「荒野の2人!!」
~~~新堂助~~~
タイヤ車でなく空気浮揚艇がガリオン号に積載されてるのは、なんといってもその走破性の良さからだ。
50センチほど空中に浮いているので、細かな石や地割れをまったく無視することが出来る。
反重力推進機関搭載の車に比べれば燃費もいいし、現実的な選択ってわけだ。
え、そもそもおまえ免許はあるのかって?
ないよ。ないけど、日本の現行法だとホバーを地上で走らせる場合は私有地なら免許必要なし。公道は不可となってる。
ここが公道には見えないし……ジャンゴの法がどうなってるかはわからんけど、たぶんいいんじゃねえかな?
「──私がその地で初めに訪れたのは、メフィオという名の街だった。山の麓にこびりついたコケのような街で、山に当たって降るわずかな雨と、地下からくみ上げる水を頼りに、人々は細々とした生活を送っていた」
俺の葛藤はさておき、ジーンはロキ・マグナス著の「外惑星探検記」の一文を読み上げていた。
座標に高度などの数字まで細かく記されているので、非常に頼りになる。
航法コンピュータに数字を打ち込むと、現在地からメフィオまでの距離とルートが表示された。
それによると……。
「315キロか、けっこうあるなあ……。うーん……あと3日……ぐらいはかかるかなあ」
なにせ初めての星の初めての地勢だ。全速力でわき目もふらず、というわけにはいかない。
安全マージンを考えるなら、休息を充分とって1日に100キロ。そんなものだろう。
「3日かあ……」
ジーンはちょっと不満そうにしていたが、すぐに気を取り直したように笑顔になった。
「まあいいか、その間ジャンゴの景色を楽しめると思えばね!」
いったんは前向きにこの状況を受け入れたジーン。
窓を開けて「ひゃっほー!」と叫んだり、奇妙な形の岩を見つけては「あれあれ! ドラゴンみたい!」と指さしたり、わずかな緑の植物の下にいる生物を見つけては「あ! オウカンサソリ! あれはね、サソリに似てるけどサソリじゃなくてね……」とロキの本から受け売りの知識で解説したりと、なんやかや楽しんでいた。
……最初のうちは。
「どうしたジーン? 元気ないな」
急に静かになったジーンに声をかけた。
「いやあその……なんというか……あまりに代わり映えしなくて……」
てへへ、と照れるように頭をかくジーン。
ジャンゴは基本乾燥した土地で、植物はあまり生えていない。
大地は鉄分を含んだ砂のせいで赤茶けている。
風による風化や雨季に降る雨で浸食されて、深い渓谷や山間台地が形成されている。
要は、行けども行けども岩、山、ちょっとの緑、ぐらいの風景になるわけだ。
飽きるのも無理ないか。
「個人的には西部劇みたいで燃えるがね」
いかにもジョン・ウェインが悪漢と殴り合いしてそうな光景だ。
「西部劇?」
ほへ? という顔でジーンが俺を見た。
「そうか、こっちでは西部劇ないんだなあ……いやまあ、あるわけないっちゃないんだけど……」
俺は西部劇のなんたるをかいつまんで説明した。
新大陸発見から始まって、植民、ゴールドラッシュ、大陸横断鉄道の開通。
地球最後の秘境を生きるガンマン、カウボーイ、インディアンに騎兵隊……。
「すっごーい! すごいね! 西部劇! ならず者! コイントス! 列車強盗!」
ジーンはよほど琴線に触れたのか、もっともっとと西部劇の話をせがんだ。
俺は覚えてる限りの知識を教えた。
それはけっこう膨大な量だったが、なにせ時間はいくらでもあった。
夕方になると、もともと赤茶けていた空の色がぐっと濃くなった。
空全体が、血が燃えるような赤に染まった。
「うわあ……」
ホバーを止めると、ジーンは呆けたようにその光景を眺めた。
金色の髪に、白い肌に赤みが差した。
天使のように綺麗だった。
「どしたの、タスク? 降りるの?」
ホバーを降りた俺に、ジーンがついて来た。
「暗い中での運転は危ないからな。今日はここまでだ。さ、キャンプを張るぞ?」
「キャンプ? キャンプ? 初めてだ! やった、すっごーい!」
ジーンは飛び跳ねて喜んだ。
簡易テントを広げ、携帯コンロでお湯を沸かした。
食事は米軍のレーションだ。
レトルトのビーフステーキ、スナックパンにビスケット。
