第二十八話 「二人の、決着」
遅くなりました…申し訳ありません。
2021年6月20日に大幅改稿、改修をしました。
また、次話に関しても改稿作業をしておりますので、少しお待ちください。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。
「GYAAAAaaaaaaaaaaaa!?」
突き刺さった一本の槍。だというのに、ドラゴンはもがき苦しむように首を、そして体を動かすが、誰も触れていないのに、槍は抜けることなく、寧ろ更に深くへ突き刺さりつつあった。
「さて、取り敢えず。貴方の役目はここまで、だからご苦労さま。オーウルフ」
カルアスがそう言った瞬間、槍はドラゴンの体を貫通し、そのまま宙を駆けるようにカルアスの手の中へと納まった。がそこでドラゴンに変化があった。
「あら、案外としぶといのね」
その様子に、カルアスは少し驚き、そうしている間にドラゴンの体は黒い霧となり、崩壊した直後、霧が集まり何かを形成し始める。最初はローブから始まり、足、手などを作り、最後に胴体と顔まで形成した。そして、その人間は俺たちも知っている男だった。
「はぁ…はぁ‥‥はぁ…」
「アイツが、龍だったのか。でもどうやって?」
「恐らく、原初の龍血を飲んだせい」
人でありながら、如何にして龍となったのか、それが分からず俺は困惑したが、エルに困惑はなく、俺は尋ねた。
「原龍の龍血?って、何なんだ?」
「私が生まれるより遥か太古。この世界は一人の神によって創造された。そして神は人、獣人、森精人など、幾多もの種族、そして魔物を創造した。そして、それらの中に神を守護する存在として力の塊たる存在。「龍」を作り出した。それが全ての龍の始まり祖たる。原龍」
「原龍」
聞いたことのない名前。故に俺の中には単純な疑問が浮かんだ。
「じゃあ、なんで俺たちはその名前を知られてないんだ?」
そう、災厄たる龍の始まりの祖。その名前を知らないというのは、明らかにおかしかった。
「神に逆らい、神を殺したけど。そのせいで名を奪われ、神から憎悪では足らないほどの呪いを受け、神の最後の力で封印され、存在を消された」
「存在を、消された…?」
正直、神、神を殺して呪われて封印された龍やら、新しい情報が開示されて頭が混乱する中でも、エルの説明は続く。
「それが、原龍。そして、その血の事を原龍の血と呼んだ」
「えっと…つまり、神から呪いを受け、封印され存在を消された龍の血ってことか?」
「そう、そしてその血を飲んだものは呪われ、その身は禍々しき龍となり、世界を蝕む牙となる」
「それが、あいつが龍となった、原因って訳か」
と、そうしていると黒ローブの男、カルアスにオーウルフと呼ばれた男が話をしそうだったので、口を閉じて耳を澄ませる。
「‥‥カル…アス‥‥。…一体…どういう…つもりだ…?」
「やあ、まさか死にかけとはいえまた人に戻るなんて、君の精神力は驚異的だね」
「貴様…元よりこれが狙いだったのか…!?」
「ふふふ、半分正解かな。確かにアレはあの方から渡された物だけど、その後をどうするかは、私の自由だよね?」
「そうか…ならば、この私が何をしようと、私の自由だな」
そう言うと、オーウルフの手に霧が集まり、黒色の短剣が作り出され、構える。
「ええ、そう言うのは好きだよ」
そして、カルアスも同様に槍を構える。
「さて、それじゃあ、始めようか。共に、既に人ならざる者同士で、ね!」
消えた。そう錯覚するほどの速さでカルアスが地を駆け距離を詰め、突きを放ち、オーウルフは槍の切先に短剣を横当てすることで軌道を逸らす。
姿勢を低くした状態で一歩、踏み込みカルアスの心臓へと突き立てようとする。
「ははっ!」
しかし、槍を手放し、体をひねるようにして放たれた右足の蹴りを左腕で受け止めるが、ボキッ! という鈍い音と共に大地に二本の線を残し数メートルほど後退を余儀なくされたが、それだけではなかった。
「くっ!」
先ほど、蹴りを受け止めた左腕は、中頃から力なく垂れ下がっており、血の代わりに霧のような物が溢れては消えていくが、オーウルフは構わず、構える。
「うんうん。悪くないね。決死の覚悟のというのは、そうでなくっちゃ」
その様子を、カルアスは嬉しそうに笑みを浮かべながら、蹴りを放った後に持った槍を片手で回す。
「くっ、予想はしていた。がこれほどとは、な」
「まあ、君もそうなる前と比べたら、確かに今の君の方が強い。けど…」
そう言った直後、カルアスの右腕が隆起し、人の腕よりもより強靭な腕へと変化する。
「‥‥その腕は‥‥」
「龍の‥‥腕?」
そう、俺自身も何度か見たことがある、エルやルヴィが龍となった際の、一撃で城砦を砕けるのではと思わせる鱗に覆われた太く、強靭な腕だった。
「今まで、ずっと戦ってきた私には、遠く及ばないよ。それと、こんな言葉を知らないかな? 「ミイラ取りがミイラになる」って」
「まさか…」
「ふふ、察しがいいね。君も、分かったんじゃないかな?」
「‥‥」
戦いの最中でありながら、戦いを見守っていた俺にまで尋ねてくるカルアスに対し、俺は無言を選択した。がその様子で察したのか、カルアスは再びオーウルフへと視線を戻す。
「さっきの言葉。ミイラ取りがミイラになるって言葉の通り。龍を殺したものは呪われ、遅かれ早かれその身はやがて龍。という訳さ」
「やはり、そうか」
カルアスの言葉に、既に予想出来ていたオーウルフから出たのは、そんな短い言葉だった。
「ならば先が短い俺がすることは、決まった」
「へえ、どうするのかな?」
「貴様を」
オーウルフの言葉に、カルアスは何かを感じたのか微かに笑みを浮かべ、その様を俺達は見ているだけだった。
そしてオーウルフがその場から姿を消した、いやそう見える程の素早さで動く。
(くそ、視えない!)
