「ダブル・ダウン!!」
~~~新堂助~~~
「よし、プランはこうだ。現状は地面に固定された架台が邪魔で、反重力推進ユニットじゃ浮上出来ない。メインエンジン臨界を待って、架台を無理くり引き抜きながら発進。連中を上空からハチの巣にしてやろう。ガドックには銃手を頼む」
「おう、思い切りがいいね。地上で主砲は使えねえからな。機銃でいくぞ?」
言うなり、ガドックは船体上部にある銃座に走った。
さすがは歴戦の船乗り。判断も行動も迅速だ。
一方ジーンは、主操縦者席に座る俺の隣に座った。
副操縦者席から、じ~~~~~っと熱烈な視線をおくってくる。
「う、ううむ……見てるね、ジーンくん」
「うんっ。言われた通り、お兄ちゃんの勇姿を脳裏に焼き付けてるからねっ」
両の拳を握って意気込むジーン。
俺のかけた魔法の言葉が思い切りきいていて、お兄ちゃん呼びをなんの抵抗もなく受け入れている。
しかしなあ……。
催眠術にかかりやすいタイプというか、訪問販売に騙されやすいタイプというか、ダメ男に引っかかりやすいタイプというか。
なんとも将来が不安な女の子だ。
しかも大統領の娘で、羽根のない天使みたいに可愛いときてる。
やっぱり俺が色々と(性的な意味でも)面倒を見てやらんといかんのだろうなあ。
やれやれだぜ(歓喜)。
──船長、こっちの準備はいいぞ!
スピーカーからガドックの声が流れてきた。
にやにやと妄想に浸っていた俺は、慌ててメインコンソールに向き直り、メインエンジンと火器管制を立ち上げた。
バコンバコンとガリオン号の外装が開き、左右合わせて8丁の機銃が出て来た。上部銃座と合わせて12丁だ。
「……おお! いいねいいねー、いかにも戦闘態勢って感じだ! さあガドックくん、迎え撃つのだ! これ以上一歩たりとも敵を近づけるな!」
──へっ、ノリノリだな船長!
「当ったり前だろ! 戦闘に女の子に、世の中は楽しいことだらけだぜ!」
──はああー? わけわかんねえよ!
「うるせえ! とにかく撃て! ぶっ放せー!」
ガドックとタイミングを合わせた。
12丁の機銃が同時に火を噴いた。
まっしぐらにこちらに向かってくる装甲車に命中し、ボディから火花が散った。
「タイヤを狙え! 動きを止めるんだ!」
──OK船長!
機銃の火線を装甲車の足元に向ける。
と。
装甲車の天面で何かが動いた。
装甲板でカバーされた銃座がせり上がってきた。
「そっちも機銃か!? バーカ! そんなもんでガリオン号の外殻が破れるかよ!」
──違う! 対戦車ミサイルだ! 来るぞ!
「え?」
銃座から放たれたのは銃弾ではなくミサイルだった。
火を噴きながら飛翔し、架台に固定されていて動けないガリオン号の前面に命中した。
HEAT弾により生じた爆轟波が一点に凝集し炸裂した。
ズズゥーン……と、船体が揺れた。
ジーンが「きゃあぁっ!?」と悲鳴を上げて俺の腰に抱き付いてきた。
──ダメージは!? 船長!
機銃の掃射を続けながら、ガドックが聞いてくる。
俺は機銃をオートモードで撃ちっぱなしにしながら、機体各所のダメージを探る。
外装、内部諸機関、各種電子機器、油圧関係、諸々異常なし……。
「OK! 全然大丈夫だ! あーっはっは! こちとら次元を渡る船だぞ! そう簡単に撃ち落とされるわけにいくかよ!」
──調子に乗ってねえでとっととデフレクターを起動しろ! 第二弾、来るぞ!
