第四十七話 夏休みに向けて
「うがぁ~~もぉ、分かんないっすよぉ!!!」
「うっさい…学期末テストが赤点だとRDO禁止でのうえ、このくっそ暑い中学校で補習だぞ」
「うぐぐ…」
俺は今クーラーの効いた涼しい朱里の部屋で、机に向かって唸っている朱里の頭を丸めた教科書で叩く作業をしている。
まぁ、知ってはいたけど、まさかここまで馬鹿だったとは思わなかった。
一応学園は中高一貫教育で、結構学力が高いはずだ…なのに。
「おまえ……なんでX(X+3)の展開式の答えが「分かりません」なんだよぉ!諦めるなよ、てか初めから解く気ないだろ、途中式すらないしな!!」
「いや~、人間諦めは肝心っすよ!」
パンッと気持ちいいほどの乾いた音と共に、机に顔面から突っ込んでいる朱里。
あぁ、ここまで馬鹿だとむしろ気持ちいいかもしれないな。
「あぁ、しょうがない、どうせ明日土曜日だし、一年の数学からやるぞ!」
「えぇ~~、そんなぁ~~」
「あぁ?何か言ったかぁ?」
「い、いえ。何でもございません」
軽く睨みながら威圧して黙らせる。
偶には荒治療が執拗な時もある、さてと…間に合うかが問題だな、なんせあと三教科も残ってるしな。
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「いや~、今日もいい天気だなぁ」
「…何で家なんだよ」
「はぁ、お茶が美味しいなぁ」
「ごまかすなよおい!」
俺は今おっさんの工房に来てお茶を飲んでいる。
カウンターの向こうではおっさんが少しにらみを利かせているが、直ぐに諦めたのか自分もお茶をすする。
ガシャンと何かが壊れるような音が奥から聞こえてくる、その音の後にスズの困ったような慌てたような声が小さく聞こえてくる。
「なぁ…」
「何も言わないでくれ、俺も一応悪いとは思っている」
「じゃあ、何で家に来た!?」
「いや…多少爆発しようが融解しようが大丈夫かなって」
その言葉を聞いた瞬間に飲んでいたお茶を吹きだしながら、目を白黒させて詰め寄ってくる。
「ば、ばく…融解!?あのお嬢ちゃんは何をやってるんだよ」
「なにって、言っただろ。料理……だと思っておこう」
そう、今おっさんの工房の奥の台所ではスズが料理…をやっているはずだ。
このRDOでの料理は【料理】スキルが無くてもできるが、スキルがあったほうが格段に楽になる。
この【料理】スキルは様々な工程をアーツの形で簡略化できる。例えば包丁で食材を斬るのにも【包丁:ざく切り】【包丁:賽の目切り】など、ほぼ自動で尚且つ素早くできる。
更に料理のレシピがあれば、そのレシピを選択しておけば常に作り方が目の端に表示される。
普通なら、ここまでの補助があれば誰でも料理できそうな物なのだが、今現在も進行形で物凄い音のする台所では、何が行われているのか分からない。
数分も奥で破壊音が続いた後に、しんと静まり返る。
何かあったのかと思い席を立とうとすると、奥から満面の笑みのスズが出てきた。
「お待たせ、出来ましたよ」
「…お、おう」
スズの手の上にはクロッシュによって見えないが、料理が乗っているのだろう。
だけど、普通の料理はクロッシュをお皿の間から黒紫色の煙って出るっけ?
スズがその料理だと思わしきものを持って、丁度おっさんの横に来た時に悲劇は起こった。
なんの前触れも無しにバタっと何かが倒れる音がしたかと思ったら、おっさんが白目を向いて口から泡を吹いてカウンターに突っ伏している。
「お、おっさん!?」
「あ、あれ。眠くなっちゃったのかな?」
そんな呑気な事を言いながら、スズがカウンターにお皿を置く。
すると、何と言う事でしょう。本来口にする料理からはしてはいけない腐敗臭のような焦げた匂いのような生臭いようなにおいがしてくる。
以下、ここからは精神的にアレなので、音声のみでお楽しみください。
「うがぁはぁ!?」
「あれ、お姉ちゃんどうしたの?」
「どうしたのじゃねぇ?なんだよコレは!!」
「コレって…見て分かんないかな?カレーだよ」
「いや、ねえよ!カレーはこんな毒々しい紫じゃねぇ!しかも、こんなに変な煙も匂いも発生するものじゃない!」
「いや、そこはほら…隠し味かな?」
「いやいやいや、全然隠れてないから!むしろ表に出てきてますから…って、今何か動いたぞ!」
「…生きが良いんだよ」
「ふざけんな!その見ただけで精神崩壊しそうな物体は捨てろ!勿体ないとかじゃねぇ、そんな次元にそれは存在してない!」
「えぇ~、でも…」
「でももへったくれも無い!」
その後、なぜか一日分の記憶が無いガイツが見たのは、悲惨な自宅の台所だった…
♦
ある日のお昼頃、ダリアの町の大通りに面したレストランで少し変わったものを見つけた。
「ねぇ、アリスはどう思う?」
「…効率も良いし、安全マージンは十分だと思う」
「おっし、なら早速準備していくか!」
「もぉ、ユウキ!少しは落ち着いてって。そんなに急がなくっても狩場は逃げないわよ」
少し遠くであったが、簡単に唇を読むとそんな話をしているのが分かった。
アリスと同席しているのはトーナメントの時に見かけた三人組だった。
何があったかは知らないけど、きっとそれなりに仲がいいのだろう。
声をかける必要もなさそうだし、そのままその場を去る。
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「それにしてもいい天気ですね、ね兄貴!」
「ん、あぁ。もうすぐ夏休みだしな」
隣には真新しい学園の制服を着て、元気な笑顔を向けてくる彩華が居る。その反対側には何時もの様に手を握ってくるアリスが眠そうな顔を向けてくる。
俺達の数メートルほど後ろには鈴と彩芽が黒いオーラを纏って、今にも倒れそうなほどフラフラになって着いてくる。
「はぁ、大丈夫か二人は?」
「シィー、鈴ちゃん、この季節は何時も、だから問題ない」
「う~ん、お姉は朝弱いし、暑いのにもかなり弱いからなぁ…まぁ、死にはしないでしょ!」
なんかな~、妹にこんな扱いされるとは、可哀そうな姉達だ。肩を貸してやりたいのはやまやまだが、なんせ身長差的に難しいからなぁ。
こんな時に限って朱里と功は朝練で居ないし、まぁ、功は居ても役に立たないだろうけどな。
そんな、少し賑やかな登校の時間。
コンクリートを焼くような強すぎる太陽の光に目を細めながら、夏の到来を感じるのだった。