ココアもついてたので、お湯で溶かして飲んだ。
「そんなに美味いもんでもないがな」
「ううん、そんなことないよ! 最高! 最っ高だよ!」
初めて宇宙食を食べた人、みたいな感じで、ジーンはいちいち楽しそうにリアクションをとってた。
「楽しい! 楽しい! もう最っ高!」
つい何時間か前まで飽きて静かになってたやつと同一人物とは思えないご感想。
とはいえ、喜んでくれてなによりだ。
ジーンの初冒険をつまらないものにしたくはないしな。
テントに入ると、並んで横になった。
俺は毛布、ジーンはシュラフで。
「ねえねえタスク、続き! さっきの続きをもっともっと! 『この町では俺が法律だ』のところから!」
「おう、賞金稼ぎのリーガンはだな……」
「くうー……」
「早っ! 寝るの早っ!」
疲れが溜まってたのか、ジーンは速攻で寝落ちした。
「昨日今日で色々あったから、まあ無理もないっちゃないんだが……」
拍子抜けしながら、だけど疲れてるのは俺も同じだった。
ジーンの頭を撫でてから、一緒になって目を閉じた。
その晩、俺は夢を見た。
暗い中、いくつもの小さな光が瞬いていた。
星空ではなかった。
暗中に浮遊している自分の周りを、無数の光の玉が取り巻いているような感覚だ。
熱や痛みは感じない。
手を伸ばしても掴めない。
ぎりぎりのところを、弄ぶように舞っていた──
翌朝そのことを話すと、ジーンは驚いたような顔をした。
腕組みをして、考え込むように顔をうつむけた。
「そっか……タスクはまだなんだっけ……」
「まだ? 何が?」
「ケルンピアでは、小さい時にママがやってくれることなんだけど……」
「ママがやる? 何を」
「や、その……儀式的なあれなんだけど……」
ごにょごにょと、言いづらそうにしていた。
「エーテルの使い方に目覚めさせるというか、教え込むというか、悟らせるというか……」
「なんだよそれ、そんなお得なのがあるの? その儀式を行えば、俺にもエーテルが使えるようになるの?」
「や、その……そうとは限らないんだけど……素質とかもあるしさ……」
「やってくれよ」
「え」
「ジーンには出来ないのか? その儀式」
「え、出来るけど……え、えっ?」
ジーンは明らかに動揺している。
ちょっと声が震えてる。
「やってみなきゃ素質があるとかないとかわからないじゃん。だからやってよ」
「で、でもでも、ええぇえ……?」
ジーンは顔を真っ赤にして口元を押さえた。
「ボクがタスクに……あんなことを?」
「なんだよ、そんな恥ずかしいことなのか? お袋さんがやってくれたのに?」
「恥ずかしってわけじゃ……いやでも……ううん……」
もごもごと煮え切らないジーン。
「なあ頼むよ。俺、今回のことでわかったんだ」
ジーンの手を両手で掴むと、ジーンは「ひゃっ!?」と驚いたような声を出した。
「俺、このままじゃいけないんだ。相手が規格外に強すぎて、武術だけじゃ太刀打ちできない。大佐に勝てたのだって、ギリギリ手の届く範囲にいてくれたからだ。もし大佐がリスクジャンキーでなく、冷静に勝負を決めに来る奴だったら負けてた。遠くから光線銃を連射されるだけで、俺にはもう手に負えねえ」
「う……」
「今後も似たようなことがあるかもしれねえ。情け無用のテロリストに襲われるかもしれねえ。そん時に、やっぱり手も足も出ませんでしたじゃ困るんだ。俺はあいつらを守るために、もっと強くならなきゃいけねえんだ」
「あいつらって……」
ジーンは考え込むようにつぶやいた。
「タスクのお嫁さんたちのことだよね? ふうーん……ずいぶん大事なんだね」
なぜだろう、ジーンの声のトーンが急激に下がった。
「………………いいよ、別に」
「おお、じゃあさっそく!」
「でも今はダメ」
ジーンは断固とした口調で遮った。
「じゃ、じゃあいつならいいんだ?」
「夜。暗くなってから」
強い眼差しを俺に向けた
「水場を探そう。今日はそこでキャンプを張るんだ」
「指定があるのか……なんだ、けっこう大がかりなものなのか?」
「大がかりってわけじゃない。でも……」
ジーンは目を伏せ、聞こえるか聞こえないかぐらいの声でつぶやいた。
「体を……清めたくて……」




