覚悟をキメる《前編》
今年もよろしくお願いします!! 第五話です!
よかったら感想もください!
─9月2日 2:30AM 界域市─
静まり返った住宅街の空気が、肺のなかに沈んでいる。
対峙した二人の人物。僕と彼。目の前に見えている男…… 『野坂正次』は、僕たちの追っている連続強盗犯事件を引き起こした張本人である。
そうして緊迫した状態のなか、僕はゆっくりと口を開き呟いた。
「『野坂正次』…… 年齢34歳,6月9日生まれ。身長162cm、体重75kg。窃盗の常習犯で、幼い頃から盗み癖があった。ギャンブル好きで…… 薬物所持でも捕まっているな」
「お前なぜそれをッ!! そんなことまで……」
僕が情報をズラズラと並べられていくたびに、彼の額から汗が流れ、目は焦点が合わず虚ろだ。体も小刻みに震えている。完全に怯えていた。まあ、無理もない。なぜなら僕が言ったこれらの情報は本来、彼しか知らないはずの文字どおり『個人情報』だからだ。
そう。これこそが僕のイヤホンの隠し要素にして、最大の特徴である"個人特定機能"。一度人と遭遇するだけで、その人の詳細な情報を一瞬で把握することができる。
なぜこんなことができるのか。メガネ先輩に聞いてみたところ『世界中にあるネットの情報と、日本国内の戸籍情報を登録してるから』らしい。政府の極秘組織だからといはいえ、このシステムはどうなんだろう………
──さてと、そんなことを思いながらも僕は 動揺している野坂を横目に話を進めていく。
「はっきり言って、お前を探し出すのは無理だと思った。現場に証拠が一切残っていないあの状況は、ドラマに出てくる刑事さんでも匙を投げるだろうね」
「ならどうしてわかった! 俺は完璧だったはずだッ! 一体どうやって見破った……」
「いいや、見破ってなんかないよ。さっきも言ったけど探すことは最初から諦めた」
「なら──」
「どうやったのか……… 僕は『待った』んだ。お前がここに来ることを」
「フザけるんじゃねェ! 俺は完璧だった! 探し出せないのなら俺を待つこともできねぇだろォ! 」
野坂は声を荒げてそう僕に叫んできた。
額には血管が浮き出ていて、今にも突っ込んできそうな勢いだった。僕は先ほどよりも冷たく、彼によく聞こえるようにこう返す。
「野坂、お前は複数回犯行に及んでいる場所があるな。その複数回被害にあった世帯のなかで、一つだけ4回も被害にあった場所があったことに気づいたんだよ。調べてみると分かったんだがあんた、なかなかに用意周到なんだな」
「いきなり何言ってんだテメェ? ………」
「わざわざ監視カメラを破壊済みで、しかもそのカメラを直す気がない。そして旅行好きで家から出るって事が多いことを知っているから、犯行に丁度いい場所だと気づいた──違うか? 」
野坂は黙ったままその場でうつむいているだけだった。追い打ちをかけるように僕はさらに話を進める。
「あでも、引っかかる点が一つだけ……なんでそれを知っていて、かつ証拠を一切無しで犯行が出来るのは、一体なぜだろう」
「なんでだろうなぁ……… 」
「とぼけるなよ。見えるんだろ? 僕の『コレ』とお前の『ソレ』が。こいつは『ファイター』という。どういう仕組みなのかは知らないが、お前ファイターと視界を共有できるだろ。それを利用し誰にもバレずに盗みができた」
そして、証拠隠滅も情報収集も行っていた。これがこの事件の『カラクリ』である。非常に単純で、厄介だった。こうして僕は改めて彼に向かい警告する
「野坂、僕はお前を始末しようと思ったが一回だけチャンスをやろう。今すぐに降伏するんだ。そうしたらお前は痛い思いをしなくなる」
「………ッ!!」
彼は今、歯を食いしばっていた。必死に強がっているが指先が震えているように見えた。今までも楽な方向に逃げて、逃げて逃げた結果である。これは今まで散々見てきた夢で学んだ教訓だ。
「僕は悪を許さない。悪とは、"己の罪から目を背け、やりたい放題にやる"奴だと僕は思っている。そう野坂お前の事だ。正直に言うと今すぐにでもぶっ飛ばしてやりたいが、僕達の『ルール』がそれを許してくれない───さあ、手を上げるんだ」
野坂から帰って来るのは沈黙だった。だが、彼は降伏するだろう。彼の心は今、おそらく恐怖で支配されている。出会い頭に攻撃を打ち込まれ、情報は読まれて犯行の仕組みも当てられた。そんな状況になったら誰だって降伏するはずだ。
続く静寂。風の音すら聞こえない。ただ一人、目の前の男の呼吸だけがはっきりと聞こえていた。
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◆
──はっきり言うぜ、奴は俺のことをナメている。
俺の個人情報が次々と喋られてビビっていると思っている。あのガキ……岬清澄はこの俺が降参する情弱者だとあざ笑っているッ!!
