94.魔法の杖ってこういうの!
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結珠はスケッチブックにさらさらと絵を描いていく。
デザインを考えるために、結珠にも多少の画力はある。
まずは自分の作りたいデザインではなく、昔アニメで見た魔法少女が持っている杖を描いてみた。
「えーっと、普段はこういうアクセサリーになってて、いざ魔法を使うときに、呪文を唱えてアクセサリーを魔法道具に変形させるんだ」
ユズの絵は綺麗に描かれていて、何の知識もないジュジュにもとてもわかりやすかった。
が、絵はわかりやすいが、結珠の説明には首を傾げる部分が多い。
「その前提が良くわからないわ。どうして普段はアクセサリーで、魔法……魔術を使うときに変形させる必要性があるの?」
ジュジュが魔術師であるということは、全く隠していない。そもそも普段から身に着けているローブは、王立魔術師であることの証明であるローブだ。まずこれで一目でジュジュが魔術師であることがわかる。
有事の際には周囲から声を掛けられるので、むしろ隠すことはない。それなのに何故隠す必要があるのか。ジュジュには理解が出来ない。
「前にも言った通り、私の世界の創作では、こういう魔法を使える人は使えない人に溶け込んで世の中で暮らしていて」
「う……ん?」
「それは、悪の組織に正体がバレないようにするためなんだけれど。相手の悪も普段は人として紛れてて、あちらも正体がわからないようになってて」
「はぁ…………」
結珠の説明に、ジュジュはますます頭を抱える。
後ろ暗い人間は潜伏するのはわかる。犯罪が行われる場合は秘密裡だ。そう考えて、はたと気付く。要は潜入捜査官のようなものだろうか。
それならばワーカード王国でもないわけではない。諜報だとか、王家の影といった暗部ならばワーカード王国でもいる。だが、それが誰なのかは普通の貴族や国民には明かされていない。
そう考えれば納得も出来る。
ようやく話の流れがわかってきた感じがして、ジュジュの頭にも結珠の説明が入ってくるようになった。
ただ、それを担うのが成人前の少女であるということが少々引っかかるが。そこは今は重要な部分ではないと、ジュジュは頭の片隅に追いやる。
「なるほど。ようやくわかってきたわ。とりあえず、正体が敵に悟られないように、大きな魔法道具は小さく変形をさせて、普段は身に着けられるものになっていて、有事の際に使用すると」
「そう! で、こっちが身に着けられるもので、本来の杖はこんな感じになるの」
「この杖に魔力がたくさん入っている?」
「それはどうだろう。その創作物にもよるかな? 大体は、本人が魔力を持っていることの方が多いと思う」
結珠の説明にジュジュはピンと閃いた。そこが違うのだ。
「理解は出来たけれど、そうなるとやっぱりワーカード王国では同じようなものを再現するのは厳しいのではないかしら?」
「どうして?」
「今、ユズが自分で言ったでしょう? 術者本人の魔力だって。ワーカード王国の魔術師は?」
逆に問われて、結珠はようやくその壁を思い出した。
そうだ。ワーカード王国の魔術師は、体内に魔術を使える程の魔力を保有していない。外部魔力に依存している。
「私たち魔術師は全く魔力がないわけではないのよ。魔力がない者は魔術師にはなれないもの。でも、自分自身の魔力を魔術に変換出来る程の力は持っていない。魔法道具に込められた魔力に依存している」
そこを解消しない限りは杖にはなりえない。
おまけにアクセサリーの状態で魔法道具として成立しているのだ。それをわざわざ杖に変形させる理由がなければならない。
「詰んでる……」
「まぁ、それは最初からわかっていたことだから……。でも、小さいものを大きくするという発想そのものは悪くないと思うの。それこそスタンピードが発生した際に、一網打尽に出来るでしょうし」
実際、スタンピードなど滅多に起きないが、そこは言わないのが花だ。
最初は小さければ、大きな魔法道具を運ぶ労力が減る。と考えるしかない。
「というか、まず小さいものを大きくする魔術ってあるの?」
「一応あるわ。やってみましょうか?」
多少大きくしても影響の少ないもの。と、周囲を見渡して、ジュジュは皿の上を見た。
「この焼き菓子を大きくしてみても良いかしら?」
「え? このお菓子、大きく出来るの?」
「出来るわよ。あまり大きくしないようにするけれど、万が一大きくなった瞬間、茶器を引っ掛けると大変だから、ちょっと周りを片付けましょうか」
「うん! ちょっと待って!」
結珠はティーポットとカップ、焼き菓子をのせていた皿を片付ける。カウンターに焼き菓子をひとつ、直に置いた。
「ちょっと離れてて」
そう言うと、ジュジュは首にかけたネックレスの魔法道具の魔石を左手に握りこみながら、右手を菓子の方へと向けた。
「ウンター・ニッヒ・リーズィー!」
ジュジュが何やら呪文を唱える。ジュジュの髪が魔術を使用したことによってふわりと舞った。そして、すぐにカウンターの上の焼き菓子が少しずつ大きくなっていくのがわかる。
「わっ! わっ! わっ!」
結珠は驚きのあまり声を出した。焼き菓子は一口サイズだったものが、あっという間にノートパソコンくらいのサイズになった。
「おっきくなった! え!? 嘘っ!」
初めて見た魔術に、まるで子供のように結珠ははしゃいだ。これが魔術なのか。
「すごい! すごいよ、ジュジュさん! これが魔術なんだ!」
「褒めすぎではない? 初歩の魔術よ」
興奮している結珠に褒められて、ジュジュはほんのりと頬を赤らめた。
「いや、だって! 小さかったお菓子がこんなに大きくなった! うわぁ! すごい!」
触っても大丈夫かなと言いながら、結珠は大きくなった菓子と人差し指でつついた。
「ただ大きくなっただけだけよ。ただ、食べるのはあまりお勧めしないわ」
「そうなの?」
「ええ。味がね、多分良くないから」
「食べてみても?」
「毒ではないから大丈夫だとは思うけれど」
毒ではないのならばと、結珠は大きくなった菓子をちぎって口に入れた。味はしなかった。
「あれ? 味しない?」
「ええ。ただ大きくなっただけだからなのよ。通常の大きさを十として、この大きさを百とするでしょう? でも大きくなったからといって全部が百になるわけじゃないのよ。通常の大きさの味が十、大きくなったものの味も十。でも大きさは百。ということは?」
「ああ……なるほど。味は薄まっているってことか」
「そういうこと。だから味がしないのよ」
食料が魔術で大きくなれば、食べられる部分が増えるのだから、食糧難を防げそうなものだが、成分は変わらない。
大きさによっては大きくしたことによって味がしなくなる。食糧難を凌げるわけではない。なので、食物を大きくすることは出来るが、食べてもおいしくないので、やらない。というのが答えだ。
「話が逸れたわね。でも理屈としては食べ物も魔法道具も一緒だと思うわ。魔法道具を大きくしても、内蔵された魔力が変わるわけじゃない。大きくなった魔法道具も元の大きさも魔力が十、入っていたとしたら十のまま」
「そっか。そこを考えないといけないんだね。難しいなぁ……」
「それこそ国宝級の魔法道具を作るようなものね」
やっぱりそこにたどり着いてしまう。国宝級の魔法道具を作る。
気軽に作るものではないということだ。腕を組んで、結珠はうぐぐとうなる。
「もっと気軽に……いやでも、大きくする目的……メリット……方法……」
考えることが多すぎて、頭がオーバーヒートしてしまいそうだ。
前途多難である。




