「未開の荒野へ!!」
~~~新堂助~~~
人のほうはなんやかやで無事だったが、船のほうはそういうわけにもいかなかった。
さんざん無茶な扱いをした結果、ガリオン号の船体はあちこち痛んでた。
メインシャフトに歪みはなく、つまりぎりぎりセーフだったが、外殻や内装の各所に亀裂が走っていた。
電装系や配管関係の短絡に関しては目を覆うばかりだ。
「まあ備え付けの部材で補修が効くとこはいいんだか……」
全体のチェックを終えたガドックは、沈痛な面持ちで現状を説明してくれた。
「問題は燃料だな。エーテルペレットの格納チャンバーの口が圧壊してる。専用の工具でもなきゃペレットを取り出せねえ」
「げ」
「え、え? どういうこと?」
状況の深刻さに気づいていないジーンは、俺とガドックの顔を交互に見ている。
「簡単に言うとだな、ジーン」
ジーンの肩をポンと叩いた。
「燃料不足だ。ガリオン号は飛べない」
「え……だ、だって、そういう時のために予備があるんじゃないの?」
たしかにその通りだ。
こういったタフな扱いを求められる船は、何段階もの安全策をとるのが普通だ。
ガリオン号には、メインのエーテルトロンエンジン以外にふたつのエンジンが搭載されている。
ひとつがサブのエーテルトロンエンジン。反重力スクリーンや反重力推進ユニットなど、メインエンジンが起動していない時でも最低限の船の安全を確保するためのエンジンだ。
もうひとつが緊急供給システム。強磁場でエーテルを吸着し、濾して不純物を取り除き、攪拌して液状にして使用するというものだ。
どちらも長距離の航海用ではないが、ケルンピアへ戻るだけならなんとかなる。
だけど前者は前にも言ったように補充忘れで燃料切れであり、後者は……。
「大気中からかき集めるのにちぃとばかり時間がかかるな。2週間か3週間か……」
「マジかよぎりぎりだな」
「ホント!? やったあー!」
「おいこら」
「痛だだだだだ……!? 痛いよ! やめてよタスク!」
喜びの声を上げたジーンのこめかみをグリグリしてやった。
「うるせえ! この不届き者め! 大ピンチを喜びやがって!」
「だってだってだってー! ピンチなのはタスクだけだろ!? ボクにとっては渡りに船だもん! ジャンゴを楽しめるし、ロキ爺ぃを探せるし!」
「だからってやったはねえだろうがやったは!」
「あ痛たたたた……!? ううう……暴力はんたーい! タスクは何かと暴力で解決しすぎだよおー!?」
涙目になるジーンに教育的指導を施しながら俺は、これから先のことを考えていた。
星穹舞踏会開催まで3週間ちょっと。
その間、しなければならないことはいくつもあった。
食料の確保、水の確保、各種補修部材の中で不足しているものの確保。
船が無事飛び立つためには、実際問題としていくつも越えなければならない関門があった。
そのためには街へ行かなければならない。
そのためにはジャンゴを旅しなければならない。
大きな街だったらロキを知る者がいるかもしれない。
いちいちジーンの思惑通りだ。
「ね? ね? やむを得ない事態だろ?」
俺の心中を見透かしたように、どや顔マックスなジーン。
むかつくほどに可愛い相棒の頭を掴んでグシャグシャにしながら、俺は諦観のため息をついた。
ガリオン号に積載されていたふたり乗りの空気浮揚艇に、ジーンと一緒に乗りこんだ。
ジーンは助手席、俺は運転席。
後部荷台には水と食料、シュラフに毛布など、当面の旅程に必要な物が載っている。
復路においてはそのほとんどが空になり、調達物資を満載している予定だ。
「それじゃ気ぃつけていけよおまえら。くれぐれも無茶はすんなよ?」
技術部分を一手に引き受けるガドックを置いて、比較的手の空いてる俺らふたりが出かけることになった。
