85.かんざしの魔法道具と公爵令嬢の処罰
「おばあちゃんと孫と魔女の店」の番外編を3/10 より始めました。
別ページでの不定期更新です。
シリーズとしてまとめてありますので、詳しくは私のユーザーページまたは、本編目次上部のシリーズ名から飛んでください。
「俺が買っていた? どういう意味だ?」
「それ、かんざしの魔法道具ですよね?」
「かんざし? なんだ、それは?」
ジュジュの言葉の意味がわからず、ディーターは首を傾げた。
しかしすぐに自分の手元にある魔法道具のことだと気付く。
「これのことか?」
「ええ、それです。昨日、ユズに聞いたんです。その魔法道具はユズが初めて作って、売ったものだと」
隠してもすぐにバレるだろうと、ジュジュは素直に説明をした。
ディーターも心当たりがあったのか、ああと頷いた。
「俺がこれを購入したときに、今の店主が作ったものだと、先代がそう言っていたな。ジュジュには俺が購入したことを話していなかったか?」
そういえば、マンフレッドには話した記憶があるが、ジュジュには話していなかったかもしれない。
ディーターも購入した経緯をジュジュに説明する。
「そうだったんですね。……ということは、ユズは師団長が自分が初めて作った魔法道具を購入したことを知らないんですね」
昨日の結珠の様子では、売れたことは祖母から聞いていたようだが、祖母が誰に売ったかまでは教えてもらっていない様子だった。
知ったら荒れそうだなとジュジュは、結珠にはディーターが購入したことを教えるのはしばらくやめようと決める。時期は見計らうべきだ。
「へぇ? それで、これはかんざし? というものなのか? 魔女に聞いたんだったら、これがどういう風に身に着けるかわかるか? 先代に使い方の説明を聞くのを忘れたんだ。見たことがない形状だし、ブローチでもない。着け方がわからなくて、いつもポーチやローブの内ポケットに入れているんだが……」
「それは、かんざしという髪飾りだそうです。なので、髪に挿しますね」
「え? 髪飾り?」
予想もしない答えに、ディーターは驚いた顔をした。
ジュジュはお茶を淹れ終えたディーターに了承を取って、かんざしの魔法道具を借りる。
自分の髪をねじってまとめるとかんざしを挿して、止めた。昨日、結珠に聞いて覚えたやり方だ。
かんざしは結った髪に挿すことも多いが、こうしてねじってまとめた髪に挿すことで髪紐代わりにもなる。
ディーターにはこういう使い方のものだと説明するだけなので、きちんと挿さらなくてもわかってもらえるだろうと思いつつ、ジュジュはディーターに背を向けた。
「こういう感じです。これ一本で髪をまとめることが可能ですね。もちろんきちんと結ったあとに挿して飾る方法もあります」
かなり汎用性が高いと結珠が説明してくれたと告げたが、ディーターはまだ驚いたままだ。
「師団長も髪に挿してみたらいかがです?」
「俺が? 男の俺がか?」
「男性でも師団長でしたら似合うと思いますよ」
冗談とも本気とも取れるジュジュの発言に、ディーターはこめかみを押さえた。
「勘弁してくれ……。どうみても女性が着けるような意匠じゃないか……」
「そうでしょうか? 大丈夫です! 師団長ならばいけますよ!」
これだけ整った顔だ。ディーターが身に着けても問題はないだろうとジュジュは意気込んだが、ディーターには却下された。
「大体、どうしてまた髪飾りを魔法道具にしようと思ったんだ?」
ディーターの意見にジュジュは苦笑する。
それもそうだろう。 魔法道具は男女ともに使うものだ。それを何故髪飾りにしようとしたのか。
ワーカード王国の魔女たちが作る魔法道具に、女性向けに特化した髪飾り型のものはほぼないのだ。ディーターがそう思うのも無理はない。
「ユズが言うには、魔法使いの杖? というものを作りたかったそうですよ」
「魔法使いの杖? 何だそれは?」
ジュジュは結った髪を梳いて、ディーターにかんざしの魔法道具を返却しながら話しを続ける。
「私にもよくわからないのですが、彼女の世界の魔法使いや魔女は、こういう杖を媒介にして魔術を使うそうです」
その説明に、ディーターはますますわからないといった顔をした。
「杖が魔法道具なのか?」
「そういうわけでもないそうですが……。ユズの説明ですと、杖を使って変身して悪の組織と戦うそうです」
「……変身? 一体何に変身するんだ? 全くわからん。彼女の世界ではそれが常識なのか?」
「常識といいますか……全て創作の中の話らしいですが……」
結珠の世界に魔術はなく、全ては創作。創作だからこそ憧れる人が多いらしく、そういったレプリカのアイテムを好む愛好者が多いというのは昨日、話の流れで聞いた。
そのかんざしも、そういった一環として作ったものだと。
結珠は、それがまさか本物の魔法道具になるとは思ってもいなかったらしい。
