「ジーン特攻!!」
~~~新堂助~~~
空気浮揚艇で90キロほどを走ったところで、ちょうどいい水場に出くわした。
岩の間から湧き出した水が溜まり、大きな池のようになっている場所だった。
池のほとりには草が茂り木々が生え、オアシスみたいになっていた。
キャンプ場所を定めると、昨日と同じようにテントを張って、レーションを夕食にした。
献立はハンバーグとチリビーンズ、ビスケットにコーヒー。
昨日のものより濃い目で個人的には好みの味だったが、ジーンは終始うつむき加減で、もそもそとなんのリアクションもなく食べていた。
「……どした? まずかったか?」
訊ねると、ジーンは弾かれたように顔を上げた。
「え? え? な、なにが?」
「食事」
「……あ、え、食事のこと!? や、別にまずくなんかないよ!? 普通っ、普通に美味しいよっ!?」
ジーンはぱたぱたと手を振り、とってつけたかのように味を褒めた。
「ほらっ、ほらね!? こんなに、こーんなに! ……ふがっふぐっ……!」
証明するために無理やりかっこんで咽につまらせて、熱いコーヒーを一気にあおってのたうち回るという、ドジッ娘みたいな真似をした。
「おいおい大丈夫か? なーんか今日一日ずっと、心ここにあらずって感じだけど……」
ミネラルウォーターを手渡すと、ジーンは喉を鳴らして飲み干した。
口元をぬぐってひと息つくと、しみじみとつぶやいた。
「う……うん、そうかもしれない。さすがに緊張しててさ」
緊張……か。
「なあ、その儀式とかいうの、そんなに大変なもんなのか? 嫌ならやめても……」
「ダ……ダメだよ!」
食い気味にジーンが叫んだ。
「ダメ! 絶対ダメ! そうでもしないとボク負けちゃうし!」
「負ける?」
「あ、いや………………なんでもない」
ジーンの目が泳いだ。
「いやいや、なんでもないってことないだろ。今明らかにおかしかっただろ。なあおい、いったいなんの勝ち負けなんだよ」
「……っ」
ジーンは俺の顔をしばし見つめたあと、
「……すぐわかるよ」
言葉を濁してうつむいてた。
その後は黙々とスプーンを口に運んで、俺と目を合わそうとしなかった。
「しっかしいったいなんなんだろうな。ジーンのやつ……」
夕食後、テントで横になりながら、ジーンが入って来るのを待っていた。
──水浴びしたら行くから、起きて待っててね。……絶対寝ちゃダメだよ?
怒ったような照れたような微妙な色合いの表情で、ジーンは池のほうに消えた。
「水浴びして穢れを払うってことは、それだけ神聖な儀式だってことだよな?」
そう考えると、なんだか緊張してきた。
「そうだよな。エーテルを使えるようにするってことは、内なる力に目覚めさせるってことだもんな? 少年漫画的に言えば『力ガ……欲シイカ?』とか『主人公、覚醒!』みたいな感じだもんな? うひゃー、盛り上がってきたぜー」
俺は上体を起こすと、顔をゴシゴシ擦った。
「どーしよどーしよ……じゅ、準備運動でもしとくか? アキレス伸ばしとく?」
変に緊張してしまって気持ちの持って行き場がわからなくなって、俺は意味なくストレッチを始めた。
「いちに、さんし。にいに、さんし……お、来たか? ジー……」
テントの入り口がめくれた音がした。
振り向いた俺の目の前に、ジーンが立っていた。
「………………ん?」
ショーツ一枚というあられもない格好で。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!?」
俺は思わず大声を上げた。
「なああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんでええええええええええええええええええええええええええええー!?」
いやマジで、ジーンはショーツ以外なにも身につけていなかった。
上から下まで肌を露わにしてた。
胸元だけを手で隠してて、どこのグラビアアイドルだよみたいな格好だった。
天井に吊るされたランプの投げる明かりが、ジーンの仄白い肢体を艶めかしく輝かせていて……。
生唾ゴクリの光景で……。
「どうしてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええー!?」
絶叫を止めようにも止められなかった。
「ちょ……うるさいっ! うるさいよっ!」
ジーンは顔を真っ赤にして声を荒げた。
「静かに! 静かにしてよ! 恥ずかしくなっちゃうよ! もともと恥ずかしいのがよりいっそう恥ずかしくなっちゃうよ!」
「いやだっておまえ、そんなこと言ったって、これが騒がずにいられるか! だっておまえだっておまえ……ほぼ裸だぞ!? 肌のほとんどが見えてんだぞ!?」
「うるさいよ! ほぼ裸だけど裸じゃないもん! きちんと履いてるもん!」
涙目でパンイチを主張するジーンだが……。
「いやいやいや、むしろ一枚ある分いやらしいって! わずかな布地の絶妙な色つやとか皺の寄り方とかそこに直結する太もものもじもじっぷりだとかにさあ、俺の俺はいちいち感動しきりだよ!」
「そこまで観察しなくていいよ! まったく無関心だとそれはそれで傷つくけど、そんなに見られると恥ずかしくて泣きたくなるよ!」
「泣きたくなるくらいならしなきゃいいだろ!?」
「うるさいよ! キミがやれって言ったんじゃないか!」
「言ってねえよ! パンイチになっておもてなししろとか、俺はどこの王侯貴族だよ!」
「言ったよ、言った! あのね、もう手遅れだからね!? 後戻りなんか出来ないから! ボクはもう、行き着くとこまで行かないと止まらないから!」
言葉通りというか、ほとんど体当たりするような勢いで、ジーンは俺を突き飛ばした。
さすがに不意をつかれた俺は、たまらず尻もちをついた。
「……ちょ、ジーン!?」
動揺する俺に飛びつくように、ジーンが抱き付いてきた。
投げ飛ばすわけにもいかないので受け止めた。
「うお……っ?」
天使みたいに可愛い相棒が、すっぽりと俺の腕の中におさまった。
ほぼ全裸だった。
うなじ、胸、腹、太もも、小さなお尻にいたるまで、ほとんど隠すものはなかった。
いい香りがした。くらくらした。
もとからある彼女の体臭に、ムスク系の香料が混ざったような香りだった。
「……タスク」
覚悟を決めたような声が、耳元でした。
「もう、手遅れだから……」
つぶやくと、彼女は俺の首筋に鼻先を埋ずめた。
「……ううっ?」
ゾクリと、背筋に寒気が走った。
気がついたらブレーキのきかないトロッコに乗っていた、そんな気分だった。
戸惑いながら俺は、彼女の肩に恐る恐る手を置いた──




