"夢見"のセカイで
前回から一か月ほど経ってしまいました…今回から新章です!
新章の初めという事で、盛り上がるところはあまりありませんが驚きはあると思います。今日から始まる新たな"月クロ"を楽しんでください!
ジェイクと清澄が約束の場所へ向かっている頃、一人の男もまたとある場所へ向かっていた──
♦9月3日 20:18
この街の名前は双景市。見上げるほどに高いビルの数々とそれを彩る煌びやかな街灯が特徴の"大人の街"。
住居地としても非常に人気であり、株や事業で大成功した金持ちのボンボンがこぞって好む…そういう街である。
ただし、それはほんの一部分であることを彼らは知らない。いや知っているからこそ"変えようとしない"事があるのだ。
──そんなただならぬ雰囲気のこの街で、ぼくは一人ビルの中でとある契約をしていた。
「本日はご契約いただきありがとうございます。こちら会員証になります」
「どうもありがとうございます! 」
受付のクールなお姉さんから渡されたカードを懐にしまい、僕はにっこりとそう笑顔で返した。
「では今一度必ず守っていただく条件をご説明いたします。①警察関係者にこの店の存在を漏らさないこと。②店内では暴れないこと。③"不正"を行わないこと。…… 再度確認しますがこれらの3点をお守りいただけますか? 」
「もちろん。ぼく嘘はつかないので」
「では奥の扉へお進みいただくとエレベーターが見えます。店は24階です。それでは良い時間をお過ごしください」
「はーい」
お姉さんに言われた通り、僕は後ろに見えた扉を開いて中に入る。
うす暗い廊下の先に見えるのは、まるで金色の鉄格子のような扉で出来たエレベータに、これまた雰囲気のある赤いバラ柄のエントランス。
椅子と机しかない先ほどの部屋と違い、とても華やかに見えた。
「それにしても24階か… 」
長い。エレベーターが下に降りてくるまでにはどうやら時間がかかるらしかった。
と、その時である。背後から扉の開く音がこのエントランス内に響いたのだ。僕は反射的に振り返り、すぐに前へ向き直った。
金髪のベリーショ―トボウズでサングラスを付け、筋骨隆々な身体がぴっちりと収まっているスーツを着ているその男は、どうやら今から行く店の従業員のようだ。男は何も言わずに僕の隣へやってくる。
…
…
…
(気まずい…)
無言のまま何も言わずに隣にいられる時間が、ぼくはとても窮屈に感じた。思わず"何か話しかけなければ"という衝動にかられ、気づけば僕の口は動いていた。
「もしかして『GOLD』の店員さんですか? 」
そう言った途端、彼がゆっくりとサングラスを外しこちらを見つめてくる。目元だけ見ると年は50代過ぎだろうか?しかしその吸い込まれるような青い目を持った男は、僕の全身を観察した後にようやく口を開く。
「そうだ」
「やっぱり! …実はぼくここに来るのが初めてでいろいろ分からないんですけど」
「それはどうも…ちなみにあんた誰からこの店を聞いたんだ 」
「『磯野』っていうイカツイおじちゃんですよ。ここによく来ません? 」
「ああ磯野さんね…お友達ってわけか。あの人友達がいるような感じじゃなさそうだったけどな」
男は冷めた口でそう漏らす。僕はこの男に恐怖を覚えた。
男の一言一句が僕には情報を引き出そうとせんとしているようにも感じ、たった数秒が一時間にも思える。
そうして話している間にエレベーターが僕たちの前に降りてきた。僕達は流されるようにそのエレベーターに乗る。そしてまたしてもぼく達に沈黙の時間が訪れた。
…
大体7階まで来た時だったろうか。今度は男から僕にこんな事を聞いてきたのだ。
「俺からも一ついいか?」
「はい! なんでもどうぞ! 」
「じゃあ遠慮なく…あんたその"格好"はなんだ。まるで【病院か研究所から今抜け出してきましたよ】みたいな感じがするぞ」
「失礼な! 僕の勝負着なんですぅ! 」
「勝負着… その"白衣"がか」
男が気になったのは、今ぼくが着ている"白衣"のようだった。純白でしっかりと手入れのされているその白衣は、確かにこの場には似合わないかもしれない。
男は明らかに"何か"を疑っていると僕は思った。そして同時に答え方によっては僕は死んでしまうと確信した。向かう視線はどこか冷たく、不意に刺されてしまうのではないかと感じるほどだった。
さて、"どう誤魔化そうか"と思いながら僕は男の質問に答える。
「ハハハ… まあ一応ぼく医者なんですよ」
「一応… 」
「ええ、今ぼくフリーランスなんです。病院から依頼を受けるとそこに行って仕事する… みたいな」
得意げに僕は自分のメガネをくいッと上げる。もちろんこれは半分本当で半分嘘。すると男は一瞬なにか考えた後にこんな事を僕に言ってきた
「あれみたいだな。ドクター…なんだっけ? 」