"手を上げろ"だとぉ…… いいぜ、やってやるよぉッ!
テメェが俺に近づいてきた瞬間に、俺の『キー』でぶん殴ってやる。戦闘で使ったことは一切ないが、『キー』は人間の俺よりもパワーがあるはずだ。
「わかった。手を上げるよ」
そう言って俺は両手を頭の上まで上げた。この状況。屈辱だが受け入れよう。しかし、今に見てろ…… この怒りは返してやるぜ───
「よし。ではこのまま僕に近づいてくるんだ」
「…… ッ!! なんだって!?」
「一応言っておくがバカな真似はするなよ。訳あって4年間"特別な修行"を積んでいるんだ。お前が動くよりも速く僕は、お前にサファイアをぶち込める自信がある」
このガキィ!! なんて抜け目のない奴なんだ。俺を脅かし"何もするな"と警告してやがる。……いや、待てよ?
一見してみると現状は俺の大ピンチに見えるが、見方を変えてみるとこれは”チャンス”じゃないか?
普通に考えると、あいつは遠距離からそのサファイアを打ち込む「遠距離型」…… しかしこちらは戦闘経験はないものの攻撃手段は拳、つまるところ「近距離型」だ。
ということは。いくら修行しているとはいえ遠距離が得意な奴が近距離に有利な状況にさせてくれるなんて、バカなんじゃないか? 昔見た漫画で見たことがあるぜ。「遠距離タイプは近距離タイプに近づかれると負ける」ってなぁ!
俺は心の中でほくそ笑み一歩、また一歩と歩き出す。一方でガキは『ブルー・オーシャン』の指を俺の方に向け、いつでもサファイアを打ち込めるように浮かんだ弾の標準を合わせている。
4発か…… 普通なら『万事休す』なこの状況。しかし実際に勝つのはあのガキではなくこの俺だッ!!
そう思っていたまさにその時だった。突然奴は耳を押さえだした。あまりに突然だったので一瞬俺は困惑する。その瞬間「どうしてですか先輩! 」
とそのガキは意味不明なことを叫びだした。やがて奴はその手を放し───
「止まれ! 」
「あぁ!? なんだてめぇさっきと話が違うぞ! 」
「いいから止まるんだ! 」
クソッあいつは一体何がしたいんだ。
俺は言われたとおりに足を止めた。そうしてしばらくの間沈黙が訪れる……
「わかりました先輩。ありがとうございます」
奴は何かに感謝をした後、俺の方に向き直す… 今気づいたがあいつ耳にイヤホンしてないか──そう、変な考えをめぐらせた時だった。
「やっぱり、先にお前の両手両足を打たせてもらう」
「なッ!? おい待て、お前さっきからなんなんだ! 降伏すれば許すと言ったのはどうなったんだッ!」
「許すとは一言も言っていない。それにお前にはファイターがいるからな。とても馬鹿なことをしたよ──まずは戦意を削がせてもらう」
マズい。マズすぎる。奴は俺の考えていることがわかっているのか? 考えを変えられてしまった。
これでは奴に一発も攻撃を与えられないまま捕まってしまう。クソぉ…… まだ若干距離もある。むやみに突っ込めば返り討ちにあう。本当に"万事休す"になっちまったじゃねぇか。どうすればいいんだよ……
───いやぁ? わかりきっていた事だ。俺はやるしかない。やるしかないんだ。今ここで、奴を倒し俺は"自由"になる。刑務所暮らしの生活から逃げ、普通の生活を送るんだッ!
