「ワイルド・ガールズ!!」
~~~御子神蛍~~~
スキンヘッドのデブが両手を拡げ、正面から威圧してくる。
金髪モヒカンとライオンへアが左に、偏向グラスとトウモロコシヘッドが右に広がった。
私を半包囲しようというのだろう。
武器に関しては、スキンヘッドが素手、金髪モヒカンがチェーン、ライオンヘアが電磁警棒、偏向グラスが光線銃、トウモロコシヘッドがナイフ。
チェーンとナイフはともかく、電磁警棒や光線銃はやりづらい相手だ。
電磁警棒は竹刀を打ち合わせた瞬間に電流を流されるし、光線銃はいわずもがなの飛び道具。
──と、考えるだろう。
普通ならば。
だがあいにくと、私は普通ではなかった。
「よおー、おっぱいのでっかいおねーちゃん。そんな棒きれ捨てて、オレたちと遊ばない?」
「そーそー、こっちにゃ光線銃まであるんだからさ、おねーちゃんに勝ち目はないぜ?」
「痛いのよりは、気持ちいいのがいーでしょ?」
「お、おではあっちのコのほうがいいんだな……」
「デンゴローにはあとでいい思いさせてやるからよ。いまはちっと我慢してな」
果たして、男たちは余裕しゃくしゃくで近寄ってきた。
「……」
私は改めて竹刀を握り直した。
すうー……っと、息を深く吸い込んだ。
脇を絞った。双眸を強く引き絞った。
雑念が消えた。
頭の中にいくつもの、理想の剣線が浮かび上がった。
「どしたん? おねーちゃん、黙りこくっちゃって」
「怖くて喋れなくなっちゃった?」
「やん、かわいーっ」
いかにも緩んだ表情をした男たちが、私の間合いに無造作に踏み込んだ。
瞬間──
「キェェェアァァァアー!」
気合一声、突っかけた。
緩みきっていた男たちは、反応すら出来なかった。
偏向グラスの小手を打ち、そのまま剣先を持ち上げ、下から顎を打ち上げた。
光線銃が地面に落ち、偏向グラスは後ろへのけぞり、そのまま倒れた。
「な……っ!?」
「なんだなんだ!?」
続けてトモウロコシヘッド。
両手にナイフを持ったまま棒立ちになっている。
構わず、物打ちで思い切り横面を打った。
ゴギリという音とともに、横倒しに地面に倒れた。
ふたり目を倒したところで、ようやく衝撃から立ち直った男たちが動き出した。
ライオンヘアが電磁警棒を振り上げ、正面から振り下ろしてきた。
金髪モヒカンがチェーンを振り回し、外側から私の足を狙ってきた。
普段からコンビで動いているのだろうか、タイミングの合ったいい攻撃だ。
だが──
「秘伝、鳴神──」
残像を残すほどの速度で私は移動し、ふたりの背後に回った。
「……え」
「なぬ……っ?」
私の姿を見失ったふたりの後頭部を、容赦なく打ち据えた。
「お、おおおおおあー!」
デブ──デンゴローが奇声を上げながら革のツナギの前をはだけた。
何かと思えば、電極が無数についた黒いベストを着こんでいた。
「百万遍──」
バヂバヂバヂッ、電極の間を幾筋もの電流が流れた。
そのまま、巨体に似合わぬ敏捷さで突っ込んできた。
「大抱擁!」
抱きしめて締め上げるというだけの、シンプルな攻撃。
体つきからいってもそれだけで相当なダメージだろうし、電流のおまけまでついてくる。
だがしかし──
「愚か者め……っ」
デンゴローの腕に捕まる寸前、私は地面を蹴って上へ跳んだ。
多元世界人の血を引く私だからこそ出来る、10メートルの垂直跳び。
「私を抱きしめる資格があるのは、この世でただひとり……」
空中でくるり回転すると、ぽかーんとして私を見上げるデンゴローの額に、落下の勢いを乗せた物打ちを叩きつけた。
メゴッといい感触がした。
「旦那様だけだ──」
着地と同時に、デンゴローの巨体はズシャアと地面に倒れた。
「……へえ、こいつは驚いた。アンタまさかのエーテル使いかい」
バギーの上で双眼鏡を覗いていた女が、目を丸くしてこちらを見ていた。
「にしても、バカどもとはいえランキングじゃ300位ぐらいはある奴らだぜ? それを一瞬かい。ん……待てよ? あんた見たことあるねえ……たしか最近下位中位をぶっ倒しまくってるって噂の新人……」
「ふん」
私は胸を張った。
「そうだ。私こそがその……」
女は私をズビシィッと指差してきた。
「『漆黒の稲妻』とかいう恥ずかしい名前の奴!」
「なっ………………!!!?」
衝撃が、私の体を縫い止めた。