「本物の魔法道具になったのだったら、魔法使いの杖を作りたい! って言ってましたが、彼女の説明では、杖はこんな風に小さいものではなく、それなりの長さだそうです。そんな長い杖に付ける魔石の大きさは? と問いかければ、現実的ではないと気付いて、作れないとがっかりしていましたが……」
「まあ、そうだろうな。一体どれだけの大きさの魔石を使うつもりだったのか」
このかんざしがそのままのデザインで大きくなった状態を想像する。そうなれば、杖そのものも重いだろうし、魔石もとんでもない大きさだ。現実的ではない。
「だが、発想は面白いな……。なるほど、杖か……」
ディーターはそのまま考え込んだ。
ジュジュはディーターが淹れてくれたお茶をひとくち飲んだあと、おもむろに口を開いた。
「ところで、師団長?」
「なんだ?」
思考を続けていても、耳は一応ジュジュの声が届いているらしい。
ではと、ジュジュは話しを続ける。
「脱線させた私も悪いですが、お話しの続きをよろしいでしょうか」
「……すまない」
ディーターもお茶を飲んで気持ちを切り替えると、先程のゲンクローシ公爵家の行く末について話を再開した。
□■□
それから数日間、ジュジュはディーターの説明通り、事情聴取やら何やらで忙しい日々を過ごした。
異例とも言える速さで、ゲンクローシ公爵令嬢の裁判も行われた。
いくら意図的ではなかったとはいえ、王族の命に危険があったのだから当然なのかもしれない。
父公爵も今回の責任を取ってすでに宰相を辞職し、令嬢の長兄である息子に爵位を譲渡するために手続きを進めている。
彼女の言動のせいで、一族郎党に迷惑がかかっている。父からも色々と言い含められているのかもしれない。
だからだろうか。どうやっても言い逃れが出来ないと思ったのか、ゲンクローシ公爵令嬢は、大人しく裁判で証言を行っていた。
もちろん目撃者も多く、その動機も自分勝手極まりないので、彼女がどう言おうが、無罪というわけにはいかないだろう。
その裁判の様子を証言者として傍聴していたジュジュは、正直に言えば意外だと思った。もっと自己主張をして抵抗するものだと思っていた。
しかし、ゲンクローシ公爵令嬢は覇気がないといった様子で、ぽつぽつと証言をしている。
どうやら、ディーターに完全に拒絶されたことが堪えているようだ。
昨日、ディーターはゲンクローシ公爵令嬢へ会いに行ったらしい。最初こそ、心配して駆けつけてくれたのかと喜色を示したそうだが、ディーターは追い打ちをかけるかのように引導を渡してきた。
そこで彼女の心は完全に折れたようだった。
ディーターはジュジュに対して、裁判の証言に妨げとなるだろうからと多くは語らなかったが、恐らく処刑か修道院行きかを迫った様子だった。
それがかなりショックだったようで、ようやく全てを認めたようだ。
さらに、ディーターに思いを寄せる他の令嬢へも、かなり苛烈なけん制を行っていたらしく、ジュジュが思っていた以上に罪が加算されていった。
ジュジュの公爵令嬢に対する証言など、ほぼ添え物のようなものだ。
むしろ使用したネイルチップとリングの魔法道具へのツッコミの方が多かった。
聞かれる可能性を想定して、事前に結珠への確認と許可を貰った上で、試作品であることは伏せて、低価格魔法道具を生んだ魔女の作品であると証言は行った。
ドレス姿でも使用可能な魔法道具を依頼して作られたものだと発表し、女性魔術師向け商品であると告げると、裁判を傍聴していた女性貴族や男性魔術師たちがあからさまにがっかりした様子が見て取れた。
貴族位の女性魔術師はかなり少ないので、使用者はほぼ限られている。
それを踏まえての証言だ。嘘は真実に多少混ぜて告げれば、より真実味は増す。
これも結珠と相談して考えた証言内容だった。
女性貴族へは、新しい流行にはなりえない、男性魔術師へは、女性だけが使用可能なもの。といった印象付けだ。
それでも欲しいという魔術師がいた場合は、ひとりひとりの爪の形や指のサイズに合わせてオーダーメイドで高額になると言えば諦めるだろうと考えている。
こうして裁判はあっという間に終わり、ゲンクローシ公爵令嬢への判決も早々に決まった。
やはり、ディーターの見立て通り、辺境にあるワーカード王国内でも一番厳しい修道院行きとなった。
そこで一生涯を過ごすことになるらしい。
あれだけ色々とされたのに、最後はあっけなかったなと思う。
社交の場で戦うつもりだったのが、結果的には相手が逆上してついに犯罪行為となってしまった。
こうなる前にどうにか出来なかったのかと、そういう考えがどうしても過ぎってしまう。
ディーターやマンフレッド夫妻、他の同僚たちもジュジュが気にすることではないと言ってくれるが、どうしても気になる。
裁判は終結して、ゲンクローシ公爵令嬢は騎士に連行されていく。実際に修道院へ行くまではしばらくは貴族牢へ収容されているのだという。
そんなゲンクローシ公爵令嬢の後ろ姿を見ながら、ジュジュは人知れずため息をついた。




