お食事会をしよう
日常回
落ち着いて状況を整理しよう。僕はジェイクさんから"会いたい"という人物がいると聞いてこの場所にやって来た。しかし実際に来たのは僕の初めての任務の現場担当… 代理のともえさんだった。
つまりこの状況って…… この状況って………
「つまり"僕に会いたかった人物"っていうのは、ともえさんって事ですかぁ!?」
「へぇッ!? 違いますよぉ!! …… ぼくはただ連れて来られただけでぇ… 」
"連れて来られた"だと? ちょっと待て理解が追い付かない。つまり僕に会いたい人物は他にいるのか? そう僕がそう考えだしたその時である。
「いやぁジェイク遅れてすまない。ともえさんが道を間違えてしまって、戻ってくるのに時間がかかってしまったよ」
僕は本当に気づいていなかったのだ、僕に会いに来た人物は2人いたという事に。ジェイクさんに話しかけたその人は、いつの間にかともえさんの横に立っていた。
背は小さく白髪が混じってはいるが、髪や髭は整えられていてスーツをしっかり着こなしている、とても穏やかな目と声をしていた男だ。
「びびったぜ。まさかお前が遅刻してくるとはなぁ」
「ハハハ…… いや遅刻はしていないよ時間ピッタシだ。でもまぁ、しばらくめぐるさんには運転させないかな」
「そんなぁ……」
涙目になっているめぐるさんを見て、男がなだめようと顔の向きを変えたその瞬間、僕はその男と目が合った。
「あ」
「おっとすみません。つい話が盛り上がってしまいました」
軽く一回ともえさんの頭に手を置いた後、男は僕に向かって一歩足を進める。そうして男は僕に向かい優しい笑顔で話しを進めた
「はじめましてだね清澄くん、わたしの名前は早瀬 修一。この地域一帯の現場監督をしています」
こうして僕は会いたいと言っていた人物の正体、『早瀬さん』に会うことができたのだった──
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それから僕たちは"立ち話も何なのでお食事しながら話しませんか? "という早瀬さんの勧めにのり、この4人でのお食事会が開かれたわけだが……
「(もぐもぐ)……」
「おい清澄。何お前めちゃくちゃ食ってるんだよ」
「え、何か悪いですか?」
「バカ。こういうのは普通遠慮してあんまり食べないのがいいんだよ」
「いいじゃないかジェイク、清澄くんはまだ若いんだから。それに清澄くんはお昼どころかこの3日何も食べてないんだって? 」
「えぇ!? 清澄さんご飯食べてないんですか? …… モグ」
そう。僕はあまりの空腹で話をすることなど忘れ料理に集中してしまったのだ。ただしこれにはちゃんとした理由があって、それは……
「はい。始末書を書くのが忙しくてご飯を食べることを忘れてました」
「おにぎりだけさっき俺があげたんだがな、やっぱあれだけじゃダメだったか」
「清澄さん無理しちゃダメです!…… モグ」
「めぐるさんの言う通りですよ清澄くん。それにジェイク、部下の事をもっと気遣えといつも言っているだろう。体調管理はしっかりやるんだぞ」
「わかってるって──ところで俺はおめぇの部下も気になるなぁッ!」
早瀬さんが僕を気遣っているその横で、めぐるさんもまた美味しそうにエビの天ぷらを頬張っていた。まあ無理もない。黄金に輝くサクサクの衣とプリプリの食感の誘惑に勝てる者などいないのだから。
そうして僕たちはひとしきりの笑いに包まれた後、順調に料理を食べ進めていった。
…
どのくらい時間がだったのだろうか。僕が目の前にある味噌汁に手を伸ばしたその時、早瀬さんがふと箸を膳に置き身体を僕へ向ける。
何事かと思い僕が早瀬さんを見たちょうどその時、早瀬さんはゆっくりと口を開いた。
「実は今日清澄くんを呼んだのは、わたしが謝罪をしたかったからなんだ。あの時君が初めての任務だから本来わたしがサポートすべきだったが、どうしても行けない重要な案件ができてしまった。それで急遽めぐるさんを行かせたんだ」
そうして早瀬さんは深々と頭を下げだした。
「本当に申し訳ない」
しばらくの間、僕たちの部屋に重く静寂した空気が流れる。その間も早瀬さんは頭を下げたままだった。
僕は混乱していた。別に謝るほどの事でもないし何より"頭を下げられる"という事自体が初めてだったからだ。こういう時どう言っていいのか、どう行動したらいいか分からなかった。
それから数秒後、先に沈黙を破ったのはジェイクさんだった。
「修一、顔を上げろ。清澄は何とも思っていないぞ」
「いやジェイク、わたしのせいなんだ。わたしが説明し指示を出さなかったせいで、清澄くんを危険な目に…… 」
