3.
森を出てすぐ近くに、馬が停められていた。
馬は、初めて見る。
ジロジロと見つめていたら、後退りして怖がられた。
動物は、人間より気配に敏感らしい。
私の殺伐とした空気に、怯えたのだろう。
私は馬が怯えないように、闘気を身体の中にきっちり仕舞い込んだ。
『終末領域』には、動物はいない。
生き物は全て、魔物だけだ。
動物は、弱すぎて生き残れないからだ。
だから初めて見る動物は、とても興味深かった。
隊長に、怯えなくなった馬の一頭に乗せられた。
私の後ろに、隊長が飛び乗る。
「出発!」
隊長の掛け声で、隊列を組んで走り出す。
向かう先は、あの要塞だろうか。
ここから距離があるのに、それえも大きく見える。
実際はもっと大きいのだろう。
『終末領域』には建物もない。
初めてのことだらけで、ワクワクして来た。
「そう言えば、名前は?俺は、ガイと言う。」
「…ルーナルシア。」
だったと思う。
多分。
名前なんて使う機会がなかったから、少し怪しい。
「そうか。よろしくな。」
コクンと頷く。
「話すのは苦手か?」
「話す相手、いなかった。」
「あー…そうか。少しずつ慣れていけばいい。」
「うん。」
私は頷こうとして、考え直して返事をした。
隊長は嬉しそうに、にっこり笑った。
「よし、そろそろ着くぞ。」
馬の速度が落ちていく。
見上げたら、ひっくり返りそうになる程に大きい要塞。
でもこれでは、大型や飛行型は防げないのでは、と疑問に思った。
要塞を潜る時、結界でも張ればいいのに、と考えていた。
「お帰りなさい、ガイ隊長!」
「ん?その子は?」
「団長案件だ。他言無用にな。」
「「はい!」」
門番だろうか、ガイはとても慕われているように見えた。
馬に乗ったまま、街中をゆっくりと駆けている。
馬の走る場所と、人が歩く場所を分けているみたいだ。
馬は止まることなく、大きな建物の門を潜った。
目的地は、目の前のお城ではないようだ。
道を横に逸れて行った。
馬に揺られながら、周りの環境や状況を把握していると、いつの間にか、目的地に辿り着いていた。
停まった馬から抱き上げられる。
ガイは、私をずっと抱き上げたまま、歩くみたいだ。
ガイ以外とは、ここでお別れだった。
あれ?
やっぱり目的地はお城みたいだ。
馬を止める場所が、違っただけか。
どうやら、お城の裏手から中に入るみたいだ。
このお城にはたくさんの人の気配があって、気分が悪くなりそうだ。
気配の分別を、早々に慣れないと。
なんか、隠れて見ている人もいるみたいだし。
抱えてもらっているのをいい事に、私は周囲の把握に努めたのだった。




