「初めての夜!!」
~~~新堂助~~~
テントの中で待っていると、凄い勢いで突入して来たジーンに押し倒された。
彼女はそのまま裸同然の格好で俺に抱きつき……。
──もう手遅れだから。
──ボクは行き着くとこまで行かないと止まらないから。
覚悟を決めたような口調で宣言し、俺の首筋に顔を埋めた。
……なんの覚悟かなんて、ひとつしかない。
つまりは「あれ」だ。
改めて自分がしていることの大胆さを認識したのか、ジーンは涙目で「うう……恥ずかしいよう……」とつぶやいている。
だったらやらなきゃいいわけだが、やはり決意は固いらしく、唇を噛んで耐えている。
「なあジーン、ちょっと落ち着いて状況を整理してみないか?」
俺はジーンの肩に手を置いた。
とりあえず体を離して落ち着かせようと思ったのだが……。
「ひゃううっ?」
ジーンの体がびくんと跳ねた。
「わ、わりっ。触っちゃダメだったか?」
俺は慌てて手を離した。
「や、ダメじゃない。全然ダメじゃないんだけど……その、ちょっと油断してて……っ」
ジーンは俺の手を掴み、
「あと、そっちじゃなくこっちのほうが……たぶん……」
自分の肩……ではなく、背中に回させた。
「落ち着くというか……」
自然と密着感が増した。
ジーンの胸が俺の胸板でふにゅっと潰れた。
視覚的にも感触的にもとんでもないことになっていた。
「し、しかしおまえこれは……っ」
互いの心音が一気に高まる。一気に近づく。
「これでいいんだよ。このままでさ……ね? タスク?」
囁くような、ジーンの「女の子の声」に……。
「……っ」
ぞくぞくっと背筋が震えた。
もうダメだ──と俺は思った。
俺の理性が保たない。
これはたしかに、行き着くとこまで行かないと止まらない。
「……」
「……」
どちらも何も言わなかった。
互いの心臓の音と、呼吸の音だけを聞いていた。
天井に吊るされたランプが、きいきいと音たてて揺れていた。
「なあジーン、最後に確認するけどさ……」
「──脱いで」
「え」
突如鼻先に叩きつけられたジーンの言葉に、俺はぎょっとした。
「パイロットスーツだよ。このままじゃ出来ない」
「で、出来ないって……?」
俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「全部……言わせないでよ……」
ジーンの熱い吐息が、頬をくすぐった。
「悪い。俺が悪かった。ここまで来たら、俺もさすがに覚悟が出来たよ……」
「覚悟? んん? ……まあいいや、ともかくちょっと離れるからね」
ジーンは言葉通り俺から体を離すと、胸を手で隠して後ろを向いた。
「ま、待ってろよ?」
「うん、待ってる……」
俺は大慌てでパイロットスーツを脱いだ。
なんで慌てなければならないのかわからなかったが、とにかく大急ぎで脱いだ。
全部脱いでしまうと、途端に心細くなった。
風呂場で裸になるのとはわけが違う。
異性とふたりきりなのに、身を覆うものが何もないという恐るべき事実。
改めて、ジーンの勇気を思った。
だから俺は、最大限の慈愛をこめて、ジーンの背中に声をかけた。
「待たせたな、ジーン。さ、はじめようか……」
「どうしたの急にそんないい声出して……ってきゃあああああああああ!?」
「え、え? なんでびっくりしてるんだ?」
ジーンは俺の姿を確認した瞬間、全力で顔を背けた。
「誰が下着まで脱げって言ったよ!? パイロットスーツだけでいいんだよ!」
「え、なんで、どゆこと!?」
脱げって言ったじゃん!?
「儀式をするにはなるべく肌を露出して密着したほうがいいんだよ! そのほうが感応力が上がるから! だけど下まではさすがにあれだから脱がなくていいって……」
「知らねえよ! そこまで説明されてねえもの!」
男女の「あれ」じゃなく儀式のための格好だったのかよ!
てかわかりずれえよその理屈!
「恥ずかしくて出来なかったの! もう! わかってよもう! タスクの鈍チン!」
「俺のせいなのぉー!? あんなに葛藤したのにぃー!? ここでDT捨てる覚悟を決めたのにぃー!?」
「その覚悟自体を捨てなよ! バカもう! タスクのエッチ! 変態! 変質者!」
「ちょっと理不尽じゃないですかねえー!?」
「ちぇ、なんだよ……」
ほっとしたような残念なような気持ちになりながら、俺はひとまず下着を履いた。
「……もう履いた? 大丈夫?」
チラリとこちらを窺ってから、ジーンは恐る恐る体をこちらに向けた。
「……コホン、じゃあ改めて、儀式を行います。エッチで邪でふしだらなタスクくんはそこに横になってください」
「ひでえ言われようだなおい……」
ぶつくさ言いながらも、俺は大人しく従った。
気をつけするように綺麗な姿勢で横たわった。
「な……なんか大きくなってない?」
ジーンは俺の下半身を横目で見て、戦慄したような声を出した。
「あの時はこんなになってなかったのに……」
「……あの時?」
「あ……ええと、その……体の傷を確かめた時にちょっと……」
ごにょごにょ口ごもるジーン。
あー……そっか、初日の話だな?
気を失ってる俺の体を手当てしたのはガドックではなくジーンだった。
つまりこいつは俺のすべてを見ているんだ。
俺の知らないところで俺の俺の事情を確認済みだと。なるほどなるほど……。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ね、ねえ」
「……なんだよ?」
「黙ってないでなんとか言ってよ……」
「えっと……その節はお世話になりました?」
「…………………………どういたしまして」
『………………………』
ねえなにこれ!?