「"危険な目"だと? そんなの特殊部隊にいる時点で覚悟はできている。それに俺は清澄に最低限の訓練はしてきたつもりだ。アイツのケガは全てアイツのミスで出来たものだ。お前がそんなに気負う必要はねぇよ。だろ清澄 」
僕はとっさに頷いた。そしてやっと早瀬さんの気持ちを理解したのだ。
おそらく早瀬さんはめぐるさんに僕が負傷したことを聞いていたのだろう。そのことに罪悪感を覚え、直接謝罪の場を設けたんだ。
僕も何か話さなくてはいいけない。そう思い僕は口を開いた。
「お気遣いありがとうございます。ジェイクさんの言う通りケガは僕の未熟さが原因です。この未熟さに気づけたことが僕にとって大きな成長になりました」
顔を上げた早瀬さんの目をみて答える僕には迷いがなかった。ただ純粋な気持ちで僕は続けて話す。
「それにめぐるさんのおかげで事件を解決できたのもあるんです。めぐるさんはあなたから受け継いだ資料を基に、重要な情報を僕に与えてくれました。それがなければ僕は絶対犯人にたどりつけていなかったと思います」
早瀬さんは一瞬目を見開いた後、隣にいためぐるさんの方を見る。この感じは「上手くやったのか」という驚きの感情だな。まあ普段からあの感じだと無理もないか。
そうして早瀬さんはすぐに僕の方に向き直り、僕にこう言った。
「そうか…… それならよかった。ありがとう清澄くん。微力ながらこれから私達は君の事をサポートしていくから、これからもよろしく頼むよ」
そう言って早瀬さんは優しく僕に微笑んだ。重苦しい空気はすっかりと晴れ、暖かい日差しを浴びているような和やかな気持ちになった。
──改めて思ったけど本当にこの人は優しい人だなぁ。部下思いで対等に接するしかといって上下関係がなくなっていないわけでもないしっかりとした人だ。悪いけど"どこかの誰かさん"とは大違いですね…
そんな事を思いながら、僕たちのお食事会は幕を閉じたのだった──
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料亭から出て、そろそろお開きにする雰囲気になったころ、僕は突然『あること』を思い出した。
(そうだ、聞いておかなくてはいけない事があった )
そうして僕は早瀬さんの名前を呼んだ。ジェイクさんと少しばかり話していた早瀬さんは驚き、こちらを見る。
「どうかされましたか? 」
「早瀬さん、聞きたいことがあるんです」
「ええいいですよ。わたしが答えれるものなら何でもお答えしましょう」
僕が早瀬さんに聞きたいこと。それは僕が疑問に思うたった一つの事だった。
「早瀬さん、『クロ』って言葉の意味を何か知っていますか? 」
「色……ではないですよね。詳しく聞かせて下さい」
「あの事件のとき、犯人である野坂正次は何かに執着しているようにみえました。僕は聞いたんです"どうしてなんだ"って。そしたら野坂はこう言いました──」
今でもはっきりと耳に焼き付いているあの言葉。
"『クロ』の……… ため…… 二ィ……………… "
長い間現場の最前線にいるはずの早瀬さんなら、何か手掛かりを知っているかもしれない。そう僕は思ったのだ。
「少しでいいんです。噂でもなんでもいい。何か心当たりのある情報はないですか? 」
「バカな事を聞くのはやめろ清澄。俺も初めて聞いたぞその言葉は。薬物の副作用による意味のない単語だったんじゃないのか」
ジェイクさんは呆れた声で僕にそう諭す。…………正直こんな反応をすると最初から僕は予想していたので、ジェイクさんはとりあえず無視しておこう。
そんなことを思いながらも、僕は早瀬さんの返事を待つ。早瀬さんは足元に目線をそらし顎に手を当てて考えていた───やっぱり早瀬さんは何か知っているかもしれない!
だが、早瀬さんから返って来た答えは僕の期待とは大きく異なっていた。
「考えてみたけど分からないですね。めぐるさんは何か知っていますか? 」
「えとぉ、ぼくも分からないです…… 」
「そうですよね…… すみません清澄さん。一応本部に戻ったら調べておきます。なにか手掛かりが見つかるかもしれません」
早瀬さんでも分からないか… でも仕方ない。調べるのに協力してくれるみたいだし、一歩前進したと思っておこう。
そうして僕達は別れの挨拶を交わして料亭を後にしたのだった……
──事務所に戻る帰り道、僕はこんなことを思った。
(クロって一体何なのだろうか)
近づいたと思ったら遠くなっていく存在。人を引き寄せるほどの魅力。考えれば考えるほど『クロ』の事が頭から離れなかった。
(絶対に何なのか暴いてやるぞ)
僕の心に燃えるようにアツい"熱"が、灯ったような気がした。
♢
この時、清澄や早瀬修一たちがそれぞれが帰路に就く中で一人だけ、嘘をついたものがいたことを、清澄はまだ知る由もない…
感想を書くと今日あなたのご飯が天ぷらになるかもしれません




