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平凡だった私が生まれ変わったら森の神様に好かれ龍人に愛される物語  作者: 茜雫桂香


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動き出す思考


「エルディオンですか…」

「うん。そう人々から呼ばれてるって言ってた」


次の日、一緒に朝食を食べながら夢の話を伝えた。


「彼奴が…誰を指すのか気になりますね」

「…うん。見当もつかない」

フィリアは考えながらパンを口に運ぶ。


「ニア様…こちらサラダです」

「……わぁ」

昨日の事をリリィも相当お怒りのようで、前世でも今世でも好きになれない、トマトたっぷりのサラダが目の前に置かれた。

伺うようにリリィに視線を向けると、細くした瞳と頬に空気を溜め怒っていた。

「体に良いからね、トマトは。……今日はしっかり食べてあげなさい」

今日ばかりはフィリアもリリィの味方だ。

「…はい」

進まないフォークを無理やりトマトに刺した。


「いってらっしゃいませ」

見送ってくれるニアの頭を撫でながら、今日は家に居たかったと思う。

(いいですか、勝手に外に出ては駄目ですよ)

苦笑いを浮かべるニア。

「いってまいります」


リリィやベラに視線を移せば、言葉を交合わせなくても分かる。

(任せてください!!!)

というリリィの瞳は燃えていた。


後ろ髪引かれながらも今日は騎士団本部へ行かなければならない。

エドワードやアルティア達にニアの夢の共有も行わなければと足早に向かう。


▽▼▽


「驚いた。意外と大胆な行動するね、ニアは」

昨日の出来事を二人に伝えれば、私の専用執務室のソファに腰掛けていたアルティアは目を見張る。

「…焦っている様子は、特に無かったがな」

エドワードも意外だったのか、眉間に皺を寄せて首を傾げた。


日頃二人はニアの指導者として我が家に通ってくれている。

頻繁にニアに会っていただけに意表を突かれた様だ。


「それでエルディオンという名前を調べてほしい」

「分かった」

エドワードは頷く。

「んじゃあ俺は…彼奴が誰なのかだな」

アルティアは後頭部に腕を回しながら考える。

「動き出すということは…ニアが目覚めた、あるいは誘拐された事に関係すると思うんだが――」

そう私が口にした時、エドワードはぽつり呟く。


「オーフィス国が関係している確率が高い」


私は頷く。

ニアが目覚めたのを知っているのは誰だ。私達以外でオーフィス国しか知らない。

そして、パルフィ公爵がニュムペー族だと思い囲ったとして、それは我々が潰した。

それでも彼奴というのが存在するなら、そこまで選択肢はない。

裏商館を仕切っていた者がオーフィス国王へ密告した可能性もある。または他の組織へ。


「彼奴は一人じゃないもんな…ニアを知る団体かぁ」

アルティアの言葉にエドワード続ける。

「そう、団体。そして絵本にはかつて、ニュムペー族の力を求めて争いがあったと考えるなら」

視線が私に向けられる。

「フィリアがニアを守る龍人族なら、当然長い歴史上一度も結託できていないオーフィス国が敵になる」


「よし」

アルティアは立ち上がり、にやりと笑う。

「俺来月からオーフィス国での護衛が何度かあるんだ、そこで何かあるか探ってみる」

「…念の為エドも配置した方がいいか?」

私の申し出にエドワードは頷いたが、アルティアは膨れた。

「なんでだよ!いいよ!エドはエルディオンを調べろよ!」


(アルティアは腕の立つ騎士…しかし偵察には…向かないと思うんですが)

思っている事が顔に出たのかアルティアは益々頑なに一人で充分だと言い放つ。



▽▼▽



何でも話すと約束したけれど、一つだけ言わなかった事がある。

エルディオンは言っていた。


『私に会える時は……貴方が危険な時だけ』


ということは、きっと昨日も寒い中寝転がり、体温が下がって危険だったのかもしれない。

(危険がどれくらいの範囲なのかな)

命の危険が差し迫っている?または意識が飛びそうな事なら、命が関わるのは関係ないとか?

腕の組み考えを巡らせる。


「どこが分かりませんか?」

向かいに座って問題を出していたリリィが首を傾げた。

「あ、えっと…ごめんなさい。もう一回教えて」

思考が他にいっていたと伝えたら、昨日の今日だ。絶対問い詰められる。

「ええ、今度はゆっくり教えますね」

にこりと微笑んでくれるリリィに少し胸を痛めながら、また思考がどこかへ向かう。



「……昨日の事を考えているのでしょうか」

リリィは帰宅したフィリアに様子の可笑しいニアの報告をする。

「確かに…新しい情報が出てきて、そちらが気になってしまったのでしょうか」

フィリアも身支度をしながらリリィに返答する。

すると、横で身支度を手伝っていたベラが言葉を放った。


「気のせいでしたらいいのですが…」

「?」

リリィが首を傾げ、フィリアが視線を向ける。


「本日は何だか危険な物に視線がよく行っていたように感じました」

「え?!」

驚き大きな声が出たリリィは咄嗟に口を覆った。

「……例えば?」

フィリアの問いに凛とした声で答える。


「二階の出窓から身を乗り出し、下を覗いたり。リリィが林檎を切っているナイフをじっと見つめたり。

分厚い辞書を見つめたり。廊下にある大きな花瓶を見つめたり。普段でしたら、そのような視線の動かし方はしていなかったと思います」


ベラは観察力、洞察力に長けている。その発言が、リリィの顔を青く。フィリアの眉間に深く皺を作るほど、信頼していい発言だった。


「…それとなく探ってみます。それと二人とも全従者にもニアの行動に気を配るように伝えてください」


「「はい」」



(今日は満月だ)

フィリアがさっき帰ってきて、一緒に食事を摂った。

その時にオーフィス国のこと、アルティアが偵察に行くことを教えてくれた。


『なので、しばらくは待ちましょう』

そう微笑むフィリアに頷いた。

毎回彼は行動が迅速で的確だと思う。違うことに思考を巡らせている内に先に進んでいた。

部屋の明かりを消して、リリィが大きな窓の施錠をいつもはしないのに、しっかり閉められて、上についている小窓を開けて行った。

(もう…脱走しないよ)


リリィは今日一日、触れる度に心配する声が流れてきて、反省した。

(ニア様をお守りするの!何か不安があれば解消して差し上げたい!!)

こんなにも心配されている事に驚きと、罪悪感と少しの喜びがあった。


それと同時に、十六歳を過ぎても、ここに居たいと望んでいる私がいる。

その思いが強く、焦りに変わっているのも感じている。

真相だけでも知れれば解決するかもしれない。


彼奴を探しても、十六歳についてはエルディオンとの約束だ。

だから彼に直接聞かなくてはいけないのだ。


ベッドから降りて机の引き出しを開ける。

(私は回復魔法で自分を治療できる)

鋏を取り出す。

(無理だと判断したら直ぐに治療すればバレないかな)

そう安易な考えが思考を埋め尽くす。


グッと手首に刃を向ける。


(え…うそ)


じんわり赤い線が出来た瞬間。

部屋にあった植物が伸びてきて、私の手首を覆う。

明らかに植物の蔦が私を守っている。


「…ごめんなさい」

鋏を引き出しにしまうと、傷ついた蔦が元の鉢に戻っていく。

私は追いかけて傷ついた蔦に触れる。


小さな光が私の手首と蔦を癒した。




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