第二十話 さくらいろ Ⅲ
やっべ、終わんなかったや(*´Д`)
アオさんに手を引かれながら裏道を進む。
裏道を進みながらアオさんは誰かにコールしている。
「……サクラ?」
「ひゃい!?」
「疲れたか?」
うぅ…意識しすぎなのかな。さっきから顔が熱くなって、変な汗まで出ている。
「なんでもにゃいです、きしにゃいでくだしゃい…」
「まぁそう言うならいいけど」
噛んだ…落ち着け、落ち着くんだサクラ。
アオさんに引っ張られて細い裏道を歩く。アオさんは時たますれ違うNPCに軽く挨拶しながら、どんどん先に進んでいく。
辿り着いた場所は北門のすぐ近くの二階建ての家だった。広い庭にはきれいな花が植えられており、その庭の一角には大きな物置のようなものがある。
「ほら、着いたぞ」
「…えっと、ここは?」
「知り合いの家だ。少し待ってて」
そう言い残してアオさんは家の中に入っていった。
アオさんの方から誘われるのは初めてだった。
今日を逃したら今度いつ一緒に遊べるかもわからないし、コールではなくて直接会って話したい…でも、なんて聞いたらいいんだろう?
♦
しばらくボケッとしながら考え込んでいると、倉庫の方向から草を踏みしめる音がしてふと顔を上げると、茶色い馬に乗ったアオさんが居た。
背筋を伸ばし手綱を握るその姿は、見た目に反してかなり様になっている。
「ほえ~~~」
「サクラ、なにボケッとしてるんだ。ほら」
アオさんに呼びかけられてふと我に返る。
差し出された小さな手を握ると、そのまますっと馬の上に乗せられる。
馬に乗るのは初めてで、かなり高い視界に独特の揺れ。しかも目の前にはアオさんが居て、しかもそのアオさんの頭が鼻先にあるからいい香りが…やばい、心臓がやばい!
裏道を器用に人を避けながらゆっくりと進む。
アオさんが小さいからか、腰に回したはずの腕がアオさんの胸に行ってしまった。
アオさんの正体に疑問が残る理由がコレなんですよね…そう、アオさんには小さいながらしっかりと女の子特有の膨らみがあるのだ。
昔あった彼は見た目こそ女の子だったけど確かに自分で男だって言っていた。
このRDOでは性別の転換はおろか、骨格の変更などの大幅な体の変更は無理だ。だから初めて会ったとき彼だと思ったのに…自信がなくなってきた。
だって…手の中に納まるほど良い大きさに、まるでマシュマロのような柔らかさ!これはまさに極上のおっぱいだ!……はっ!危ない危ない、危うくモミシダクところだった。
アオさんに気付かれていないことを祈り、そっと胸に回していた腕を腰に落とす。
♦
門の外に出ると、特に迷いもなく北の森に向かった。
あれ?馬で散歩とくれば草原をこう軽やかに駆けるイメージなんですけど。めっさ暗い森とかで散歩しますかねぇ?
「少し走らせるから、しっかり掴まっててね」
「ふぁい!」
私の疑問もそのままに、馬の走る速度が速くなる。
アオさんに後ろから抱き付くと、小さい背中なのに大きく感じる。密着しているから、私の鼓動が伝わってないか少し心配だな。
まぁ、場所が薄暗い森の仲だろうとも可愛い幼女と二人っきりだと、自然とテンションが上がってきてしまうのは人間としてしょうがないはず。
アオさんはマップを完全に覚えているのか、特に止まることなく馬を走らせる。狭い木々の間や木の根が地表に出ていたりする悪路を、馬を巧みに操りそれらの障害を避けながら進む。
心配していた魔物との遭遇もなく順調に森の中を進んでいく。
しばらく森の中を進んでいると、少しづつだが移動速度が落ちてきた気がする。
「サクラ、森を抜けたら一旦休憩するぞ」
「あ、はい」
その後もそのまま数十分走り続けると、森の木々がまばらになっていき森ではなく林程度の木の密集ぐあいになってきた。
どうやら北の森を抜けたらしい、もしかして…
林を進むと、それまでは草が生い茂っていたが所々地面が露出している箇所が目立ってきた。
「じゃあ、ここらへんで休憩するか」
「はい」
そう言って馬の手綱を引いて馬を止める。
アオさんが先に降りて私に手を差し伸べてくれる。
アオさんは私を下ろして座って休むように言うと、ポーチの中から木製の大きなボウルのような物を二つ出し、片方には固形の馬の餌、片方には魔法で水を入れ馬の前に持っていく。
比較的草が生えていて座れるところに二人で腰を下ろす。
「アオさんどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
アオさんにポーチから瓶に入ったジュースを渡す。このジュースは疲労回復ポーションを林檎ジュースで割ったもので、少しだが疲労回復の効果がある。
「結構遠くまで来ましたね」
「ああ?そうだね。まぁ、もう少しだし。もう少し休もうか」
絶好のチャンス到来!
