八
「知ったような口をきいてんじゃねえぞ!」
「っ!」
無言さんから発せられた声にオレはとても驚いた。
威圧されたのだ。
怒りのあまり無言さんは立ち上がり、音も無く向かいに座るオレの胸倉を掴み、オレを宙吊りに持ち上げる。
「俺がどんな思いで今まで過ごしてきたかわかるか! ああ!? あいつが生きていたら、何度そう考えたことか! 今ここにいるのはあいつのはずだったんだ! あいつの方がふさわしかったんだ! なのに、なのに……!」
「――勝手に、死にやがって」
「――――っ!」
床に投げ捨てられ、顔面に鋭い突きをくらわされた。パキパキと骨にひびが入る音がする。
痛みに耐えながら、無言さんに話しかける。
「図星ですか? 本当の事言われて怒るなん、いい――っ!」
「俺が抱えてきた劣等感がお前にはわかるのか!? わからないだろうなあ! あいつに比べれば優柔不断な俺は実力だって、人としてだって半人前だっていうのに! それなのにトップに立たされて! お前には分かるか!? ああ!?」
……なんだ、まだ怒れたじゃないですか、無言さん。
「わかるわけないじゃないですか」
ギシギシと音を立てながら、顔面に突き刺さる無言さんの右腕を掴む。掴んだ右腕を押し返しながら左手を床に着いて無理矢理上半身を起こす。
「お、お前……?」
「自分は近くに千夜がいないと死んでしまうような、馬鹿みたいな体質でしてね。仕方ないからもしもの時のためにと体中弄繰り回されてるんですよ。千夜が部屋の外にいるようですから、まだ安全装置はかかったままと言って良いでしょう。どちらにしろ、一人では生きられない体ですがね」
体中に張り巡らされた鉄骨。本来五臓六腑があるであろう場所に存在する直方体の金属の塊。約半分が機械に支配された脳味噌。見た目からはわからないが、オレの体の半分以上が機械で出来ている。
兵器としてではない、人として生きるためだ。
「オレはこんな体ですが、一人じゃ何も出来ないろくでなしでしてね。誰かがそばに寄り添っていてくれないと水すら飲めずに死んでしまうんですよ。そんなオレに一番相性が良かったのが、『何でもできる』少女、大公千夜なんですよ」
ドアの外を視線で示す。
「オレ達は四国からここまで、死に物狂いで歩いてきました。古びた橋を何時間もかけて渡り、雨に打たれながら山を越え、その道中色んな人と会いました。ボロ布を着て細々と暮らす人たち、血走った眼で錆びたナイフを持って襲い掛かってくる老人、人を襲わなければ生きていけない子どもたち。引き籠ってばかりのあなたには分かりますか? あなたの今抱えている悩みなんて小さいものなんですよ。そんなことで悩んでいる暇があるんでしたら……」
片膝をついて立ち上がり、大きく息を吸いながら体を背面に反らし、掴んでいる無言さんの右腕を思いきり手前に引き、
「あんたの中国地方を救ってみろ!」
大声で叫びながら全力で無言さんに頭突きをした。
「ああっ、がぁ!?」
しかし、たった一回などでは収まらず、更に左手で無言さんの肩を掴み何度も頭突きをする。
「あんたを信頼してる奴がっ! ここには沢山いるだろっ! そいつらのためにっ! 中国地方の人間のっ! ために何かをっ! してやりたいとはっ! 思わないのかよっ!」
七回頭を打ち付けたところで手を放し、八回目で無言さんを頭突きで吹っ飛ばす。無言さんは吹っ飛ぶ途中ソファーに引っかかり、ソファーを転がしながら壁に激突した。
頭を振りぬいた姿勢のまま大きく息を吐き、姿勢を正す。
「――全中国地方民の怒りだと思ってください」
「…………、やり過ぎだ」