【風を視る者】でどう移動したかは分かったが、その姿を捉えることが出来なかった。まるで本当に風になったかのようだったが。それも終わり、姿を現す。
「「ッ!!」」
カアンッと甲高い音が聞こえるとオーウルフの黒い短剣とカルアスの紅い槍と競り合っていた。
「殺す。ただ、それだけだ」
「あらあら、お優しいこと」
オーウルフの言葉に、カルアスは嬉しさと悲しみが入りじまったような笑みを浮かべた後、弾き飛ばす。
「ぐっ!?」
弾き飛ばされながらも、態勢を整えたオーウルフだが、そこに射貫くが如く、差し込まれた突きを短剣で受け止め、弾き、時には回避を交えながら隙を付いては接近し、切り裂こうとするがカルアスはそれらを防ぎ、オーウルフへ蹴りを放つが、後ろに飛んでいた事で回避される。
「ふふふ」
「くっ!」
しかし、カルアスは防御一辺倒で攻めているオーウルフが優位なはずだが、オーウルフの表情は、良くなかった。
「…おおおおぉぉぉっ!」
「…なるほど」
僅かな間の後、オーウルフは全身に魔力を纏い、その様子を見たカルアスは、初めて明確に槍を構えた。
「行くぞ」
その言葉と同時にオーウルフは、文字通り光を超えた。気が付けばカルアスの周囲に幾つも血花を咲かせる。
「押している」
「…いや、違う」
エルの言葉を、俺は否定した。
オーウルフの攻撃は確かにカルアスへと当たり、その証拠に傷も増えている。がそれにしては血の量が少ない、という事は。
「アレを、避けているのか」
それは、当たっていた。
(‥‥まさか、この速さに反応するとは)
オーウルフは内心で驚嘆しつつも、その足を止めることはない。止めれば最後、二度とこの女を殺すことが出来ない。そう理解していたからだった。そして、残された時間もない。そう思いつつ、速さが乗ったことで重くなった短剣を振った時だった。
「なっ!?」
槍に剣を止められた、それによってオーウルフの動きも一瞬だが止まる。
そのタイミングでカルアスの蹴りが直撃する。
「がっ!?」
蹴りが当たった瞬間、肺の全ての空気が押し出され、更に追い打ちのように胸骨が砕ける音がし、オーウルフはそのまま地面へと倒れる。
「ふう、やるじゃない。まさか、貴方に傷をつけられるなんてね」
「…男の、意地というものだ」
「そう、でも。限界のようね」
口から血を吐きながらも、どうにか立ち上がるオーウルフだったが、カルアスの指摘と通り、その体の端々が少しづつだが、崩壊し始めていた。
「それじゃあ、楽しかったけど、最後にしましょう。いつまでも前菜(貴方)を相手にするわけにはいかないからね」
「…そうか。なら、これで最後としよう」
カルアスの一息の跳躍で数メートルほど下がり、体を起こしたオーウルフはそのまま短剣を構える。
「さて、最後に遺言であれば聞くよ?」
「ない、だが、お前を殺すことが出来ないというのが、残念なだけだ」
「…そう」
その言葉を最後にカルアス、オーウルフの間に沈黙が降り、僅かな時の後、一陣の風が吹き、カルアスとオーウルフの両者は同時に大地を蹴り、その距離は一気に零となり、決着がつく。
「やはり、叶(敵)わないか」
「ああ。私の勝ちだ…すまない」
カルアスの槍はオーウルフの心臓を穿った一方、オーウルフの短剣は半ばから切断されていた。そして、足から徐々に霧が霧散していき、消えていく。
「ああ…殺せなかったのは悔いだ。だが、その果てに貴女の望みが叶うのであれば…」
悔いはない。それを最後にオーウルフの体は霧散していき、やがて残ったのはカルアスだけとなった。
どうにか、今月の間に第一章の改稿を終えればと思っています。
そして、一章の改稿が終われば、四章をメインに執筆し、合間で二章の改稿をしていく予定です。
本当に、毎度ながらご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。




