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シンデレラ相当性格悪いですご注意ください。

ねずみとカラスは眠ってしまった。

夜行性なのに私の生活リズムに無理に合わせていたせいで

夜に眠ってしまうことがある。



それを確認したうえで私は継母たちのいる家に戻ろうと、こっそりと伯爵の家を抜けだした。



私を信頼してくれている1羽と1匹。


私は非道な子供だった。5歳の時、おつかいの帰り道、川でおぼれている子供を見かけてもなにも思わずそのまま家に帰ったことがあった。

その後聞いた話では下流の方でその子供が死体で発見されたらしい。

後から考えるとあれはクラスメイトだった。


でも世渡りもうまかった。

皆のまねをしてその子が亡くなったことを悲しんだ。


昔から顔は可愛かったし、よく周りの観察をしていた私はにこにこ笑って話しを聞いていれば嫌われないことを学んだ。


そんなたわいも無い人生を送ってきたころ母が死にそして父が死んだ。


父が死んでから邪魔になった私を継母は追いやるように屋根裏に住まわせた。

そして、したこともなかった侍女のような仕事をさせられるようになった。


笑うことがなくなった。何故なら母のご機嫌をとる必要がなくなったからだ。父も母親が亡くなって悲しいのだろうと納得してくれていることを知っていた。

表情が変わらなくなった、父が死んで表情を変える必要がなくなったからだ。継母達は私に感情のゆかたかさなど求めていないだろう。



そんな折やってきたカラスとねずみ。


最初は狭い部屋で騒ぐ煩い動物としか思ってなかった。

ただでさえ忙しくて眠れず、ご飯も食べさせてもらえないという状況下で

甲高い鳴き声やかりかりとなにかを削る音。


何故か継母に私が怒られた。餌付けもしていないのに勝手によってくる生物。

殺してやろうかとさえ思っていた。



そんな私は他人のことなどどうでもいいと思う反面、

厄介なことに、独りでは生きていけない性質だった。

それも数時間でもひとりでいることが出来ないほど重度なものだ。


継母や義姉が好きなわけではない。

ただ生活音が聞こえる、それだけで誰かと一緒にいるという事実が私の心の平穏を保ってくれる。

継母と義母が舞踏会に行ってしまうと私は独りになる。

気が狂いそうだった。

その時に部屋から聞こえる音は不快ながら私を孤独にはさせなかった。



継母や義姉は段々と社交界にでる機会が多くなる。

孤独になる私、その度にそばにいて鳴いている一匹と一羽。

次第に執着する存在が変わっていったのも当然のことだった。



ふとこのカラスとねずみはなんて言っているのだろうと気にするようになってきた。

ある晩私の前にあらわれた魔法使い、寿命と引き換えに願いを叶えてくれるという。

それならと私は5年分の寿命でカラスとネズミと会話がしたいと願った。


魔法使いは叶えてくれた。

話しかけてみたときのねずみの顔は滑稽だった。だが悪くない。

カラスの方は頭が悪いらしく、なにも考えずただ私と会話が出来ることに喜んだ。



もちろん継母たちに動物の声なぞ聞こえる筈もなく私を気が狂っているような目で見始め、ますますいじめられるようになったが別にどうでもいいと思えた。


カラスとねずみが傷つけられないなら問題はなかった。


なにも取り繕っていない私のことを純粋に好いてくれるカラスとねずみ。

私は生きてきた中で、ようやく息が出来る気がした。

このままこの日々が続いてくれるなら私は死んだっていいと思えた。


そんな私たちの関係は季節が一巡するころに終わりがみえた。


夜中にねずみとカラスがぼそぼそと話し合う声が聞こえる。

そういってもカラスの方は声がでかく、よくねずみに諌められている。


どうやら、私を舞踏会に連れて行きたいようだ。

王子と幸せになってほしい?

私が昔言っていた魔法使いを呼ぼうとしている?


なにを言っているの!!


叫んでしまいそうになるのを手で口を覆いなんとか堪えた。今は声を荒げるタイミングではない。

代償をかしこいねずみは知っていた。

カラスとねずみの寿命なんてたかが知れている。恐らく全ての寿命を使ってようやく叶えられる願い事だろうとねずみはカラスに語った。カラスは嬉しそうにそれぐらいで済むならって笑って快諾していた。


その少ない命をくだらない事に使う気か。

冗談じゃない。

会った事もない王子なんかより、私は汚い屋根裏部屋で一緒に過ごしたカラスとねずみがいいのに。

なんとかしなければ、あの魔法使いは有能だということは身をもって体験した私は知っている。そして魔法使いは前に忠告した。一度お願いされたことは無しには出来ないよと。


魔法使いがくるのは次の満月の晩。3日後だった、時間が無い。

それでも対策をとらなければ、愛しいカラスとねずみを失わないために。


そうして実家であり継母の家を逃げたしたのだ。

けれど私は再び実家に戻ってきた。ほんとうは独りになんかなりたくない。

でもこの先のことを考えると自然に顔は前を向いていた。


人の気配はない。

王宮にむかったのだろう。今日は王子様がお姫様を探す日だから。


そんな時、あの時と同じように魔女はどこからともなく現れた。


「シンデレラ、あんたは舞踏会に出なくていいのかい」


「興味ない、そのかわり魔女、叶えてほしいお願いがあるの」


「ひっひ、カラスとねずみが自分の命を使ってまで叶えようとした願いを興味ないとはね。それで、願いとはなんなんだい」


「私はこの先カラスとねずみが生きていられる寿命分しかいらないわ。」


「おや、そんな事をしたらあんた22までも生きてられないよ。今17だからあと5年ってとこだね」


「充分だわ。余りのの寿命を使って今後生活に困らないようにして欲しいの。」


「ああそういうことか、そうしなきゃまた私があいつらに呼ばれちまうかもしれないからねー」


おかしそうに笑う魔女、どうやらこのお願いは聞き届けてもらえるようだ。

体からなにかが抜けた感じがする。

身体的な変化はみられない。


「シンデレラ、あんたに幸多からんことを願っているよ」

このセリフは毎度必ず言うらしい。


くだらない。



それはどうもと答え早足に伯爵家に戻る。

もうここには用はない。



後ろで魔女の高笑いが聞こえた。

王子ではなく、汚いねずみとカラスを選ぶのがよっぽどおかしかったらしい。



カラスとねずみのもとに戻る途中ふと子供のころ見たいろいろな童話を思い出した。


「その後2人は幸せにくらしましためでたしめでたし、か。くだらない」


最後は必ず締めくくられる物語。

あんな特殊な状況下で一緒になった2人が果たしてその後ずっと幸せになれるだろうかと当時は疑問に思った。


今なら私は間違いなく答えられる。


そんなことは無理だ。


仮に出来たとしてもほんの一部だろう。

身分差は?跡継ぎは?政治的に使えるのか?


問題は後をたたないだろう


だったら私の今回下した決断はなにひとつ間違っていなかったように思える。

これから先、といってもあと5年しかないが私とねずみとカラスの幸せは保証されているのだ。障害などなにもない。

ああ、家に戻ったらあの2人に名前を付けてあげよう。きっと喜ぶ。


空を見上げる。満月がひとつぽつんと浮かんでいる。



「これは私にとってのハッピーエンドだわ。」




私の表情筋が久しぶりに動き、笑顔を作った。

ご閲覧ありがとうございました。

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