お食事会をしよう
※話の順番を入れ替えました。
どこかで人が倒れた一方、ジェイクと清澄はその頃……
♢ 9月3日 20:25
「見えたぞ清澄。あそこだ」
「へぇ…… 事務所の近くにこんな立派な料亭があったんですね」
S.J.S事務所から徒歩10分、僕とジェイクさんは待ち合わせの料亭に着いた
「緑煉町住人でもめったに知られていない… まあ知る人ぞ知るって所だな。さあ、行くぞ」
ジェイクさんに促され僕たちは店内に入る。店内は和風で静かな雰囲気で、どこか懐かしい気持ちになる。
ジェイクさんは若い女性の店員さんに予約を確認してもらい、しばらくすると別の今度はベテランそうな女性が僕達を個室前の障子まで案内する。
「こちらがお部屋になります。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
そう言って女性はその場を去っていった。
しばらくして、ジェイクさんは障子の扉を静かに開ける。まだ部屋には誰もいない。窓から見える少し色づいた木の葉がライトに照らせれなんとも幻想的だ。
そんな僕の気持ちもお構いなしに、ジェイクさんは何か独り言を呟いていた。
「もう来てると思ったんだがな。あいつの事だから俺よりも早く来るはずなんだよ……」
ほんの少しかすかにそんな言葉を聞き取れた。一体何をこの人はブツブツ言っているんだろうか。
そう思ったその時、突然前触れもなく人が近づいてくる足音が聞こえてきた。僕は反射的に身構え射撃できるような体制をとる。
「やめろ清澄。敵じゃない」
ジェイクさんにそう言われたが、僕は『ブルー・オーシャン』を出し身構えていた。なぜならこの足音に対し僕は違和感を感じたからだ。
(なんだ……これは。なぜ僕は足音が聞こえるまで"気配"に気づけなかったんだ?)
この人は只者ではない。僕の直感が全身の毛の先まで危険信号を出していた。いったい、今から会う人はどんな人なんだろう。どんなに凄い人なんだろう。
僕が胸を膨らませているその時、ついに障子の前に人影が現れ正体を現した。
だがそれは僕の期待をはるかに超え、ましてやジェイクさんでも驚くほどの人物であった。
「えっとぉ… どうしてお二人は固まってるんですか……? 」
「「 は? 」」
そこに現れたのは純度100%、間違いなく野生の"銀八 ともえ" その人であった。
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落ち着いて状況を整理しよう。僕はジェイクさんから"会いたい"という人物がいると聞いてこの場所にやって来た。しかし実際に来たのは僕の初めての任務の現場担当"代理"のともえさんだった。
つまりこの状況って、この状況って………
「つまり"僕に会いたかった人物"っていうのは、ともえさんって事ですかぁ!?」
「へぇッ!? 違いますよぉ!!…… ぼくはただ連れて来られただけでぇ…… 」
"連れて来られた"だと? ちょっと待て理解が追い付かない。つまり僕に会いたい人物は他にいるのか? そう僕がそう考えだしたその時である。
「いやぁジェイク遅れてすまない。ともえさんが道を間違えてしまって、戻ってくるのに時間がかかってしまったよ」
僕は本当に気づいていなかったのだ、僕に会いに来た人物は2人いたという事に。ジェイクさんに話しかけたその人は、いつの間にかともえさんの横に立っていた。
背は小さく白髪が混じってはいるが、髪や髭は整えられていてスーツをしっかり着こなしている、とても穏やかな目と声をしていた男だ。
「びびったぜ。まさかお前が遅刻してくるとはなぁ」
「ハハハ…… いや遅刻はしていないよ時間ピッタシだ。でもまぁ、しばらくともえさんには運転させないかな」
「そんなぁ……」
涙目になっているともえさんを見て、男がなだめようと顔の向きを変えたその瞬間、僕はその男と目が合った。
「おっとすみません。つい話が盛り上がってしまいました」
軽く一回ともえさんの頭に手を置いた後、男は僕に向かって一歩足を進める。そうして男は僕に向かい優しい笑顔で声を掛けてくる。
「はじめましてだね清澄くん、わたしの名前は早瀬 修一。この地域一帯の現場監督をしています」
こうして僕は会いたいと言っていた人物の正体、『早瀬さん』に会うことができたのだった──
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それから僕たちは"立ち話も何なのでお食事しながら話しませんか? "という早瀬さんの勧めにのり、この4人でのお食事会が開かれたわけだが……
