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幻覚

重要回です

♦ 9月3日 21:23 カジノバー【GOLD】

 

 まず、このバーでは一階のエレベーターホール前とカジノの二箇所で持ち物検査や身分確認が行われる。全ての検査が終わるとようやく夢の世界へと続く扉が開かれるのだ。


 扉を開くとそこはエレベーターから見えた綺麗な夜景に全く劣らない煌びやかな場所だった。床には赤・白・黒の三色の長方形が敷き詰められていて、光沢のある黄金の壁が神秘的な輝きを放ち、ここが現実ではなく“夢の世界”であるかのような錯覚を与えている。


 そんな貴族の住む城の一室のようなビル内に、テーブル、椅子、ルーレット。そして奥には二列にずらりと並ぶスロット台。この手の店にしては珍しくかなり力を入れていて、まさに圧巻の光景だった。

 そうしてぼくが見とれていると、ふとある疑問が思い浮かぶ。


("カジノバー"にしてはカジノ要素しかないな……)


 聞いていた話では、"カジノも凄いけどバーもいいんだよ"とのことだったのだが……

 と、そうぼくが思った時である。突如としてぼくは誰かに後ろから腕を掴まれた。ぼくはその勢いでバランスを崩したものの、そのまま引きずられてどこかへ連れられていく。

 あまりに突然のことだったのでぼくは、とっさにの腕をつかんでいる人物を確認すると──そいつはエレベーターホールで会った店員の『シーランス』だった。


「おいアンタちょっと来てくれ!」


「え、あのちょッ!?」


 シーランスは右手に"トランシーバー"を握りしめ、左腕だけの力でぼくの事をカジノの奥へ奥へと連れていかれる。


「仕事じゃぁないんですかぁ!!」


「あんたの友達がうちの従業員に迷惑かけてんだよ! なんとかしてくれ!」

 

 苛立った声でそう言ったシーランスはようやく止まったと思うとぼくの事を離し、彼の目の前にあった扉のレバーハンドルをひねる。


 ぼくの目の前に飛び込んできたのは、先ほどまでのカジノとはまた違った雰囲気のあるバーだった。カジノの煌びやかさとは対照的に、ジャズが流れている落ち着いた空間。 しかしこの静けさは、初めて来たぼくにも分かる妙な静けさだった。


(誰も"喋ろうとしていない"?)


 一瞬ぼくがそう考えた時、『シーランス』が静かにバーの奥へ指をさした。僕がその方向へ目を移すと前髪の金メッシュが特徴的なバーの制服姿の青年と、ギラギラした腕輪やピアスにサングラスをしたイカツイおじさんが何か揉めている。

…… そしてよく見るとそのおじさんは、ぼくのよく知っている人物であった。


磯野いその じょー……ッ!!」


 イカツイおじさんの正体、それはぼくの友人で重度の"薬物中毒"を持つ磯野(いその) (じょー)、その人だった。磯野の目の焦点は全くあっておらず、呂律は完全に回っていなかった。


「いいじゃんかよぉ兄ちゃん。ほんの少し吸ってみるだけだぜぇ? 最高だぜ?」


「お客様やめてください!」


 そんな二人の会話が僕の耳にはっきりと聞こえてくる。この部分だけ切り取ってみると、ぼくはまさに夢の世界ではなく"地獄"に来たような気分だった。


(あいつめ、規定量守って接種しろとあれほど言ったのに。前に広場で騒いでたら警察に怪しまれたのまだ懲りてないのかよ)


 僕は一つため息を漏らし、ゆっくりと椅子から腰を上げる。


「シーランスさんでしたっけ? すぐにあのバカ止めるのでちょっと待っていてください」


 そう言ってぼくは二人のいるテーブルまで歩き出した。

 ぼくがだんだん近づいてくることに気づき、磯野はこんなことを口にする。


「おぉ! お兄さんもほしいぃ? 今なら一袋500円ね」


「いい加減目ェ覚ませよこの…… クサカス野郎がァッ!」


 ぼくは夢のような時間を潰された、ありったけのうっ憤を磯野にぶちまけた。

 しかしその言葉対して磯野は目を見開き、ひどく憤慨した様子でぼくに激高する。


「なんだとお前ッ!…… もう怒った! お前をぶっ殺す!!」


 この時初めてぼくは不味いことになったと感じた。しかし彼はあんなでもぼくの友達。どうにかしなくてはいけないとぼくは同時に思った。周りの目が気になるがどうだっていい。一刻も早く磯野を黙らせなければならない。

 そう思い立ったぼくは磯野の前へと歩き出し、心の奥でこう叫ぶ。


(こい! 『デスピアー』ッ!)


