流れていく風景
『お前は自分の事しか見えていない』
新しい住居へと電車で移動中、父さんから言われた言葉を思い出す。
自分しか見えていないと言う事はどういう事なんだろうか? 自分以外一体何を見ればいいんだ? ほら、良く皆「自分の事が可愛いんだ」っていうじゃないか。
自分の事だけ見て、自分のことだけ考えていればいいんだ。
俺は父さんに屈しない姿勢を崩さない様に決めていた。
だからだろうか? 父さんは俺に都会の高校へと進学する事を勧めてきた。同級生が皆同じ地元の高校へと進学する中、俺はこれから全く知らない高校へと入学し、学校近くのアパートで独り暮らしをする事になる。
しかし俺は、父さんのその勧めに抵抗はしなかった。むしろ俺自身、早くこの地から離れたいという思いさえあったのだ。
あんな事をしてしまって、同級生達と一緒に居られる勇気が俺には無い。
クラスメイト達からの、一人だけ遠ざけられるような眼差し、消えてしまった俺に掛けられる軽快な声。
それまでは良好だった関係も全てリセットされてしまったかのように俺は一人孤立してしまっていた。
でもわかっている。全て俺が悪いのだと。
俺の抑えられなかった理性が弾け飛び、あいつに全てをぶつけてしまった結果だと。
それが理由で小学校から続けていた野球も辞め、今こうして一人都会の地へと足を運んでいる。
そう、俺は逃げているんだ。俺の事を誰も知らない、誰も気にしない場所へと。
電車の窓から眺める景色は、最初は山や森の多い自然に囲まれている風景が多かったが、物思いに耽っている間に高層ビルやマンション、住宅地が見え始め、人が大勢暮らしている気配を感じさせる。
誰も俺の事を知らない街。そんな街が、学校が、人が、一体俺にどんな影響を与えてくるのか。それが今の俺に少しの緊張感を与えてくる。
でも、それも杞憂なのかもしれない。
だって今の俺には何かをする意欲も、熱意もない。
ただ家でごろごろして、学校では大人しくして、ちゃんとやっていれば高校三年間なんてあっという間だろう。
高校を卒業したらどうなるかまでは正直予想できない。
それでも、後は周りの流れに身を任せて生きていけばいいだけの話だ。そうしていれば、一人だって生きていける。
そしてまた俺は父さんに言われた言葉を思い出していた。
『おまえは自分しか見えていない』
こうして何度も父さんの言葉が何度も木霊する。一体何度この言葉の意味を考えて同じ結論に辿り着いたのだろうか?
結局自分が一番可愛いんだ。自分のことだけ考えていればいいんだ。
もうすぐ着きそうな新幹線の窓からは、田舎ではなかなか拝めない高層ビルや、マンションなどが立ち並んでいて、本当に知らない場所に来たんだと実感させられる。
ん?
そう言えば、父さんに家を出る前、言われた事があった様な……。
えーと……あぁそうだ。
この言葉の意味もいくら考えた所で答えに導けないので考えるのを途中で辞めてしまったのだ。
『もっといろんな事を見て、触って、感じてこい。そして――』
そして最後にこう付け加えた。
『いろんな人と出会え』
と。




