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第四十五話 「ルヴィの試練」

ふう、時間がかかり、申し訳ない。浮かべば早いのですが‥‥

昨夜、まあ、幾つかあったが、大まかにこのような事があり、レティスが、この家で働く事は決まったのだが‥‥レティスが気にいたとはいえ、


(めっちゃ似合っている)


俺は改めてレティスのメイド姿に見惚れていると俺の背中にチクリと小さな痛みが走り、後ろを見るとそこにはエルが居た。


「見惚れるのは良いけど、そろそろ行かないと」


「ああ、そうだったな。」


現実に帰ってきた俺はいつものように鍛錬へと行く事を思い出した。いや、準備をして部屋から出て来るとまさかのレティスのメイド服で危うく忘れかける所だった。


「よし、それじゃあ行くか」


「うん」


「あ、今日レティスさんに教える事があるので私はここに残ります。行ってらっしゃいませ、ご主人様(マスター)


「ああ、分かった」


いつもならついて来るルヴィはどうやらレティスに教える事があるらしく今日は不参加のようだった。そして今更ながら思い出したが…


「そう言えば、リリィはまだ寝ているのか?」


「はい、ぐっすりと」


やっぱりか、と俺は半場確信していた事が確信へと変わった。前世でもそうだったが、リリィは朝に弱く、いつも起きて来るのが俺とエル、ルヴィが鍛錬から帰ってくる頃にようやく起きて来るのだ。まあかくいう俺も元々朝に弱いのだが、この世界に転生して以降、朝の鍛錬の為の早起きをしているといつの間にやら早起きが苦で無くなっていた。


「やっぱりか。相変わらずそこは変わらないよな‥‥。まあ、それじゃあ行ってくる」


「行ってきます」


「「行ってらっしゃい(ませ)」


「‥‥‥行ってらっしゃい」


そう言って家を出る俺とエルに母さんとルヴィ、そして何処か恥ずかし気なレティスの見送りの言葉を受けて鍛錬へと出かけたのだった。


「さて、とりあえず今日は風魔法を応用しての、アレに挑戦してみるか」


「アレ?」


「まあ、見てから、いや着いてからのお楽しみだ」


気になったのかエルが聞いていたが俺はお楽しみとばかりにはぐらかしながらエルと山へと歩き出したのだった。



一方シルバーとエル家を出て鍛錬の場への見送りを終えたリリフィアはメイド服を纏ったレティスと、その隣にはメイド服に着替えたルヴィが立っていた。


「さ~て、それじゃあまず今日一日レティスちゃんはルヴィちゃんと一緒に動いてもらいましょうか。ルヴィちゃんお願いできるかしら?」


「はい、お義母様」


「レティスちゃんも、それで良いかな?」


「はい、よろしくお願いします」


この際レティスは自分が王族であるという事は自分とシルバー達だけの秘密にしておこうと約束していたので、もし知ればシルバ―とは違い対応が変わるのも嫌だったのでシルバ―の母親であるリリフィアには伏せておくことにしたのだった。


それじゃあお願いねとリリフィアは言うとそのまま二階の執務室へと歩いて行ってしまい、その場に残されたのはルヴィとレティスの二人だけになった。


「さて、それじゃあ取りあえずは掃除から始めましょうか」


「はい、よろしくお願いします。ルヴィ」


元々レティスはメイドの経験者であるルヴィをルヴィさんと呼ぼうとしていたが、ルヴィに止められ(ルヴィ曰く恥ずかしいとの事)、結果さん付けをせずに名前で呼ぶという事に落ち着いたのだった。


「それじゃあ、まずは部屋の掃除からしようか」


「はい」


そう言うと歩き出したルヴィの後ろをレティスが付いて歩いて行き、シルバー達の部屋がある二階へと上がり、ルヴィが最初に立ったのはエルの部屋だった。


「ここは…確かエルさんのお部屋でしたよね?」


「はい、ここはエル姉さまのお部屋です」


そう言って扉を開けると、そこにはベットと花が活けられた花瓶、そして机と椅子だけしかない簡素な部屋だった。


「えっと‥…物が、あまりないですね」


「はい、エル姉さまは基本寝るとき以外は一階におられるので、あまり部屋に物を置かれないのです」


部屋を眺めながらのレティスの疑問にルヴィが答える。ここである疑問を感じたレティスはその疑問をルヴィに尋ねることにした。


「そう言えば、何故最初にこちらの部屋を?シルバーさ、いえシルバ―の部屋が最初ではないのですか?」


主である存在が最初ではないのですか?というレティスの問いかけにルヴィは答えた。


「確かに、最初にシルバー様のお部屋を綺麗にするのは間違っていません。ですがある時シルバー様が私に言われたのです。『別に優先的に俺の部屋を綺麗にする必要はないぞ、それに出来ればエル達と同じ程度にしてくれればそれでいい』と言われたのです。‥‥時にレティスはシルバー様の匂いをどう思いますか?」


