第18話 「ユアンの思惑とは?」
さて、ラウンジに入るのは計5人。ユアン、サン、マリア、アルパ。そして、俺。
この中で年齢が一番上なのはユアン。ただ、正式に依頼されたのが俺なのであれば、指揮は俺がとるべきだろう。
「よっしゃー。やってやるぜ! みんな、付いてこい!」
なのに、ラウンジの1階に入ってすぐ、アルパが空気も読まずに前に躍り出た。
どうにかして欲しいという気持ちを込めてユアンを睨むと、ユアンは無表情でアルパの羽を掴んだ。
「はい。ストップ。お前は前に出るな。マリアの傍にいろ」
「はあ? 何でだよ! お前たちの好きにさせるかよ。ここは俺たちの場所だ」
「それは聞いた。だが、お前に何ができる? お前たちが守れなかったから、俺たちが呼ばれたんだろう?」
ぐうの音も出ないアルパは、歯を食いしばる。
さすがユアン。上から凄みを利かせて、アルパを黙らせている。
いや、ちょっと待て。今、何ができる?って聞いたよな? もしかして、そいつ何もできないのか? 大体、その説教は外でもできたよな。
「お、おい。ユアン。確認のために聞いておくが、そいつは、アルパは、戦えるんだよな? 役に立つんだよな?」
俺の期待のこもった言葉は、ユアンの華麗な笑みの前には無意味だった。
「アルパは戦えない。だが、役には立つ」
こいつと出会って数年。最高に意味が分からない。
「お前、もう少し分かりやすく・・・」
「ユアン。もしかして、そいつアレのために連れてきたのか?」
サンが、イライラした表情でユアンに詰め寄る。ユアンはサンの機嫌には物ともせず、ひたすらに笑みを浮かべている。
「そうだ。ラウンジは何があるか分からないだろう? なら、策略の幅は広げておくべきだ」
「バカ! だからって、危険因子を増やしてどうする。自分の身が守れないやつがどれだけ危ないか、お前は知っているはずだろう!」
サンの真剣な顔に、ユアンは冷たい目で返した。
「分かってる。だから言ったはずだ。アルパはマリアの傍にいろ、と。シュラもサンも。昨日考えた作戦を忘れたわけではないだろうな?」
「なら、お前。本当にアレだけの為にアルパを・・・」
サンの息を呑む音が聞こえた。
「ああ。ラウンジ内にアルパがいてくれさえすれば、俺は無敵になれるからな」
ユアンの表情は晴れやかだったが、正直俺はまだ理解できていない。
アレって、なんだ?
「はあ。分かったよ。ユアンの好きにしろ。私は、面倒なことが増えないのならどうでもいい」
「ああ。サンはそう言うと思ったよ。シュラもいいか?」
どうやらサンは納得したらしい。
「ちょっと待て。昨日の作戦通りいくことは分かった。でも、アレってなんだ?」
「はあ?」
今度は、俺が2人から冷たい目を浴びる番だった。
「おいおい。シュラ。お前、もしかして知らないのか?」
「お前なあ、いつも学術サボってるからそういうことになるんだぞ。仮にも王子様なんだから、お前の教育係であるお父様に恥をかかせるなよ」
うわあ。辛辣。
「うるせえ。今、それは関係ないだろ」
「いや、関係あるね。この世界の人種については学術で習うはずだ。それにシュラの傍にはソディーだっていたはずだろう。天才のホセに聞く機会だってあったはずだ。何も知らないシュラが悪い」
「はいはい。ケンカすんな」
さっきまでサンと一触即発になっていたユアンに言われたくない。
「シュラ。説明めんどくさいから、見ておけ。これが、アルパを連れてきた理由だ」
ユアンはアルパの傍に行き、再び羽を掴んだ。
「アルパ。お前はアレ、知ってるよな」
「そりゃあ、知ってるけど・・・。でもアレは条件が揃わないと出来ないはずだろう。王子様と一緒に来たってことは、あんたも強いんだろう? そのあんたが条件に当てはまるとは・・・」
「当てはまるんだよなあ。それが。お前の力、少しもらうぞ」
ユアンが呪文を唱えた瞬間、2人の羽が光った。アルパの羽の黒色が少しずつユアンの羽に移っていく。数秒もしない内に、ユアンの白かった羽が黒く染まった。
「ありがとう。アルパ。これで俺も、お前のように無限に空が飛べる。サン。後は頼むぞ」
「ああ」
サンはマリアを連れてアルパの傍に行き、2人に左手をかざした。
「お、おい! 何をする気だ!」
「シュラ様?」
ユアンの身に何が起こったのかは、後で聞くことにしよう。今は予定通りこいつらの安全を確保することが優先か。
「悪いな、マリア。やっぱり、俺はお前を危険な目に合わせたくない。ラウンジには一緒に入ったんだ。マリアは安全な1階にいてくれ。アルパと一緒にな」
マリアの悲しそうな目が揺れた瞬間、サンが魔法を唱えた。
「リープ」
2人は、気を失ってその場に倒れた。




