93.魔術師になる?
本作「おばあちゃんと孫と魔女の店 ~ 祖母から相続したお店がとんでもなかった件について ~」(イラスト:フライ先生)の書籍版が、SQEXノベルより発売中です!
ぜひぜひお手に取って頂けると嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたします!
「ちょっと待って、ジュジュさん! 私のための魔法道具って何!?」
「そのままの意味よ。あなたが使う、あなただけの魔法道具」
「私が使う……?」
理解させるために何度も繰り返しジュジュがそう告げる。
口に出してようやく結珠の脳内にも浸透をしてきた。
私が使う? 私だけの魔法道具?
「ちょっと待って! 私は魔女かもしれないけれど、魔術師ではないよ」
そうだ。まだ実感はないが、結珠は魔女だ。魔石から魔法道具を作り出し、魔力を込めて提供する魔女。
魔女が作った魔法道具を行使して魔術を使うのが魔術師。
結珠は魔法道具を作ることは可能だが、それを使用することは出来ない。
しかし、ジュジュはそんな結珠を否定した。
「ユズが言ったんじゃない。魔女とは創造力を持っているって。だから、初めから出来ないだなんて決めつけないで、自分が使える魔法道具を作ることを目指せば良いでしょう?」
「……なるほど?」
口ではそう言いつつも、そんなことが可能なのか。
必要以上に瞬きを繰り返しながら、結珠は頭をフル回転させて考える。
私が、魔術? 使えるの?
そもそも使えたとして、何をするの?
その前に魔法の杖を作ったとして、何をするの?
変身して悪の組織と戦う?
いや、悪の組織なんていないし……。
っていうか、どこで魔術使うの? 店の中で使えるの? ここ日本だよね?
「ユズ? どうしたの? 急に固まって」
ジュジュの声掛けに、はっ! と意識を取り戻す。
「ごめん。いや、その……本当にもし魔術を使えるようになったとして、どこで何のために使うのかって考えてて」
「言われてみれば、確かに。何か具体的な夢があるの?」
すばり聞かれて、結珠は言葉に詰まった。
「実は、そこまで考えてなかった」
「ユズって結構、直情型なのかしら? 思ったら突っ走る、みたいな?」
「……返す言葉がございません」
ばっさりと切り捨てられて、結珠は少し項垂れた。
ジュジュの言う通りだ。自分はこれだ! と思ったら、猪突猛進になるところがある。それでうまくいくこともあれば、失敗することもある。
この店を継いでから、どちらかというと良い方向に行っていたこともあって、すっかり立ち止まることを忘れていた。
そういえば、以前は祖母がストッパー役だった。いなくなってしまって、止める人間がいなくなり、冷静になることをも少なくなっていた。
作りたい! という情熱をもって、プレゼンを始めたのは良い。だが、それはあくまで第三者が使う魔法道具であることを前提に考えていたので、魔術師ではなく結珠が使うための魔法道具となれば、話は別だ。
自分が使うための魔法道具と言われると、途端に目的を失ってしまった気持ちになった。
そんな様子の結珠を見て、ジュジュはふふっと笑って、少し冷めたお茶を口にする。
「少し冷静になったかしら?」
どうやらジュジュにはお見通しだったらしい。
結珠はカウンターに突っ伏した。
「ねぇ、ユズ」
「なぁに、ジュジュさん」
「私たち魔術師は、魔法道具がなければ魔術は使えない。だから、使う魔法道具には絶対の信頼を置かないといけない」
ジュジュの言葉に、結珠は頭を上げる。
その通りだ。不良品の魔法道具では、魔術が使えない。そうなれば、生命の危機に直結する。それに込められた魔力の質が良くない場合も同じだろう。思った通りの魔術が使えず、規模が小さく展開するかもしれない。
「その点、ユズが作る魔法道具は申し分ないのよ。魔力の質も良いし、思った以上の魔術が使える。安心して持っていられるわ」
「……ありがとう」
手放しに褒められるのは、ちょっと恥ずかしいが、ここは素直に礼を言う。