「え?」
再び対戦車ミサイルが飛んできたが、今回はガリオン号のデフレクターシステムによる反重力スクリーンを展開出来ていたおかげで、直撃は避けられた。
ミサイルはガリオン号の前面20メートルほどのところで不可視のスクリーンに遮られた。爆発によって発生した衝撃波は、すべてスクリーンに沿って拡散して消えた。
「ふうー……ひやひやさせんなよったく……」
3発4発と飛んできたが、同じように反重力スクリーンが防いでくれた。
しかし連中は諦めず、さらに5発6発と撃ち込んできた。
「おいおい、いったい何本撃つ気なんだよ。戦闘は火力とでもいうつもりか?」
デフレクターシステム起動中は、こちらから攻撃することができない。
この場から動けない以上、メインコンソールをにらみつけるしか俺にはすることがない。
「………………あれ?」
反重力スクリーンの強度を表すバーの緑色が、みるみるうちに減っていく。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「や、その……」
戸惑ううちにもバーはどんどんと減っていき、色が緑から黄色、ついには危険域である赤へと突入してしまう。
けたたましいアラートが鳴り響いた。
「なんのアラートだ……? げ……っデフレクター用のパワーリザーバーが燃料切れだと!? だからかよ! そういやこっちに渡ってきてからまだ給油してなかったんだこの船!」
「え!? え!? え!? 切れたらどうなるの!?」
「そりゃもちろん……反重力スクリーンの強度がなくなって、最終的には展開そのものが出来なくなって……ミサイルがもろに……」
直後。
2発まともにくらい、船体が揺れた。
パシンパリンと、何かが弾けるような音が響いた。
それが連続し、船全体に響き渡った。
──キィィィィィィイィィィン
「うぉわ!? なんだこれ! なんだこれ! なんだこれ!?」
脳に強烈な電流のようなものが走った。
「きゃあああああ!?」
ジーンが悲鳴を上げた。
──畜生! 二度打ちだ! HEAT弾の直後にEMP弾をくらった!
スピーカーから聞こえるガドックの声がひび割れている。
「EMP弾だと……!? じゃあこれって、電磁パルス攻撃!?」
高レベルのサージ電流を発生させて電子機器を殺す。それがEMP弾の原理だ。
もちろん、大気圏を突破し、時に大量の宇宙線を浴びることのある宇宙船がEMPの防護措置をとらないことなどあり得ない。EMP弾は本来、地上の施設破壊等に使用される兵器なのだ。
なのだが、ガドックの言葉の通りならば、連中はHEAT弾で外殻を削ったところにEMP弾を撃ち込むことで、サージ電流を通したらしい。
「練度高すぎんだろ! どんだけ優秀な部隊なんだよ! って……げげ……っ!? 火器管制が死んだ……!?」
俺は思わず頭を抱えた。
ガリオン号の武装すべてを電子的に管理している火器管制が一時的にハングアップした。操作してもなんの反応も示さない。
「仕方ねえ、メインエンジンは……って、こっちも調子悪いのかよ! 臨界10分だって!? 最初より時間延びてんじゃねえか! 正気かよ!」
装甲車からバラバラと兵士たちが降りてきた。
ふたりがかりで重そうな箱を運んでるのがいるが、おそらく中身は爆薬だろう。
効率よくガリオン号を破壊するつもりなのだ。
鹵獲とか考えないあたりがさすがはテロリストってとこか。
──くそ……っ、くそ……っ!
さすがのガドックの声にも焦りが見える。
──仕方ねえ、直結でいく! 船長、5分稼げ!
機銃を火器管制から切り離し、手動で操作する旨を伝えてきた。
5分……5分ねえ……。
「へっへっへ……言ってくれるじゃねえかガドックさんよう……」
腰にしがみついていたジーンを引き離すと、主操縦者席から降りた。
「味方の反撃準備が整うまでの間、完全武装の兵士たち相手に時間稼ぎ? いいねえそのシチュエーション。なんとも滾るぜえ……」
不安そうな顔をしているジーンに手を差し出した。
「おいジーン、銃貸せ」
「へっ……? な、なに!? なにすんのお兄ちゃん!?」
「ちょうどいいや。ジーンに見せてやるよ。お兄ちゃんの一番かっこいいとこ」
口元が緩んだ。
喜びが湧き上がってくる。
笑いをこらえようとしてもこらえきれない。
そうだ。これから俺が行うのは……。
「──白兵戦だ」




