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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-4 運命の冬

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40.退廃の宴

 王宮の宴は、前と変わらぬ雰囲気であった。


 否、前よりも弛緩している――なぜなら前は少なくとも宴の席に宝石はなかったからだ。


 きらめくダイヤを指でつまみながら、ローンダイト王が言った。


「見ろ、この輝きを」

「……結構な宝石で」


 にこりと微笑みながら答えるクリフォードに、宴に参加した近臣たちが注目している。


「俺はこれまで宝石というのに興味がなかった。だが、それは……美しい宝石に出会ったことがなかったからだ」


 自分の顔をダイヤに照らしながらローンダイト王が答える。


 ダイヤは目玉ほどの大きさもあろうか。


 クリフォードのいる場所からもシャンデリアの光を反射しているように見えた。


(ダイヤはローンダイト王国では産出しない。またいらぬ趣味を……)


 レインドット大公が肥えた身体を揺らしながら、猫撫で声を出した。


「陛下、大変お美しゅうございます」

「お前の手の者が見つけてきたのだったな。褒めてつかわす」

「ありがたき幸せ。それで、陛下……そのダイヤにつきまして」


 うむ、とダイヤをテーブルの上の絹に置くローンダイト。


 しかしよほど気になるのか、王の視線はちらちらとダイヤに吸い込まれていた。


「ダイヤは南の国がぜひ友好をと差し出してきたもの。お返しをせねば」

「何をせよと言うのか」

「今、南の国は政情不安。どこもローンダイトとの繋がりを欲しております。お任せ頂ければ、さらに食の珍品と宝石が手に入るかと」


 それは甘い甘い、退廃の罠であった。


 王を腐敗させ、国政を良くない方向へと動かそうというものだ。


 間違ってもダイヤ欲しさに決めて良いものではない。


「もっと多くの、俺の知らないものがあるというか」

「ええ、世界は広うございます。今の技術の時代には、古の王が想像もしたこともない美味や美麗が手に入るのです」


 大公のくすぐるような言葉にローンダイト王が頷く。


「そうだ、俺は……楽しみ尽くすと決めた。良きに取り計らえ。そして次の宝石を手に入れろ」

「ははーっ!」


 大公が芝居がかって頭を下げる。

 まさに喜劇……それとも悲劇か。


 ややあって頭を上げた大公は、クリフォードを顎で差した。


「クリフォード、というわけだ。これからは南の国との折衝もお前がやれ」

「はっ……光栄でございます」


 要は南の諸国から上手くモノを引き出して、この宴に参加する人間の私腹を肥やせと。


 もちろん一番目立つものはローンダイト王の手元に行くのだろう。


 しかし、いらぬおこぼれでどれほどの国益が浪費されるか……。


「俺は忙しくてよく知らぬが、クリフォードの働き振りはどうなんだ?」


 ローンダイト王が近臣のひとりに目を向ける。

 その近臣は笑顔を浮かべながらクリフォードを持ち上げた。


「とても素晴らしいものでございますよ。昨今の財政改革も、クリフォード様の威光があってスムーズに進むものと」

「ああ、あれか……。商人どもが貯め込んでいるという」


 王の認識はその程度であった。


 税制を改めるということの大変さ、反発をまるで考えていない。


 昔から暗愚だと思っていたが、今の王は快楽に浸りきってさらに堕落している。


 得意げに大公が王に囁く。


「商人に力を持たせてはいけません。適度に締め上げなくては」

「その通りだ。クリフォード、お前は父の才能を継いでいるようだな。褒めてつかわす」

「もったいなきお言葉」

「これからも励めよ。そうだ……エランはどうしている?」


 ローンダイト王がエランの名前を出した途端、場がピリついた。


「陛下、エラン殿下は……」

「ようやく王都に呼び戻せたのに、あいつは姿を見せん。いつまでも忙しいなどと……」


 あからさまな不満をローンダイト王は抱いていた。


 しかし、それは憎悪からではない。

 むしろその逆、ローンダイト王は弟であるエランを愛していた。


 クリフォードがローンダイト王をなだめる。


「南の諸国が騒がしいゆえ、手が離せないのでしょう。近々、伺うように私からも申し伝えます」

「おお、そうか。頼んだぞ。あの真面目な弟にもこのダイヤを見せてやりたい」


 指先でダイヤを差す。


 間違いなくエランはダイヤを見ても喜ばないだろう。

 価値を知らないからではなく、価値を知っているために。


 王の楽しみのためにあって良いモノではないのだ。


 クリフォードは宴を辞して、広間から去った。


 去り際に大公から指示が下される。


「南の諸国について、担当の者から話を伝える。蓮の貴賓室にいろ」


 蓮の貴賓室はこの広間のすぐ近くにある部屋だ。


 広くはないが、どこも金ピカで目が痛い。


 そこでクリフォードは待機していたのたが……やって来たのは、ただの官僚ではなかった。

 予想だにしない、意外な人物が蓮の貴賓室を訪れる。


「す、少しいいかね?」

「……ええ」


 書類を抱えながら現れたのは、イリスの父――ろくでなしのアデス公爵であった。

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