「匂い‥‥ですか?」


なるほどとばかりにレティスは頷いた、が、実はその後にもシルバーが言っていた部分をルヴィは意図的に端折っていたが、そこはルヴィの名誉の、そして先輩の面子の為に伏せておくことにする。因みにレティスは知らないがルヴィはシルバーの部屋を掃除する前に、必ず、一回はと言って良いほどにシルバーのベットに潜り込むとシルバーも残り香を嗅いでいるという事をしておりいわゆる変態が好きな人の匂いを嗅いでははぁはぁしている場面に、シルバーが実際に遭遇、見てしまった故に遠回しにほどほどになという意図を込めての言葉だった。そして、それ以降、ルヴィはシルバーの部屋を掃除するのを最後にし目と物音が周りにない事を確認して瞬時に行っているのだった。楽しみは最後に取っておくというモノだった。

そして、他のメイド達がシルバー達の部屋を掃除するという事は無い。ここ数年でシルバー達の部屋の担当はルヴィになっていたからだ。まあ、そのお陰でルヴィがシルバーのベットに潜り込むという事が起きる様になったのだが‥‥


「いえ、特に私には分かりません」


「そうですか」


何処か消沈したかのような雰囲気を纏わせたがそれを即座に払拭するとその顔はメイドとしての仕事人の顔に戻っていた。


「ではまずはベットから綺麗にしていきましょうか」


「え、床からではないんですか?」


てっきりレティスは最初に床から掃除すると思っていたので違うとのかと尋ねるとルヴィは頷いた。


「はい。床の方はベットや机などを綺麗にした後の最後に掃除をします。先に床を掃除してしまい、その後にベットや机などを綺麗にすると埃が床に落ちしまい二度手間になってしまうので、床は最後に掃除をします」


「なるほど。分かりました」


最初に床を掃除しない、その理由を聞きレティスは納得した。


「では、まず最初に窓の拭き掃除から始めます。水桶は持ってきていますよね、水桶に布を付けて、絞った物で窓を、そして窓辺を綺麗に拭いて行きます」


説明をしながらルヴィは無駄がない、慣れた動きと手際でエルの部屋にある二つの窓の内の一つを拭き上げていき、そのお陰で心なしか曇っていた窓ガラスが輝きを取り戻し、朝日を反射した。


「わあ、凄い」


「この時のポイントは窓を拭くときの微妙な力加減と布の水気を出来るだけ切る事で余分な、水気の少ない状態にして拭いた後すぐ乾くように気を付けるのです」


「む、難しそうですね」


「いえ、慣れればどうにかなりますよ、それに」


どうとでもないとばかりにルヴィは後ろにいるレティスを見た。


「私にこの技術を教えてくれた方、メイド長であるシュメルさんの方が何倍も凄いですから」


「‥‥‥亡くなられたんですか?」


シュメルの名前を出した時、一瞬だがルヴィの雰囲気が翳った事にレティスは気が付いて思わず訪ねてしまった。


「はい、一年前に」


シュメルは、ルヴィにとっての第二の母親のような存在だった。そしてシュメルだけではなく、他のメイド達もルヴィに色々な事を教えてくれた。それは家事全般から薬草を見分けるなどの薬草学までと多岐にわたった。

そしてルヴィはシュメルの技術を吸収しながら育った。おかげで、この屋敷のメイド達の中でトップに位置するほどの技術を習得する事が出来たのだった。そして、ルヴィがレティスに見せた拭き方はシュメル直々に教わったモノだった。


「それは、その…」


「気にしないでください」


亡くなったと聞いてレティスは何処か申し訳なさそうな表情を浮かべたが、ルヴィは大丈夫ですよとばかりに笑みを浮かべた。その笑みは後悔など一片もない。寧ろ大切なものを受け継いだものだけが見せれる笑みだった。そしてその間に


「そうですね、レティスさんには掃除をしつつお話をしましょうか」


そしてルヴィは語り始めた。何故自分がメイドを始めたのかを。


シュメルは元々この屋敷の中で最年長であり、それこそリリフィアが幼い頃からこの屋敷に勤めていたのだ。そして、シルバーがエルとルヴィ、そしてリリィを連れてきた辺りから体調を何度か崩していたがそれでも辛い所を周りに見せずに働いていた。

だが老いた体は確実に弱り、寝込むことも多くなっていた。しかしその中でシュメルが欠かさなかったことがあった。それは夜、部屋を訪れるルヴィに本を読み聞かせる事だった。そしてそんないつもの夜のある日、ルヴィはシュメルにある相談をした。


