第五話 港町アルシス
イベント開始時刻になり、システムアナウンスが鳴るかどうかで広場に集まったプレイヤーが我先にと、ゲートクリスタルに触れてイベント用のサーバーに飛ぶ。
皆も例に漏れずに無駄に素早い動きで、俺を放って置いてさっさと行ってしまった。まったく、薄情な奴らだな。
俺はのんびりと人が減るのを待ってから、ヒンヤリとした冷たく固い感触に触れる。
ウインドウが現れて、転移先にイベント用の転移先であろう『イベント用 港町アルシス』が追加されていた。
一瞬の暗転の後に、潮の独特の磯臭さが鼻をつく。目を開けると真っ青な空に、真っ白な雲が漂っていてカモメの鳴き声が心地いい。
更に、目の前には活気あふれる市場があり、NPCが賑やかに声をかけあっている。その中を先に来ていたプレイヤーが間を縫うように忙しなく動いている。
「活気はあるみたいだけど…」
人ごみの中を縫うようにしてある気ながら軽く街の様子を見回すが、所々の家を大工が修理しているのが見える。更に、海に近くなるにつれて倒壊しそうなほどの家もちらほら見える。
イベント用の町だろうから、普通の港町で観光気分でのほほんと過ごせるとは思っていなかったけど、何やらきな臭いなぁ…。
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『なんか領主様からのお話があるみたいで…あ、三十分後みたいですね』
「分かった。それじゃあまた後でな」
『はい、アオさんも怪しい人に着いて行っちゃだめですからね』
「俺はガキかっ…て、切れてるし」
町の中を探索していると、サクラから【コール】があり、三十分後に中央広場で待ち合わせをした。どうやら領主様の話が今回のイベントの開始の合図になるようだ。
「にしても三十分か…何かするには時間が無いし、微妙だな」
まぁ、何かやりたい事が有るわけでも無いし、いつも通りに町をぐるっと回ってみようかな…ん?
ふと視線を町並みに向けると、少し薄暗い裏路地の所で何やら如何にもガタイの良いおっさんが当たりをキョロキョロ見回している。
そのおっさんは何やらガサゴソと怪しい動きをしているので、不審者なら捕まえて警備の兵に着きだそうと思い背後から近付いて声をかける。
「何かお困りごとでも?」
「!?……なんだいお嬢ちゃん。見ない顔だな?」
「一応こんな見た目でも冒険者ですよ。何かお困りのようなので、お力になれるかもと思って、お声をかけたんですけど…」
おっさんは助かったと言わんばかりの明るい顔で、俺の肩を逃がさんとがっしりと掴む。
「丁度良かった、俺はこれから大事な仕事があるんだ…後は頼んだ!」
そう言うが早いか、おっさんはその巨体には似合わない素早さで雑踏の中に消えていった。
後に残されたのは、おっさんが走り去った方向を見つめる俺と、おっさんの居た場所に呆然と立っている水色の髪の女の子だった。
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「あ、お姉ちゃん。こっちこっち~」
「…あぁ」
「な、何か疲れてるな…大丈夫か?」
「大丈夫だよ…」
それは疲れもするさ…あの後幼女からいろいろ聞いていくうちに、やっと迷子だと分かり親御さんを探して町の中を文字通り飛び回って、集合時間の五分前に何とか親御さんを見つけて無事に帰す事ができた。
しかし、その親御さんの居た所が運悪く町の隅の方で、人に見られないように気にしながら家々の屋根を飛び移りながらショートカットしてきたので、心身ともに疲れた。
「で、領主様の話だっけ?」
「そうっすよ。多分メインイベントへの導入っすよ!」
初めてのイベントだから分からないけど、今までのRDOではそういった運営からの道標みたいなものがほぼ無かったので少し変な感じだ。
RDOは自由を売りにしているので、メインとなるストーリーはダンジョン攻略だけが運営から示されているものだ。その他はプレイヤーが物語を作っていくというコンセプトらしい。
まぁ、運営が提示する公式イベントだから、少しは分かりやすくしているのだろう。流石にイベントと言いながら、プレイヤーを完全放置するわけにはいかないしな。
「お、来たみたいだぜ」
シンエンの声に振り向くと、広場の一角に設けられた壇上に豪華なローブを身に纏った、一人の老人が上がって来た。
その老人の後ろで、一歩引いて秘書のようなキッチリとした服装の女性が何やらやっているかと思うと、広場の中央に、銀剣杯でも見た半透明の画面が浮かび上がる。
それを確認して、領主と思わしき老人が咳払いをしてからゆっくりと話し出す。
『冒険者の皆さま、ご足労いただきありがとうございます。皆様に集まっていただいたのは他でもありません、今この町で起きている問題を解決していただきたいのです』
問題ねぇ…港町なんだし、海に関した事だろうとは思うけどな。あの眼鏡の事だ、何を仕込んでいるかも分からない…。
『問題と言うのは、最近海が怒っているのです。頻繁に荒れて、しかも海に住む今まであまり活発では無かった魔物の動きが活発になって、まともに漁に出られないのです。この町は長く港町として栄えてきましたが、このまま漁ができないと町は廃れてしまうでしょう。そこで、冒険者の皆様にお力を貸していただきたいのです。詳しい事は追って通達があるでしょう…皆さまどうかお力をお貸しください』
そう言って領主の老人はゆっくりと壇上から降りていった。
領主が壇上から降りて少しすると、先ほどまで後ろで控えていた女性が一歩前に出る。
『それでは冒険者の皆様に、これからの指示をいたします。先ずは海の調査のための大型船を修理していただきたいのです。この大型船は先の我が町の調査の際に、魔物により少々破損いたしましたので皆様のお力をお貸しいただき修理していただきたいのです』
成程な、戦闘クラスだけでなく生産クラスも参加できるようにと、この大型船の修復を持ってきたのか。なかなか面白そうだな。
『その修復のための素材は、門の外に居る魔物を狩ってくだされば問題ないと思います。必要な修理素材などは船着き場の作業員に確認してください。製作しました修理素材もその作業員に渡してください。先ずは船の修理を第一に、その後の事は修理完成後に改めてお話いたします。それでは、冒険者の皆様のご協力をお願いいたします』
女性が静かに礼をして壇上を降りると、集まっていたプレイヤーの殆どが一斉に動き出す。
俺はその人の波を避けながら、一休みするためにみんなと一緒に広場の一角にある食堂に入って行くのだった。