「わかってるよガドック。俺らを誰だと思ってるんだよ」
「そうそう」
「おまえらだから心配なんだがな……」
「ええー、なんでだよー」
「ぶーぶーぶー」
俺に合わせてジーンがブーイングする。
ちなみにジーンにも俺らと同じパイロットスーツを着てもらった。
ガンマンスタイルも可愛いけど、過酷な環境を想定して造られたパイロットスーツのほうがこれからの冒険に適してると思ったからだ。
ホルスターはその上からしてもらった。借りてた光線銃も返して、今は精霊銃と合わせて本来の二丁体勢だ。
「……やれやれ」
ガドックは忌々しげにかぶりを振った。
「つくづくオレもヤキが回ったもんだぜ。だが残念なことにな、おまえら以外にいないのも事実だ。向こうとの連絡はとれねえし、ってことは救援の来る可能性もねえし。戻る気があるんなら自力でやるしかねえ。背に腹は変えられぬ、毒を喰らわば皿まで、死出の旅路は死神と共に。オレらの命は、いまやおまえらの肩にかかってる」
「大船に乗ったつもりでいてくれよ」
「そうそう、ボクらに任せてっ」
ノリノリな俺たちに、ガドックはしかし、厳しい眼差しを向けた。
「言っとくが、こいつは遊びじゃねえんだぞ? てめえらがいつもこねくり回してる冒険者ごっこの類とは違うんだ。生きるための必死のあがきだ。夢も願いも入り込む余地はねえ。天候も植生も、長居するにはここは未知すぎる。危険な動物がいるかも知れねえ、危険なウイルスが潜んでるかも知れねえ。外惑星の果ての果て、ジャンゴなんだからな?」
「だからこそだろ? 行くも地獄、留まるも地獄なら、行くだけだ」
「あのなあ……」
さっぱりした俺の台詞に呆れるガドック。
「待って、待ってよっ」
ジーンが口を挟んできた。
「ジャンゴが未知の惑星だなんて、誰が言ったのさ」
小脇に抱えていた本の表紙をポンポン叩いた。
──外惑星探検記。著者:ロキ・マグナス。
「既知の星だよ。臆することなんてないさ。ボクらには、ロキ爺ぃの知識と経験がついてるんだ」
自信満々なジーンの態度に、ガドックは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……てめえのバカが一番のウイルスだよ」
悪態をつくと、ひらひらと手を振った。
「ま、せいぜい目に物見してやるさ」
遠ざかるガドックの背中を眺めながら、俺はホバーのセルを回した。
エンジンのかかる音がした後、上に向いた吸気口から「フィィィーン」と大量の空気が取り込まれ出した。
取り込まれた空気はスカートの下から排気され、ホバーを地上から浮かせた。
すかさずギアを入れると、ホバー後部のプロペラが回転し、推進力を生み出した。
ぐいっと、ホバーはいきなり前に進んだ。
地面との摩擦がない分、車輪付きの車よりもスムーズな出だしだった。
「……なあ、ジー──」
「なんだい? タスク」
俺の呼びかけに、ジーンは食い気味に答えた。
満面の笑みをたたえた顔を俺に近づけた。
「……わかるか? ここがジャン──」
「わからないと思うのかい? タスク、ここはさ……」
以心伝心。
俺たちは同時に空を見上げた。
そこにあったのは青空じゃなかった。
赤茶けた大地を反射したような、くすんだ空の色だった。
見下ろせば、わずかな緑が申し訳程度に生えていた。
緑の中に、小さな謎の生き物が蠢いていた。
じっと俺らを観察してた。
怖さとかはなかった。
ひたすらにワクワクした。
「へ……」
「へへっ……」
ふたりとも笑ってた。
そうだ、この開放感と高揚感。
これこそが、俺たちが冒険者になりたい理由なんだ。
「行くぞジーン」
「うんっ、タスク」
頬を緩めながら、俺はアクセルをいっぱいに踏み込んだ。
いざ──
『冒険の大地へ──』