『ねえ、シュメル、シルバーの役に立つには、何をしたらいいのかな?』


『どうして、そう思ったの?』


『だって、私はエル姉さま程、強くない、だから』


それは、まだ幼いが故の、そしてシルバー達以外で唯一心を許せるシュメルに対してもらしたルヴィの心の、思いの吐露だった。言葉自体は短かったが、それだけを聞いてシュメルは大まかに察しがついた。


『ルヴィ、ここにおいで』


シュメルはルヴィを膝の上へと招いた。ルヴィはシルバーの膝の上に良く座っていたが、他の人の膝の上には座らなかったが、シュメルの膝にはよく座っていた。何処か、優しく、温かな存在、母親のようにルヴィは感じていたのかもしれなかった。


『あなたは確かにあの方の為に強くならないといけない。恐らくあの方は何か大きな敵と戦うと、私はそう感じているのよ』


今思えば、シュメルはシルバーの異常な、歳以上の落ち着きと知識に違和感を覚えていたのかもしれなかった。そして、幼くしてそれだけの子が生まれれば不審に思っても仕方がないが、それでもシュメルは不審に思う事は無かった。幾ら主人であるリリフィアの息子であるという事を抜きにしても、シルバーは確かな芯と優しさを持っていたからだった。

そして、シルバーの力の一端を目にしたシュメルは何となく感じ取ったのだろう、これ程の力がある子供が生まれるという事は、それに類する何かが起きるのだと。


『でも、貴方はそれ以外であの子を支えればいいと、私は思うわ』


『それ以外?』


それは考えていなかったと、そして答えを知りたいとルヴィはシュメルを見つめた。そしてシュメルはそんなルヴィへと口を開いた。


『そうよ、何も、戦いだけであの子を支えるわけではないの。確かに力も必要、でもね』


シュメルは徐々に細くなってきている手でルヴィの髪を梳くかのように優しく頭を撫でながら言う、


『戦うだけではなく、貴方は日常であの子を支えれるようになりなさい。その為なら、私の全ての技術をルヴィ、貴女に授けましょう』


そして、その日以降、シュメルは自分の持っている全ての技術をルヴィへと与えて行った。そしてそれは、消えかけている篝火が、新たな篝火へと渡す、命のリレーのようだった。


「‥…素晴らしい方。だったのですね」


「ええ。今の私があるのはシュメルさんの、いえ、お母さんのおかげです。」


ルヴィはリリフィアの事もお義母さんと呼ぶが、シュメルを何時しか母さん呼ぶようになっており、それを聞いたシュメルは珍しく酒を飲んでいたと、葬式を終えた翌日、リリフィアから伝えられた。そして、シュメルの遺体は屋敷が見えるの近くにある小高い丘に墓を作り埋葬されたのだった。


「あ、そこはちゃんとシワは伸ばしてください。シワがあるとシーツが傷みやすくなるので」


「あ、はい」


話ながらであってもレティスが取りかかっていたシーツにシワが出来ている事に対してルヴィは的確に指摘を入れながら火の魔法で掃除すると必ず部屋に充満する埃を燃やして、いや燃やし尽くしていた。そして空いた窓から見える太陽は先ほどより上に上がっていた。


「す、凄いですね‥‥火の上級魔法の【灼炎】をそうも簡単に使われるとは‥‥」


「あはは、私【火竜】ですからね。火の扱いに関しては一日の長があるんですよ。あ、それが終わったら小休憩をして次の部屋に行きますよ」


「ふう~、なかなか大変ですね」


【灼炎】を消し、掃除を終えたルヴィとレティスは一旦小休憩に入る事にした。


「レティスさん、思った以上に筋が良さそうですね。それじゃあ、次のリリィさんのお部屋は試しに一人でやってみてください。分からなければお答えしますので」


「ええっ!‥…はい、やってみます!」


一生懸命に、今の自分が出来る事をやろうとしているレティスの姿をルヴィは見ていた。


(さて、ご主人様はと姉さまは信用しましたが。もちろん、それは私もです。でも貴方の本質を、心を見定めさせてもらいます。)


そう、これはメイドとしての様々な技術をシュメルから授けられた、ルヴィだからこそ、見る事が出来るルヴィなりのレティスへの、昨日の覚悟は本当かどうかを問う試練であった。



この話は、メイドレティスの初めての掃除であり、そしてルヴィがレティスを見極めるための試練でもあります。まあ、念の為という奴ですね。シルバーは一人しかいないんですから。因みに次はシルバーの方に視点が変わります。‥‥‥不穏な影が近づいて来ている‥‥

それにしても、昨日の時点でいったい何があったんでしょうかね‥‥(割と近いうちに明かしそう‥‥)

次は、まあ、思いつけば二週間以内でどうにか投稿できれば、と思っています。今回は、本当に申し訳ない。

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