「そうそれ! 僕も題名忘れたけどそのドラマに出てくる主人公みたいな! 」
どうやらイイ感じの例があったらしく、男はようやくぼくの話を信じている様子だった。しかしそう簡単には上手くはいかない。すぐに第二の質問がやってくる。
「ハッなるほどね… ならそんな金持ってそうな奴がなんでこんな場所に来た。お友達からの紹介があったとはいえ、"こんな場所"に普通来くるか? 」
最初であった時より柔らかくなはなっていたが、男は全く警戒を解いていない。
それだけではなかった。先ほどまで気づかなかったが『ぼくの後ろに何かいる』気がする。『そいつ』は、いつでもぼくを始末できるよう虎視眈々と狙っているように思えた。
だけど今回ぼくには一切の恐怖はない。何故なら言う言葉はさっきと違い本心であるからだ。
「店員さん、あなたも分かってるでしょ?理由なんてない。目的のない人生の方が楽しいからね」
「… 面白い奴だな。俺から一つアドバイスするなら引き時は考えておけよ。負けて全てを失えばどうなるか分からないからな」
20階まで来るとガラス張りの窓から見事な夜景が広がっていた。先ほどまでいた街は小さくなっていて、外を照らしている明かりは満天の星空のように美しかった。
そうして外の景色に見とれていると、男は今までと違う穏やかな声でこう言った。
「あんた名前は」
気がつけば僕の後ろにあった『気配』は消え、男の口角はうっすらと上がっていた。ぼくはニヤリと笑みこう返す。
「玖珀 統牙です。店員さんも聞いていいですか? 」
「… 別に名乗るほどのものではない。強いて言うなら『シーランス』と呼んでくれ」
一瞬、不穏な流れはあったものの僕たちは短い自己紹介をし、不思議な名を言った男『シーランス』はまだ動いているエレベーターの扉の前に一歩近づく。
「一応仕事なんでな… 俺が先に出るからあんたはちょっと待ってくれ」
目的の24階へ到着すると、小さく鐘の音が鳴り金の扉がゆっくりと開く。
『シーランス』は先に降り、扉のすぐ左に立つ。そして右手を広げぼくに向かってこう言った。
「ようこそ。カジノバー【GOLD】へ。夢見のひと時をお過ごしください」
ぶっきらぼうでどこか強い口調だった様子が一変し、すっかりとそのバーの店員としての仕事をやりきる彼を見て僕は勝手ながら"これがプロの仕事か"と感心した。
こうしてぼくは一つ笑みをこぼし、夢の世界へ足を踏み入れるのであった──
──────────────────────
一方でジェイクと清澄はその頃……
♢ 9月3日 20:25
「見えたぞ清澄。あそこだ」
「へぇ… 事務所の近くにこんな立派な料亭があったんですね… 」
S.J.S事務所から徒歩10分、僕とジェイクさんは待ち合わせの料亭に着いた
「緑煉町住人でもめったに知られていない… まあ知る人ぞ知るって所だな。さあ、行くぞ」
ジェイクさんに促され僕たちは店内に入る。店内は和風で静かな雰囲気で、どこか懐かしい気持ちになる。
ジェイクさんは若い女性の店員さんに予約を確認してもらい、しばらくすると別の今度はベテランそうな女性が僕達を個室前の障子まで案内する。
「こちらがお部屋になります。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
そう言って女性はその場を去っていった。
しばらくして、ジェイクさんは障子の扉を静かに開ける。まだ部屋には誰もいない。窓から見える少し色づいた木の葉がライトに照らせれなんとも幻想的だ。
そんな僕の気持ちもお構いなしに、ジェイクさんは何かブツブツと言っていた。
「… もう来てると思ったんだがな。あいつの事だから俺よりも早く来るはずなんだよ… 」
ほんの少しかすかにそんな言葉を聞き取れた。一体何をこの人は言っているんだろうか。まじでこの人の癖は心臓に悪いなぁ──
とそう思った時、突然前触れもなく人が近づいてくる足音が聞こえてきた。僕は反射的に動き出す。
「やめろ清澄。敵じゃない」
ジェイクさんにそう言われるまで、僕は『ブルー・オーシャン』を出し身構えていた。
(なんだ… 気づかなかったぞ。気配を一切感じなかった)
この人は只者ではない。僕の直感が全身の毛の先まで危険信号を出していた。
いったい、今から会う人はどんな人なんだろう。どんなに凄い人なんだろう。
僕が胸を膨らませているその時、ついに障子の前に人影が現れ正体を現した。
だがそれは僕の期待をはるかに超え、ましてやジェイクさんでも驚くほどの人物であった。
「えっとぉ… どうしてお二人は固まってるんですか…? 」
「「 は? 」」
そこに現れたのは純度100%、間違いなく野生の"銀八 ともえ" その人であった。
琥珀 統牙と『シーランス』。今後彼らがどう関わるか注目ですね!
感想があるとむせび泣き喜びます