「いやあー、初めて聞いた時はぶったまげたぜ。たしかにどんな名前にしてもいいルールだけどさ、普通はもっとまともなのをつけるもんだぜ? だって考えてもみなよ。ランキング上位に乗れば、公式の雑誌やテレビ番組なんかにも名前が出て、顔出しがあって、ポスターや応援グッズだって作られるんだ。当然ファンだってつく。ファンクラブだって組織される。そいつらが口を揃えて言うわけだ。いやあー、今日の漆黒の稲妻は輝いてたね。稲妻みたいに動きのキレがよかった。さすが漆黒の稲妻。さす稲さす稲」
プークスクス、女は耐えかねたように噴き出した。
「いやーホントにない。ホントにないわー。聞いた話じゃ、異国のお菓子でブラックサンダーってのがあるんだってね。サクサク甘~い漆黒の稲妻」
「やめろ……」
「自分ではかっこいいって思ってつけたんだろ? それがまた痛々しさを上乗せするっていうか。なんだろな、他人の黒歴史ノートの内容を聞かされてる気分だよ」
「笑うな……」
「ごめんごめん、笑って悪かったよ漆黒の稲妻。漆黒の稲妻にだって生きる資格はあるのにな。ミミズだってオケラだって漆黒の稲妻だってな」
「わ・ら・う・なああああー!」
軸足のつま先すれすれのところに、レーザーを撃ち込まれた。
踏み込もうとした機先を制された。
「──おおっと、それ以上近づくんじゃないよ」
これ以上ないドヤ顔をした女が、光線銃の銃口をこちらに向けていた。
腰のポッケから抜き様の一発。
対面していてすらいつ抜いたのか見えないような、恐るべき早業だ。
「剣士……いや女剣士とは珍しい能力タイプだが、今夜ばかりは相手が悪かったな新人」
「なんだと……?」
「あたいの名はキーラ・バルバロ。ランキングは3位だ。聞いたことあるだろ? そうさ、あたいがあの『パーフェクト・ビューティ』だ」
「え?」
「だから言ったろ。キーラ・バルバロ」
「いやそこじゃない」
「ランキング3位……」
「もっと先」
「パーフェクト・ビューティ?」
「パ……」
私はたまらず噴き出した。
「パーフェクト・ビューティィィィイ? 自分で言う? 自分で言っちゃう? 完璧な美しさだって? どれだけ自信過剰なんだ貴様は?」
キーラは鼻白んだ。
「な、なんだっていうのさ。あたいは現に綺麗だろうが……」
「ああー? そうだなあ、綺麗だよなあ。人並みにはな?」
「はあああ!?」
「生憎だが、私は貴様より綺麗な人間を何人も見知ってるのだ。それでなくともケルンピアは1億5千万人都市なのだろう? 自分より綺麗な人間がひとりもいないと思ったか?」
「そ、それはまあ……そう言われると……」
「ほら見ろ! ほら見ろ! ほら見ろ! 全っ然完璧じゃないじゃないか! 井の中の蛙が竜を気取ってるだけじゃないか! 人並みの女が悲しい見栄を張ってるだけじゃないか!」
「だ、だってみんなは……」
「はああー!? 周りに言われてその気になっちゃったのか!? 『あたいは美人なんだ、完璧なんだ』って!? お生憎様! そんなの社交辞令だよ! 関係性で仕方なく言わされてるだけだ! そんなこともわからなかったのか!? その歳になるまで!? おめでたいなあ! パ・ア・フェ・ク・ト・ビュ・ウ・ティ・イ!?」
「う……う……う……っ」
キーラは肩を震わせ、顔を真っ赤にして叫んだ。
「うるさいうるさいうるさい! あたいは本当に綺麗なんだもん! 美人で、スタイルもよくて完璧だって、みんながそう言ってくれるもん! あんたの目が腐ってるだけだもん! 漆黒の稲妻のくせにわかった風な口をきかないでよ!」
「はあああ!?」
「恥ずかしさで言ったらあんたのが上だよ! お菓子と同じ名前の漆黒の稲妻! それが最高にイカしてると思った痛い女! バカ女! やーい、漆黒の稲妻! やーいやーい!」
「お、お、おおおのれええええええー!」
私は竹刀を構えてにじり寄った。
「おお!? やんのか!?」
「おうとも! やってやる! その完璧な肉体かっこ笑いを、見るも無残な肉塊に変えてやる! ふた目と見られぬ顔立ちにしてやる!」
「や……やめろよ! そんなのダメだよ! 顔とかはとくにダメだから! ダメだからな!?」
「なあ、あんたたち……」
いつの間にか、小山が近寄って来ていた。
「盛り上がってるとこ、悪いんだけどさ……」
あれあれ、と宇宙港のほうを指さした。
「ゲート……突破されてるんだけど……。なんか、テロ……みたいな?」
私とキーラは、同時に顔を宇宙港のほうに向けた。
人や車両や宇宙船の出入りを管理する、ケルンピアの玄関口。
警備の厳重なことで有名なゲートが、今や見る影もないほど無残にひしゃげている。
装甲車みたいなのが突っ込み、あちこちで火の手が上がり、激しい銃撃戦が行われていた……。




