第八話 八本脚の悪魔
「さて…どうしたもんかね」
俺は真っ白で太いロープのような粘着質の有る糸に、逆さまに張り付けられている状況だ。まぁ、幸運なのは俺が一番上の方で、ワンピースが肌蹴ていようが恥ずかしがる振りをしなくても良い事だ。
「あははぁ…マジで食われる五秒前ってやつですかね?」
サクラは俺の下の方で、ぐるぐる巻きの繭の様にされて宙ぶらりんにされている。
「お、お姉ちゃん…あぁ、完全に放心状態だよぉ~」
アヤカとアヤメは仲良く糸に絡めとられているが、アヤメの方は何やら完全に意識が飛んでいるようだ。
「マ、マコトくん…ちょっと近いです」
「あ、いや、ご…ごめんなさい」
マコトとアイリはどこの恋愛小説家だと言いたくなる際どい体勢で、傍から見ればイチャイチャしているように見える。
まぁ、そんな事は些細な事で、俺達の目の前には軽くダンプカーほどの大きさの、この糸の家の持ち主である蜘蛛のユニークモンスター【夜叉蜘蛛】が早速サクラを捕食せんと糸を揺らしながら近づいてくる。
まったく、何でこんな目に合ってるんだか…。
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「えっと…束縛符」
アイリの腰にある札入れから、数十枚の札が勢いよく飛んで行きウッドマンの体に張り付き動きを制限する。
「撃符」
人差し指と中指で挟んだ札に手を翳すと、赤いオーラのようなものが札に纏わり付く。アイリはその札をサクラに向かって投げる。
札は一直線にサクラに向かって行き、サクラの肩の所でフワフワと浮いている。
符術には即効性と任意発動性の二つの種類があり、術者の意思で発動方法を変えられる。
今使用した【撃符】は一撃の攻撃力を上昇させるもので、アーツと組み合わせると強力だ。しかし、一撃にしか効果が乗らないので、下手に即効性で札を投げると、普通の攻撃に効果が乗る事故が起こるので任意発動が主流らしい。
サクラが札に触れると札は赤い光の粒になり消えて、代わりにサクラの体が赤いオーラに包まれる。
サクラは動きが緩慢になって、俺に注意を向けているウッドマンの頭部に狙いをつけてアーツを放つ。
「アシュット・アロー」
サクラの番えている矢が青く光りながら巨大化して、風を切る音と共にウッドマンの頭部に飛んで行き、その頭に大きな穴を開けて尚空に向かって飛んで行く。
そのサクラの一撃でウッドマンは光の粒になって消えた。
「ふはぁ~~、当たったぁ~~」
「なかなかに様になってたけどね」
「まぁ、FPSとかTPSとか遣り込んでた時期有りましたし」
まぁ、そのFPSとやらが何かは知らないけど、この調子なら問題なく奥の少し強めのモンスターも狩れるだろうな。
アイリの適切な補助のおかげで、攻撃力が上がって俺の敵視が直ぐにアタッカーの二人に移るのが少し心配ではあるけど。マコトが言うにはある程度の攻撃は耐えながら攻撃するのが普通らしい。
タンクの敵視を稼ぐアーツやスキルには耐性があり、相手に頻繁に使うと相手に耐性が付き敵視が稼ぎにくくなる。だから、アタッカーがタンクによる敵視耐性が落ち着くまで回避や受け流しなどでカバーするのが一般のPTのやり方らしい。
まぁ、上位のPTとかになると上手く耐性を調整しながら、効率よくアタッカーが攻撃できるようにしているらしい。俺らはそこまで考えなくても良いだろう。
「さて、結構連携も様になって来たし、そろそろ奥に行くか」
「「「は~い」」」
「あ、少し採取しながらでもいいですか?」
「わ、私も…」
「ん?まぁ、周りに注意はしとこうな」
「はい」
「は~い」
そんなこんなで、のんびりと列になって所々の採取ポイントで、草や鉱石類を採取しながら進んでいく。
一応軽く周りを見回しながら歩くが、妙な事にモンスターの影は見えない。マコトが探知系のスキルを持っているらしいので、先頭で進んでいるから大丈夫だとは思うけど…なんでだろう、いやな予感がする。
「ふぅ、流石にもうアイテムポーチの空きが厳しいかな」
「そうですね」
サクラとアイリはホクホク顔で戦利品の採取素材を確認しながら、俺の前を歩いている。
なんだかんだ言ってもサクラは一応の常識はあるようで、他人の前では無駄にくっ付いてきたりはしない。まぁ、時折俺の方をチラチラ見てくるけどな。
「それで、うん」
「そうなんですか。見てみてもいいですか?」
「うん、もちろんいいよ~」
こうしてサクラとアイリが楽しげに話しているのを見ると、本当の姉妹にも見える。サクラも色々あったが、こんなにも明るく強い女の子に成長しているのは嬉しいものだ。
そんな年寄りくさい感傷に浸っていると、俺の左後ろからガサガサと何かの音がした。
一瞬何かの気配を感じて、腰の剣を抜きながらその気配の方から飛んでくる物を斬りつける。
若干ぬめっとした不思議な切り心地で、剣を見ると白い糸のような粘着質の有るものが纏わりついている。
「お!?」
皆に注意を呼びかけようとした瞬間に、今度は反対の右側から先ほどと同じ粘着質の物体が飛んでくる。同じように切ろうとしたが、今度は先に剣に纏わりついていた糸のせいでまともに切れなく、後ろにある大木まで吹き飛ばされながら木に剣ごと拘束される。
剣を引っぺがそうとするが、すぐさま追加の粘着糸が飛んできて体の自由を奪われる。
声を出そうにも口元にも糸がくっ付いてきてまともに口を開けられない。何とか逃れようとしていると、皆はどんどんと先に歩いていくが、俺はその頭上に怪しい影を見つけた。
それはダンプカーほどの大きさがあり、はち切れんばかりの腹を揺らしながら、器用に音を立てずに八本の足で木の枝を渡っている巨大蜘蛛だった。
ガサガサと音を立てながら、今度は大人ぐらいの大きさの子蜘蛛?が草むらから現れて、俺を食おうとしているのかその口から変な液体をまるで涎のように垂らして近づいてくる。
う~ん、どうしたもんかな。まぁ、スキルを過信しないほうが良いって教訓にもなるか。まぁ、だからってただでやられるほど俺も潔くはないけどな!
皆が近くに居ないことだし、わざわざ力をセーブする必要も無いだろう。
ほんの少し腕に力を入れると、糸はゴムのように伸びるが、限界まで伸びきるとブチブチと音を立てて引き千切れる。
すぐさま子蜘蛛が糸を飛ばしてくるが、わざわざ当たって拘束されるような趣味はないのでタイミングを合わせてステップで避ける。
そのまま剣を振るって子蜘蛛の頭をかち割ろうとするが、剣に巻き付いた糸のせいか切れ味が悪く上手く刃が通らない。
しょうがないので、剣の柄で思いっきり殴りつけると、地面を陥没させながら子蜘蛛の頭が地面にめり込む。いや、流石にやり過ぎだな、もう少し抑えるか。
後ろから襲ってくる子蜘蛛の胴に剣を突き立て、そのまま後ろの木に剣を刺して串刺しにする。まだHPは残っているが断続ダメージで逝くだろう。
「さて、残りを早く片付けて皆に合流するか」
俺の周りには子蜘蛛が数十匹、わらわらと湧いてくる。
さてと、久々に暴れますかね!