「……覚悟を──」
「……ッ!」
「覚悟をキメロォォォッ! 『キー』ィィッ!! 」
どこからか、突如として鍵が落ちてくる。
落下しつつもその鍵が俺の背後で一瞬で形を変え、上半身を形作ったまさにその時、『キー』は俺の背中を口の中から取り出した”ナニカ"で俺の肉を破いた。俺の全身に強烈な痛みが走り出す。
その正体は『注射器の針』だ。中身はあえて言わないでおこう。だがこいつのおかげで俺の中の恐怖心は一瞬にして消えていく……
(文字どおり”キメて”やったぜぇ!)
間髪入れずさらに、『キー』は奴に向けてこの空になった注射器をぶん投げる!!
「くッ!」
奴は思った以上に素早い反応を見せ、『ブルー・オーシャン』の手でその注射器を弾き飛ばす。が俺はその隙を見逃さなかった。
「ウォォォォ───!!」
俺はありったけの力で奴に向けて走りだす…… 奴はそれを見てどう思っただろうか。『狂気』だと思っただろうか?
違う。これは執念だ!
「自由になるための、執念なんだァァァッ!!」
「執念だと? 違うね。我儘だ。『ブルー・オーシャン』!」
そういって奴は俺に向かってサファイアを発射する。その数… 『3発』ッ!!
「『キー』ィィィッ!! ぶっ飛ばせェッ!」
一発!
二発!!
三発ッ!!!
やったぞ! 俺の『キー』の拳が奴のブルー・オーシャンの弾丸を完全に防いだ。そして奴はもう目の前。このまま『キー』の拳を───
「もう一発だ」
(な、ナニィッ!)
しくじった。もう一発弾丸があったことを───無情にも奴に近づこうとし、上げていた俺の左ももに激痛が走る。
「ウギャァァッ!!」
耐えろ! 耐えるんだッ! ここで止まると、奴に再び撃ちぬかれちまう。俺の人生が終わっちまう。
なんとかしてその襲い掛かる痛みから抗い、俺の足は地面に───
着いた──。
「…… なッ!?」
「いまだ! 食らいやがれぇッ! 」
瞬間! 鈍く… そして重い感覚が、俺の振り上げた拳に伝わり奴はそのまま吹っ飛んでいった。一瞬のけぞっていたように見えたが、ついに一発食らわせてやったぞォ!!
あの中身、全身の痛みを和らげる作用があるとは聞いていたが本当に効くとはなぁ!
……… いやまてよ? おかしい。何か… なにかが───
「…… あぁッ!!」
なんてこった。あまりにも地面に足を付けることに夢中になってファイターで奴を殴ることを忘れ、反射的に生身の身体で殴ってしまった。しかもその拳は、俺が奴からの攻撃で指を失っていた拳だった。
───ん? おかしいぞ。ならあいつはなんで吹っ飛んで……
俺は不意に撃ちぬかれた左ももを見る。血どころか撃ちぬかれた痕跡がなかった。続けて先ほど殴った拳を見る。指は全てくっついていた。
困惑した俺は思わず振り向き、『キー』を見る。右手の親指と人差し指がなく、左ももに痛々しく穴が開いていた。
その時初めて、俺は気づいたのだ。
「理解したぜ……つまりは『キー』に与えられた肉体的ダメージは、本体である俺にはフィードバックされねぇのか……… 好都合!」
そうして俺は、口から二本目の注射器を取り出し注入する……正確には3本目だ。盗みを始める前に一本やった。そして気がついた。
俺の指が無くなったように見えたのはおそらく注射器の副作用だろう。痛みさえ我慢すれば、戦闘には全くもって支障がないと分かった今俺に怖いものはなくなった──今なら確実に奴を殺せる。
……おっと、奴が起き上がったようだ。
だが恐れることはない。このまま何度も殴り続けて再起不能にシテやるぜェ!!




