「何かが俺の中にいる!!」
~~~新堂助~~~
気がつくと、俺はテントの中に仰向けに横たえられていた。
パンイチの上に毛布を一枚かけられただけの格好だった。
「……き、気がついた? タスク」
恐る恐るといったように、ジーンが俺の顔を上から覗き込んできた。
こいつ……ちゃっかり自分だけパイロットスーツを着込んでやがる……!
「痛くない? どこもおかしくなってない? その……あのね? ボク、まさかあんなになるとは思わなくて……あんな……気絶するまでなんて……」
しどろもどろになって、ジーンは弁解する。
「昔ママがやってくれた時はあんなじゃなかったんだよ。ぬくぬく温かくて落ち着く感じでさ……。でも今日はなんだかマーテル・アデルのノリが違ってて……なんというか激しくて……」
上目遣いになってご機嫌を窺うジーンに、俺は極めて冷酷に告げた。
「よーうレイプ魔」
「うっ!?」
「それとも変質者のほうがよかったか?」
「ううぅっ!?」
ザクザクと、言葉のナイフを突き刺した。
「何にも知りませーんって顔しといて、とんだエロ魔人だな。いいか? おまえの名前はこれからジーン・エロンクロフトだ。今すぐ役所に行って改姓してこい」
「ちょ……そこまで言う!? あれはボクのせいじゃなくマーテル・アデルのせいだしっ、もともとはタスクがして欲しいって言うからしたわけであって……!」
俺の言葉にジーンは血相を変えて反論するが……。
「あー、そーっすよねー。俺が頼んだんっすよねー。エロンクロフトさんお願いします。俺を気絶するほど性的に追い込んでくださいってー」
「うわああああああー!?」
完膚なきまでにとどめをさすと、ジーンは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「タスクが……タスクがイジメるうううー!?」
涙目になってテントの外へ逃げて行った。
「ふっ……正義は勝つ」
(……とんだ正義もあったものよの)
髪をかき上げながらの俺の勝利宣言に、マーテル・アデルがケチをつけた。
「勝てば官軍、勝てば正義だ。勝ったんだから俺は正しいんだ」
(……んふ、なんともわかりやすい気性の男よの)
マーテル・アデルはコロコロと笑った。
(おおかたあられもない姿で横たわるのをあの娘に見られたくないから、戯れ言を弄してまで追い出したのであろ? 繊細なことだの)
……ちぇ、お見通しかよ。
俺はぼりぼりと頭をかいた。
「しょうがねえじゃねえか、あんなことになったのもさせられたのも初めてなんだから。ひとりになって服着てひと息つくぐらいの時間くれよ。つかあんたさ……さっきからそうして普通に話してるけど、いったいどこにいるんだ?」
テント内を見渡すが、マーテル・アデルらしき人物はどこにもいない。
まあそもそもどんな外見してるのか、人か動物かもわからないんだが、とにかくそれらしきものは見当たらなかった。
それとも精霊だから目には見えず、「こいつ、直接脳内に……っ!?」的な感じで頭の中に直接話しかけてきているのだろうか。
(──ぬしの中にいる)
「え」
(聞こえなかったか?)
「や、聞こえたよ? 聞こえましたよ? でもさあ、それはさすがに……」
(……んふ)
マーテル・アデルが笑ったような気配がした。
俺のお腹のあたりにさざ波のような振動が拡がった。
「え……マジで……?」
俺はぎょっとしてお腹を押さえた。
(わかったか? いまのはわざとだ。鈍いぬしにもわかるようにしてやったのよ)
「俺の中にいるの……? いったい──」
いつから、と言いかけて、俺ははたと気がついた。
あの時……ジーンに口づけされた時……流れ込んで来たのは唾液じゃなくて……っ?
俺の気づきを察したのか、マーテル・アデルは(……んふ)と笑った。
(我ら生命の精霊マーテルは、あまねく世界に満ちておる。時に偏り濃度を増す。固体気体液体と、様々に姿形を変える。意志を持ち名を名乗ることもある)
……なるほど、わかりやすくいうなら……。
「マーテルさん家のアデルさんってこと?」
(言うなればな)
マーテル・アデルが……もとい、アデルがうなずくような気配がした。
(マーテルでなくエーテルと呼ばれることもある。生命の根源、純なる力の源と単純に考えても間違いではない)
「あんたがエーテルそのもの? じゃああんたのおかげでうちの船は動いてるってわけか?」
(下働きどもがすることだがな)
「へえ、その言い方だと、あんたはけっこう上のほうなんだ? なんなの階級社会なの?」
(……んふ、さしづめ宮殿に住まうお姫様といったところかの)
見えないけど、たぶんものすごいドヤ顔してるんだろうなあ……。
(それにしてもあの娘……なかなかの器の持ち主よの。あの簡易な口寄せで我をここまで形成させよるとは……。あの娘の母親にも出来なんだことだぞ?)
いたく感心したような口ぶりだ。
「ジーンが精霊使いとして並々ならぬ器量の持ち主ってことか。まあ……それはなんとなくわかるような気がするよ」
暗示のかかり易さもそうだが、なんといっても宇宙港での精霊銃の一撃だ。あれは尋常じゃなかった。
「大したもんだ。さっすが俺の妹分」
しみじみとうなずいていると、アデルが(……んふ)と笑った。
「なんだよ。なにかおかしかったか?」
(いやなに、寝ぼけたことを抜かしよると思ってな。妹分と申したか?)
「……悪いかよ。俺とジーンは血こそ繋がってないけど兄妹みたいなもんなんだよ」
(ずいぶんなカマトトぶりだこと。のう、ぬしよ?)
煽るような口調でアデル。
(娘にどんな説明をされたかは知らぬがな。目覚めの儀式は我らとの接触という以外に、新たな家族を迎え入れるという意味も持つのだぞ?)
「……ん?」
……新たな家族を迎え入れる?
なかなか理解の追いつかない俺に、アデルはハアと大きくため息をついた。
(よいか? 母が娘に、母が息子に施すことで家族とする。同じ血を引かぬ者に施すというならばつまりそれは、ぬしを正式な家族として認めたということであろ。一族に連なる者だと。つまりはぬしを……)
──夫として、認めたということだ。