探るようなやり取りが超々こそばゆいんだけど!
どうするのが正解だったの!?
経験値が足りなすぎてわかんないんだけど!?
ダメだこれ、急いで精神と時の部屋で修行して来ないと!
キント雲やーい!
え、心のきれいな奴にしか乗れません!?
うるせえよ! てめえ袋で縛って綿アメみたいにして売っちまうぞ!?
胸中で絶叫する俺をよそに、ジーンは着々と儀式の準備を始めていた。
その場に正座し、ぴんと背筋を伸ばした。
胸を腕で覆ったまま、コンセントレーションを高めるかのように腹式呼吸を繰り返している。
え、なにやってんの? と確認する間もなく──
「ナーダ・コモ・エルス……」
低い声で、呪文のようなものを唱え始めた。
「リーゼ・オーム……」
ジーンの全身からオーラのようなものが放出され始めた。
水蒸気のようにゆらゆらと漂い、上に向かって上っていく。
天井に吊るしたランプの周りで踊り消える。
それは神秘的な光景だった。
いつの間にか、ジーンの両手は膝の上にあった。
つまり胸はもろに露出しているわけだが、気にする余裕もなかった。
ジーンの白い肌に青白い幾何学文様が浮かび上がるのを、奇跡を目の当たりにするような気持ちで眺めてた。
「……ラーダ」
ジーンが目を開いた。
神秘的な存在と交信しているかのような、ぼうとした目をしていた。
「生命の精霊マーテル・アデルよ。我と汝が息子に祝福を与えよ。同胞のために戦う勇ましき子に、闇の中で瞬く光を与えたまえ……」
言葉の終わりと共に、ジーンが俺の上に覆いかぶさってきた。
何をするのかと思っていたら、ぷちゅっと音を立てて吸いついてきた。
俺の──乳首に。
えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
す……吸われてる!? なんで俺の乳首吸われてるの!?
同い年の女の子に吸われてりゅのおおおおおおおお!?
こんなの絶対おかしいよおおおおおおおおおおおお!?
「……っ! ……ぐっ!? むぐぐ……!?」
口を手で押さえて、必死に声を押し殺した。
神聖な儀式の邪魔をすまいと努めた。
だけどこれは……これはさすがに……っ。
「ふううぅ……!? ああうぅっ!?」
耐えられなかった。声が漏れた。
控え目に言って、凄まじい快感だった。
ジーンの口の中は温かく、舌はわずかにざらついていた。
柔らかい唇が上下に動いたかと思うと、舌がアイスクリームでも舐めるように蠢いた。
乳首の中央を、押すようにつついた──
「ひああああああっ!?」
びくんっと背筋が跳ねた。
女の子みたいな声が口から漏れ出て、一瞬意識が飛びそうになった。
やばい! やばいやばいやばい! なんだかわからないけどすんごくやばい!
俺のアイデンティティが崩壊しかかってる!
違う何かになっちゃう! 新生タスクになっちゃううぅ!
とにかく逃げようと思って手足に力を入れた瞬間──
ジーンの手足が巧妙に動き、俺の体を押さえつけた。
柔道の達人みたいな動きだった。
体重も力もそれほどかけられていないのに、全然返せる気がしねえ。
「……んふ、愛い奴。ピクピクと可愛い反応をしよる」
ジーンは目を細くして微笑んだ。
まるで何者かに憑りつかれてるような……いや、マジで憑りつかれてんのか? こいつはジーンじゃなくて、さっき言ってた生命の精霊?
「ま……たまにはこういう役得もよいな」
どことなく典雅な、お姫様みたいな言葉遣い。
「だ……誰だおまえ!?」
「……んふ、あまりぎゃあぎゃあと騒ぐでない。のう、あまり騒がれると、狂わせてしまいたくなるではないか?」
喜悦を湛えた目で、ジーンは俺の顔を覗き込んだ。
「おまえジーンじゃないな!? マーテル・アデルとかいう奴だな!? ジーンの体を乗っ取ってるのか!? いったいどこからだよ! ……くそっ、俺のジーンを返せ!」
「……ああもう、愛い奴め──」
叫ぼうとした俺の口に、ジーン──マーテル・アデルがじゅるりと吸いついてきた。
「………………!!!!!?」
さっきと負けず劣らずの快感が襲ってきた。
跳ねのけようとしたがダメだった。
体に力が入らない。
完全に腰が抜けてる。
「た……っ」
助けて、と言おうとして顔を背けた。
だがマーテル・アデルは俺を逃がさなかった。両手で頬を挟み、さらに強く唇を押し付けてきた。
必死の抵抗むなしく、閉じた歯列を強引に割られた。舌先をねじ込まれ、唾液が流しこまれた。
甘く冷たい……例えるならぱ神酒のような液体が、食道を流れ落ちていく。
それが胃の腑まで落ちたかと思った瞬間──
「──!?」
ドクンと、体の奥から何かがこみ上げた。
白い波濤のようなものが、奥深くで生まれた。
それは徐々に勢いを増し、つま先からあたまのてっぺんまで、すさまじい衝撃を伴って突き抜けた。
「うあ……うああああぁあああぁあああ!?」
最大級の快感に襲われ、たまらずに叫んだ。
得体の知れない何かが、血中を駆け巡っている。
それは熱く、燃えるように滾っていた。
「あぁあああああああああああああー!?」
叫ぶように、吠えるように──
全身の筋肉をぴんと突っ張らせて、俺は生まれて初めての絶頂に達した──




