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虐げられた公爵令嬢、女嫌い騎士様の愛妻に据えられる~大公の妾にさせられたけれど、前世を思い出したので平気です~  作者: りょうと かえ
1-4 運命の冬

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39.迷いと決断

 1月も半ば。

 ローンダイト王国ではもっとも寒い時期に差し掛かってきた。


 クリフォードはもう2か月近くもイリスに顔を見せてない。


 今、時刻は午後の遅め。しかし夕陽の暖かさは欠片もなかった。


 分厚い雲が空を覆って、少し前から冷たい雨が降っているからだ。


「夜になったら結構な雪になりそうね」

「きゅー」


 ミラはふにふにと窓際のイリスの手にすり寄ってくる。

 

 ほわほわなミラがイリスの手首に頭を乗せる。

 気持ち良さに目を細めながら、反対側の手でミラの背中を撫でつける。


(……計画は近日中に実行できるところまで来てる。あとはいつ、決行するか決めないと)


 当面の逃亡資金として、数年分の生活費は確保できた。


 警備の動きも変更なし。

 頭に叩き込んでいる。


 逃げる先は北の国々だろう。

 

(北の国ならバニラビーンズも多分、売れる……)


 ティリルから、バニラビーンズの売り先のほとんどは北の諸国だと聞いている。


 やはり美食やデザート関係の需要が高いらしい。

 バニラは温暖な地域でないと育たたないので、そうなるだろうが。


 さらに新聞によると温暖な南の国々は今、小競り合いが頻発している。


 本来のバニラの生産地である南へ行くのは、政情不安も含めて賢明ではない。


(……にしても大公は本当に私のところに来ないわね)


 大公がイリスを抱いたのは最初の一日目の夜だけ。

 それ以降、夜はおろか昼間にも姿を見せない。


 レイリアやルミエに聞いてはいないが雰囲気として……大公はイリスへの興味を失っているとしか思えない。


(もちろん、それならそれで好都合よ)


 イリスの中で計画を進めよう、という考えになったのはこの大公の動きも原因だった。


 本当ならもっとリサーチに時間をかけて、逃亡には念には念を入れようと思っていたのだけど……そこまでする必要はないと感じてきたのだ。


(私が逃げても追っ手を差し向けては来ないかも……)


 そこまで執着するのなら、大公ももっと姿を見せそうなものだ。


 しかし、今の大公はイリスに対する興味を喪失しているとしか思えない。

 

 ローンダイト王国から離れてしまえば、逃げ切れそうな気がする。


 ただ、同時に……もし大公がイリスのことを囲うだけならば逃げる理由が乏しくなるのも事実だった。


 アシャへは花を配達会社経由で届けるにしても……。


 逃亡生活に入れば、クリフォードと会うのはとても難しくなる。


(私は、私は……)


 この屋敷に来た当初は、逃げたくて逃げたくてたまらなかった。


 大公の妾だなんて絶対に嫌だったからだ。


 それは今も変わらない。

 でも様々なことが、ここに来た当初から変わってきている。


 イリスが前世を思い出したことも。

 色々な人との出会いも。


 あと、何かが欲しかった。

 ここで暮らすにせよ、逃げるにせよ。


 イリスは迷っていた。



 その頃、クリフォードはローンダイト王国の様々な者たちとの会合により、多忙を極めていた。


 国王や大公の忠実な英雄として、であるが。


 吐き気を催すような仕事ではあったが、その先を思えばやり甲斐はあった。


 エランに協力しそうな人間を見極め、彼に繋ぐ。


 エランもエランで動いており、新聞の記事はエラン側からのものだ。


(もっとも嘘がないのが悲しいことだが)


 これが単なる誹謗中傷なら心も痛むが、国家財政を食い物にしているのは何も変わらない。


 その上、北との揉め事が一段落して、さらに遊興費を積み上げようとしているのは事実なのだ。


 計画の詳細をクリフォードは知らない。知らないほうがいいからだ。


 クリフォードはあくまで大公の……ぎりぎりまでそうであったほうが、油断を誘える。


 そして冬も深まったある日、クリフォードは王宮の宴へとまた誘われることになった。


 あの日、キャロルに魔法を使って以来だ。


(…………そろそろではあるが)


 エランも動きを大きくしつつある。

 まだ察知されていないはずだが、危険はあった。


 気は進まないが、忠実振りを見せておく必要はある。


 ぱらぱらと雨が雪に変わる中、クリフォードは王宮へと参内した。


【お願い】

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