「あ、あの。アオさん…ちょっと聞いてもいいですか?」
「ふぁ?何?」
「えっとですね…昔、私とリアルで会ったことありませんか?」
「ん?どうだったかな…」
アオさんがまじまじと私の顔を見つめる。
「う~ん…あった気があるような、無いような」
「えっと…じゃあ、昔…大体七年前に「サクラ後ろ」へ?どうわぁ!」
アオさんの声で後ろを振り向こうとしたら、いきなり何かに背中を押されて顔面から地面に突っ伏した。
顔をあげると私の後ろには今まで私たちを運んでくれた馬が、アオさんの方をじっと見つめていた。
「おぉ、なんだもういいのか。よしよし、いい子だ。もう少し頼むぞ」
アオさんが馬の首をなでながら話しかける。
馬も気持ちよさそうに目を細め、されるがままに大人しくなでられている。
「時間もそろそろか…サクラそろそろ移動するけどいいかな?」
「はい、いいですよ」
再度馬に乗りアオさんが馬を走らせる。
さすがの私でもここまでくれば分かる。アオさんの目的地は第二の町ダリアだ。
店での話の流れと、北の森を抜けたこと。それに進行方向の遠くに見える大きな建築物。これ位情報があれば馬鹿な私でも分かる。
♦
「到着っと…にしても大きいな」
「そうですね~」
私たちは今第二の町ダリアの町を見ながら南門に向かっていた。
ダリアの町は高い壁に囲まれ、中心部に大きな塔のような建築物がある。門の外からでもわ分かるぐらい町の中から賑やかな音が聞こえる。
馬を歩かせながら南門に着くと、アオさんが馬から降りて手を貸してくれる。
手綱を持ち南門をくぐると、アオさんが門番の人と軽く話何かを渡した。すると門番の人に馬の手綱を渡してアオさんが戻ってきた。
「馬は良いんですか?」
「あぁ、持ち主の方に届けてもらえるように話したかなら」
「そうなんですか…あの、アオさん。ありがとうございます」
「何の事かな…ただ乗馬をしたかっただけで、たまたまこの町に来ただけだよ」
アオさんが少し笑いながら私の前を歩き出す。
私もアオさんに置いて行かれないようにすぐ後ろを歩く。
「あの、アオさん。さっきの続き良いですか?」
「ん?……あぁ、休憩のときに言いかけた事か」
アオさんが振り返る。
「昔…七年ぐらい前に神薙桜って子と会ったことありますか?」
「(かんなぎさくら…やっぱりか)」
アオさんが小さく何かを呟いている。
心臓の鼓動で何を言っているのかわからない。まともにアオさんの顔すら見ることができない。もしも間違っていたら?知らないと言われたら?
頭のなかでそんな思考がぐるぐるとまわっていた。
ぽんと、頭に何かが触れる感触があった。
「大きくなったな、元気だったか?」
顔をあげると、アオさんが私の頭をなでてくれていた。
アオさんの顔は柔らかい笑みで、撫でる手つきも優しい。
「いや、分からなかったよ。まぁ、流石に七年も経てば大きくもなるか…でも昔の面影もあるし、お母さんに似てるぞ?」
「アオ…お兄ちゃん」
悲しくないのに…嬉しいのに…涙が止まらない。
やっぱり生きていたんだ、葵お兄ちゃん…




