それぞれ、立場があるさ」
「――だが、ひとつだけ言えることがある。今、王都に潜伏している我らの仲間が国王を暗殺する」
「どうしてそんな重要な情報を?」
「……俺はゾディアック教徒だが、教徒であると同時にひとりの子の父親だ。親父とお袋の息子でもある」
男はそこで言葉を区切ると続ける。
「親不孝な息子だが、親父とお袋の死くらい看取ってやりたい。自分の子に死を看取られたい」
そう断言し、その場を去って行く。
僕はその後ろ姿を最後まで見送ると急いで真実の鏡を探した。
幸いなことに真実の鏡は目立つ場所に鎮座してあった。
宝物庫と思わしき場所の中央の台座に設置された一際立派な手鏡。
古代魔法文明の遺産、アーティファクト。
綺麗な装飾をほどこした魔法の鏡を手にする。
鏡を覗き込むと聖なる存在が僕に語り掛ける。
『神々の子ウィルよ。この世界の闇と光に調和をもたらすものよ――』
ルナマリアとアナスタシアの顔を見る。同様に驚いている。どうやら鏡の声は彼女たちにも聞こえるようだ。
そんな感想を口にすると、左手の盾が説明してくれる。
『アーティファクトと呼ばれる一連の遺物はしゃべれることが多いんだ』
「どうして?」
小声で問うが返ってきた返答は無味乾燥だった。
『さあ? 作った人の趣味じゃね?』
……そりゃあ、まあ、そうなのだろうけどさ。
と、納得すると僕は鏡に語り掛けた。
「真実の鏡よ。神々の息子、ウィルの名において問う」
『なんなりと問え、私は真実を紡ぐだけ』
「ありがたい。時間がないから単刀直入に聞くけど、僕は本当に王の息子なの?」
『本当に単刀直入だね』
ツッコミを入れるのは聖なる盾のイージス。
僕はそれを無視すると真実の鏡の言葉を待つ。
ルナマリアとアナスタシアも同じように緊張した面持ちで待つ。
ごくり、と生唾を飲み込む音が聞こえてきそうなほど緊張する一同であったが、数秒後、真実の鏡によってもたらされた言葉に驚愕することになる。
僕ことウィルの実の親は――。
その答えを聞いたものは等しく、言葉を飲み込んだ。




