「Knockin' on heaven's door!?」
~~~ジーン~~~
目を開けると、船内には闇が満ちていた。
計器類やモニタの放つ光だけが、わずかに闇を薄めている。
青、緑、黄色。中でも一番激しい輝度を示したのが赤だった。
何度も瞬いていた。耳障りなアラートを伴い、危険シグナルを発していた。
(危険……何が……?)
ジーンは床に横たわっていた。
全身に力が入らない。
どこかにぶつけたのか、体の節々が痛い。
痣くらいはできているかもしれないが、骨を折ったり血が出たりというような感じはない。
(あれ……なんで……なにが……?)
自分の置かれている状況が理解できない。
思い出そうとしてみるが、頭に薄い膜がかかったようで、うまくイメージを結べない。
(えっと……あのあと、船が次元の穴に飛び込んで……)
次元渡りの際に発生した衝撃波が船を襲った。
反重力スクリーンを展開出来なかった船は、もろにダメージを受けた。
ジーン自身も上下左右へ激しく揺さぶられた。
(……見たことのない空に出たんだ。下には広大な大地が拡がってて……それが一瞬だけ見えて……。あとは船が……不時着して……あれ? なんでボクは、この程度で済んでるんだろ……?)
ふと気がついた。
ジーンが横たわっていたのは床ではなかった。柔らかい何かの上だった。
といって、シートでもない。
じゃあなんだろう。
コックピットに、他に柔らかいものがあったような覚えはない。
(なんだろ、これ……?)
適当に手が触れたところをいじってみた。
ぐにぐにしてる部分とさらさらしてる部分があった。全体的に丸く、凹凸があった。
熱かった、高い熱を発していた。
暗闇に目が慣れてきた。
その物体に、ジーンは覚えがあった。
ふわふわ明るい茶色の髪と、きらきら好奇心に満ちた黒い双眸。
ジーンと同じ夢を語る、色の薄い唇。
赤いパイロットスーツを着た少年──
「……タスク?」
掠れる声で、ジーンはタスクの名を呼んだ。
「ねえ、タスク? 大丈夫? ねえ、なんでボクの下に……え……ボクを守って……っ?」
何度も呼びかけるが、タスクは反応を示さない。
ぺたぺた頬を触ると、驚くほどに熱い。
「熱っ……? なんでこんなに……!? なんで……!?」
ようやくジーンは思い出した。
あの時、精霊銃の生んだ気流で吹き飛ばされたジーンを、タスクは自分の体を盾にすることで守ってくれた。
大佐との戦いでさんざんに痛めていた体を、さらに様々な硬いものにぶつけながら、でもジーンを放そうとはしなかった。
「タスク!? ねえ、タスク!?」
返事はない。
呼吸をしてはいるが、浅く早い。
「起きて! ねえ、起きてよタスク!」
パニックに陥ったジーンはどうしていいかわからず、とにかく起こそうとタスクの体を揺すった。
「どうしたらいい!? どうしたらいいの!?」
背後でバタンと扉が開く音がした。
「おいジーン、やめろ、それ以上動かすんじゃねえ」
ガドックだった。
配電盤を操作してコックピットの明かりをつけると、ふたりのところへやって来た。
「……全身打撲に裂傷、手の皮の剥離……。骨折……はしてねえみてえだな。丈夫な奴だ」
ジーンをどかしてタスクの傍に座ると、ガドックは素早く容態をたしかめた。
「おいジーン。こいつ、頭は打ったか?」
「わかんない……タスクがボクの頭を抱きしめてくれたから……」
「ちっ……どこまでもどこまでもな奴だな……ったく」
舌打ちすると、ガドックはジーンに指示を出した。
「ここじゃ何もできねえ。とにかく医務室に連れてくぞ。おいジーン、手伝え。肩貸せ」
「う、うん……っ」
タスクの体を起こし、ふたりで支えた。
「ちなみにこれから治療を行うわけだが、処置はおまえに任せるからな? オレの腕はほれ、このとおりだ。一時的なもんだろうが、麻痺しちまってて動かねえ」
言われてみれば、ガドックは片腕をだらりとぶら下げている。
「なるほど、片手じゃ治療は出来ないから……って、えええぇ!? ボクがやるのぉお!?」
驚きのあまり理解の遅れたジーン。
「他に誰がいるんだよ。大丈夫だ、オレが全部指示してやる」
「だ、だけどボク……っ。そんなの一度もやったこと……っ」
そわそわと落ち着かなげなジーンに、ガドックは鋭い目を向けた。
「こいつが死んでもいいのか?」
「し……死ぬっ!?」
ジーンはひっと息を呑んだ。
「いいのか?」
「や、やだよそんなのっ」
ガドックが重ねて聞くと、ジーンは必死な面持ちで答えた。
「タスクが死ぬなんてやだ! 絶対やだ!」
うううう……、と犬のように唸った。
「わかったよ! 絶対タスクを死なせない! このボクが! この腕で! しっかりきっちり治してみせる!」
ぶんぶんと意味もなく片腕を振り回している。
「……あれ、ちと薬が効きすぎたか?」
ガドックは首を傾げた。
「なあジーン。やる気を出してくれたのはありがてえんだけどよ。そこまで気合入れなくていいからな? 治療ってのは気合でするもんじゃねえから。むしろ感情とかは邪魔だから」
「大丈夫! 任せて! わかってるから!」
鼻息荒いジーンの目は、必要以上にギラギラと輝いている。
「このボクが! 機械のような正確さと氷のように冷静なハートで! タスクの傷を治してみせるから!」
「……ああうん、全然わかってねえなおまえ」
ガドックはハアとため息をこぼした。
「思い込みが激しいっつうか……そりゃあんだけ暗示にかかりやすいのも納得だわ」
「うおおおおおー! そうとなったら早く行こう! ほらガドック、気合入れて足を踏み出して!」
「気合いはいいんだが、おまえこいつが病人ってこと忘れてねえよな?」
「忘れてないよ! バッチリ理解してるよ! ほらほら早く! 医務室までもうちょっとだよ!?」
「……なあ船長、ドアの先が医務室でなくあの世だったとしても、恨むなよ?」
ガドックは意識のないタスクに、哀れむような目を向けた。