「(もぐもぐ)……」
「おい清澄。何お前めちゃくちゃ食ってるんだよ」
「え、何か悪いですか?」
「バカ。こういうのは普通遠慮してあんまり食べないのがいいんだよ」
「いいじゃないかジェイク、清澄くんはまだ若いんだから。それに清澄くんはお昼どころかこの3日何も食べてないんだって? 」
「えぇ!? 清澄さんご飯食べてないんですか? …… モグ」
そう。僕はあまりの空腹で話をすることなど忘れ料理に集中してしまったのだ。ただしこれにはちゃんとした理由があって、それは……
「はい。始末書を書くのが忙しくてご飯を食べることを忘れてました」
「おにぎりだけさっき俺があげたんだがな、やっぱあれだけじゃダメだったか」
「清澄さん無理しちゃダメです!…… モグ」
「ともえさんの言う通りですよ清澄くん。それにジェイク、部下の事をもっと気遣えといつも言っているだろう。体調管理はしっかりやるんだぞ」
「わかってるって──ところで俺はおめぇの部下も気になるなぁッ!」
早瀬さんが僕を気遣っているその横で、ともえさんもまた美味しそうにエビの天ぷらを頬張っていた。まあ無理もない。黄金に輝くサクサクの衣とプリプリの食感の誘惑に勝てる者などいないのだから。
そうして僕たちはひとしきりの笑いに包まれた後、順調に料理を食べ進めていった。
…
どのくらい時間がたったのだろうか。僕が目の前にある味噌汁に手を伸ばしたその時、早瀬さんがふと箸を膳に置き身体を僕へ向ける。
何事かと思い僕が早瀬さんを見たちょうどその時、早瀬さんはゆっくりと口を開いた。
「実は今日清澄くんを呼んだのは、わたしが謝罪をしたかったからなんだ。あの時君が初めての任務だから本来わたしがサポートすべきだったが、どうしても行けない重要な案件ができてしまった。それで急遽めぐるさんを行かせたんだ」
そうして早瀬さんは深々と頭を下げだした。
「本当に申し訳ない」
しばらくの間、僕たちの部屋に重く静寂した空気が流れる。その間も早瀬さんは頭を下げたままだった。
僕は混乱していた。別に謝るほどの事でもないし何より"頭を下げられる"という事自体が初めてだったからだ。こういう時どう言っていいのか、どう行動したらいいか分からなかった。
それから数秒後、先に沈黙を破ったのはジェイクさんだった。
「修一、顔を上げろ。清澄は何とも思っていないぞ」
「いやジェイク、わたしのせいなんだ。わたしが説明し指示を出さなかったせいで、清澄くんを危険な目に……」
「"危険な目"だと? そんなの特殊部隊にいる時点で覚悟はできている。それに俺は清澄に最低限の訓練はしてきたつもりだ。アイツのケガは全てアイツのミスで出来たものだ。お前がそんなに気負う必要はねぇよ。だろ清澄 」
僕はとっさに頷いた。そしてやっと早瀬さんの気持ちを理解したのだ。
おそらく早瀬さんはともえさんに僕が負傷したことを聞いていたのだろう。そのことに罪悪感を覚え、直接謝罪の場を設けたんだ。
僕も何か話さなくてはいけない。そう思い僕は口を開いた。
「お気遣いありがとうございます。ジェイクさんの言う通りケガは僕の未熟さが原因です。この未熟さに気づけたことが僕にとって大きな成長になりました」
顔を上げた早瀬さんの目をみて答える僕には迷いがなかった。ただ純粋な気持ちで僕は続けて話す。
「それにともえさんのおかげで事件を解決できたのもあるんです。ともえさんはあなたから受け継いだ資料を基に、重要な情報を僕に与えてくれました。それがなければ僕は絶対犯人にたどりつけていなかったと思います」
早瀬さんは一瞬目を見開いた後、隣にいたともえさんの方を見る。この感じは「上手くやったのか」という驚きの感情だな。まあ普段からあの感じだと無理もないか。
そうして早瀬さんはすぐに僕の方に向き直り、僕にこう言った。
「そうか…… それならよかった。ありがとう清澄くん。微力ながらこれから私達は君の事をサポートしていくから、これからもよろしく頼むよ」
そう言って早瀬さんは優しく僕に微笑んだ。重苦しい空気はすっかりと晴れ、暖かい日差しを浴びているような和やかな気持ちになった。
──改めて思ったけど本当にこの人は優しい人だなぁ。部下思いで対等に接するしかといって上下関係がなくなっていないわけでもないしっかりとした人だ。悪いけど"どこかの誰かさん"とは大違いですね…
そんな事を思いながら、僕たちのお食事会は幕を閉じたのだった──