「でもね、使用者のことを考えない魔法道具は、すでに道具ではないの。何のために作るのか、どういうことのために使うのか。ただの憧れだけで持っていても仕方がないのよ。ユズは自分が使うものとして作ればいいという私の提案に対して、とっさに答えられなかった。それが、ユズが作りたいと言った道具の答えではないのかしら」
「あ……」
厳しい指摘に結珠は何も言えなくなった。
自分に置き換えたときに、結局色々と言い訳をした。自分は魔女で魔術師ではないから使えないとか、もしも使えたとして何のために魔術を使うのか目的が見いだせないこととか。
ジュジュの提案を全て否定的に考えた。出来ない言い訳をした。
自分で『魔女には創造力がある』なんてかっこいいことを言ったのに、出来ない理由を探した。
「私……出来ない理由を探してた」
「そうね。魔女だから魔術師ではないとかね。でも、私たち魔術師はその魔女に半分命を預けているのよ。ユズたち魔女が作る魔法道具がなければ、魔術師だってただの人だもの。でも、その魔術師が使えない魔法道具を与えられたところで、それはただの置物に成り下がるのよ。使えない魔法道具は魔法道具じゃないわ」
「ごめんなさい……突っ走りました」
「別に謝ってほしいわけじゃないわ。ただ、少し冷静になって。低価格魔法道具のとき、私もナールさんも止めなかったのは、使用者に負担が少ないとわかっていたからよ。でも、ユズが言う魔法の杖というのは、低価格魔法道具とはわけが違う」
そもそも結珠のふり幅が大きすぎるのだ。三回しか魔術が使えない魔法道具を生み出したと思ったら、今度は大規模魔術を展開出来そうな大きな魔石を使用した魔法道具を作りたいと言う。
結珠の知識は、どれもワーカード王国にはないものだ。それが良いものを生むきっかけにもなれば、的外れなこともある。
今回は的外れな方向へ行ってしまったというだけだ。
「ただね、私も思うの。ユズの考えも斬新で、ワーカード王国には今までなかったものだから、大事に出来たらって。その上で、ワーカード王国の常識とすり合わせて妥協点を探っていけたらって」
「妥協点……」
「そう。あなたは、人の意見を聞かない人ではないでしょう? だから、ユズが作りたいものと私の意見をすり合わせて、両者が納得出来るものを探せば良いと思うのよね」
「ジュジュさん! いいの!?」
「いいも何も、私だって新しいものは好きよ。この前のネイルだってそうじゃない。今まで見たことがないものって、わくわくするわ」
低価格魔法道具が作り出されていく瞬間も、非常に心が躍った。
新しい魔法道具が生み出され、それに自分の意見が反映されるとは何とも面白かった。
結珠は突っ走る部分があるけれど、だからと言って全てを自分本位で進めていくような人間でもない。
恐らく、誰もが否定から入ってしまったことで、絶対に作りたいと意固地になってしまった部分があるのだろう。ちゃんと理屈を説明すれば、理解する。
互いの意思を尊重しあえば良かったのだ。それを真っ向から、前例がない、知らないと言い続ければ反発もしたくなるだろう。
それが自分が作りたいと願っているものだとすれば、なおさらだ。
「まずは、ユズが言う魔法の杖の特徴を教えて。どういう形をしていて、どういう効果があるのか。そこか私たち魔術師がどう違和感なく使えるのか……考えていきましょう!」
「ありがとう、ジュジュさん! 私、何か描くものを持ってくる!」
結珠は座っていたスツールから立ち上がると、作業スペースの方へと駆け込み、スケッチブックと筆記用具を持って戻ってきた。
「まずは描いて説明する感じでも良いかな?」
「ええ、お願いします」
ジュジュが返事をすると、結珠は鉛筆で絵を描き始めた。
さっきまで萎れた花のようだったのに、もう生き生きとしている。
(やっぱり直情型ね……)
こういう部分が同い年にも関わらず、少し自分よりも幼く見える原因なのかなと、ジュジュは思った。