 彼の処置はその一瞬で終了していた。

 ムカデのカタチをしながらも人間の腕が生えている姿をしたぼくのファイターである『デスピアー』は、一瞬にして出現した薬物作用を抑える薬"を注射する。右肩から血が噴き出した磯野はうめき声をあげ、痛みによってその場にうずくまり肩を押さえつけた。


「お前! 今何をした!」


 そう叫んだのはシーランスだ。目を見開き大股で近づいてきた彼は、僕の白衣の襟を持ち上げ首を絞め上げた。足は床から浮き、息ができないぼくなんてお構いなしにシーランスはぼくを問い詰める。


「おい、言ってみろどういうことだッ!」


「痛い! 痛いです…… でもほら、彼はもう心配いりませんから」


 シーランスは僕の首をさらに強く絞め、磯野の方を見る。磯野は押さえていた手をゆっくりと離している途中だった。見ると彼の押さえていた手からは出血が出ておらず、代わりに"包帯"が巻かれていた。


「なッ!?」


「あの本当に苦しいっ……ので離してもらっても……」


「あ、……ん。分かったよ」


 シーランスはそう言って気まずそうに襟から手を離し、ぼくは雑に腰から床へ落とされる。先ほどまで絞められていた首をぼくが触ろうとした時、先ほどの中毒者と目が合った。


「よぉ統牙! 悪りぃな、またやっちまった!!」


「お前なぁ…… !」


 まず磯野は笑いぼくは呆れる。次にぼくたちには妙な空気と静寂がおとずれて──なぜかお互いに自然と笑みがこぼれる。最後に、そして気づけば同時にぼく達はこんなことを言っていた。


「「まあ、とりあえずこれから飲まないか?」」



 この場にいる3名の従業員の「本気で言っているのか?」と訴えるようなをよそに、僕たちはカウンター席へと歩き出したのであった──



────────────────────


 それからぼくと磯野はおよそ2時間ひたすらに飲み明かしていた。

……しかし改めて、磯野はマジで面白い奴だと僕はつくづく思う。


 最初ここへ来たとき、磯野に薬物勧誘クサハラされていたメッシュの店員さんとは以外にも磯野とは仲良さそうだったし、狂乱した磯野に怯えて腰を抜かしていたバーテンダーのお姉さんに至っては、何事もなかったかのように話が盛り上がっていた。


「へぇ……! 磯野さんと琥珀さんって4年前からの知り合いなんですね」


「そうなのよぉ姉ちゃん! ちなみに俺がヤク中ってことはナイショな。あとコイツの事は"統牙"って呼んでくれよ。なんだかコイツが"琥珀"って呼ばれるの、俺ムズムズするぜ」


「て、磯野さん言ってるけどどうします?」


 そう突然に会話のキャッチボールが僕のもとへ飛んできた。驚きながらもなんとか僕は口を開きこう答える。


「 まあ…… お任せで」


「うーん、じゃあ統牙さんて呼びますね」


 バーテンダーのお姉さんはニコリとぼくに微笑み、すぐに次の話題をだす──

 実質貸し切り状態のそのバーで、ぼくたちの時間はあっという間にとけていった。



 そうして店を出る時間がやってきてしまった。腕のスマートウォッチを見ると時刻は深夜2時を過ぎており、隣にいる磯野はすっかり酔っぱらって眠ってしまっている。かくいう僕も少しボーっとしてきていると感じていた。


「立てるか磯野」


 なんとかしてぼくは磯野の肩をゆすって起こす。しかし返事はかえって来ない。仕方なくぼくは彼を背負って帰ることに決めた


「すいません。お会計お願いします」


 僕はバーテンダーのお姉さんに向かい静かにそう言った。


「はーい…… あそうだ、一応ミニゲームがあるんですけどやります?」


「んー、気になるけど今日はやめておきます…… 次来て磯野コイツがいないときにさせてください」


 成人男性を背負うぼくの背中を見た店員さんは、苦笑いをして「かしこまりました」と返事を返した。

 

 こうしてエレベーターホールまで歩こうとしたぼくはふと足を止め、去り際にシーランス……いや今日来たこのバーへ向けて最後に感謝の言葉を呟こうと思い立ち、そのままぼくは口を開いく。


「中々大変だったけど…… いい夢だったよ。ありがとう」


 そうして再び歩き出したぼくは、現実のセカイへ戻ろうとエレベーターホールまで戻っていくのだった──いや、"戻ろうとした"のだ。


───────────────────────


 突如としてぼくに頭が焼けるような激しい頭痛が襲ってきた。

 ぼくの視界は反転し、背負っていた磯野が下敷きになる形でそのまま床に吸い寄せられるように倒れてしまう。そして一斉に悲鳴が上がり、混乱がバー全体を包み込んだ。



「お客さま! 大丈夫ですか!」


「誰か救急車!」


「近づかないで! 離れてください!」


 バーのお姉さんではない、まったく別の声が聞こえてくる。その中には磯野の騒ぎが収まってどこかに行ったシーランスの声も混じっていた。薄れゆく意識の中で、ぼくは"夢"を見始める。いや、"夢"というより"幻覚"に近いものだ──



 誰かを追いかけていた。それが誰かは分からない。強いて言えば"子供"であるという事だけ。子供を追い詰めたぼくは『デスピアー』を使いその子供に注射を刺そうとする。だがその注射はぼくの『デスピアー』の腕ごと切り飛ばされていた。


 痛みと、困惑によって、反射的に顔を上げるとそこには"男"が立って、顔はまたも"モヤ"で隠されわからない。だがこれだけは分かる。男は『騎士で闘うファイター使い』だ。剣の矛先を向ける男は、静かにぼくに向かいこう言った。


「その子を離せ。そして……『クロ』について話してもらうぞ」



 毎日必ず出てくる同じ幻覚。それは同じ所から始まり、いつも決まったところで終わる。そして──薄れゆく意識の中で、ぼくは最後に心の中でこう吐き捨てるのだった。


「そんなこと、ぼくが一番知りたいんだよ……」


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