84.魔法使いの杖
「物騒かぁ……。でも私からしてみたら、魔物も相当物騒な気もするなぁ……」
「そうなの? ユズの世界には魔物はいないの?」
「いるわけないって! そもそも魔法や魔術が存在していないんだから、魔物なんていないいない! 害獣なんて呼ばれる野生の動物がいるくらいかな」
昨今の日本でも熊被害は大きい。駆除するにしても捕獲するにしても大変な苦労が現在進行形で付きまとっている。
そういう意味では、日本も物騒になったのかもしれない。
「なるほどね。そういう部分から私たちには認識の差が大きく出ているのね」
改めて互いに納得する。
ジュジュからしてみたら、その認識の差がジュジュたちワーカード王国の人間との常識と違う部分でもあり、結珠の間にズレが生じるのだ。
だが、そのおかげで新しい魔法道具が生み出されている。
実用化が出来るかどうかは、ワーカード王国の文化との差をどれだけ埋められるかなのだろう。
そのため、今回ネイルチップは実用化に向かないと判断する結果となった。
ジュジュはふと思う。ここで結珠に「そんなものはない」と告げるのは簡単だ。
けれど、それを告げるということは、結珠の可能性を奪ってしまうことと同じ。
結珠は先程、魔女とは「創造力を兼ね備えた者」だと言った。であれば、否定しない方が良いのかもしれない。
「ねぇ、ユズ」
「ん? なぁに?」
「あなたの言う、魔法使いの杖。作ってみたら?」
「へ? どういうこと?」
突然のジュジュの提案に、結珠は目を丸くする。
「だって、ワーカード王国には杖がないんでしょう?」
「そうね。でもだからって作ったらいけないというわけじゃない」
確かに。だが、そのためにはクリアしなければならない課題はいくつもあるだろう。
そう伝えると、ジュジュは意外にも笑った。
「あら、さっきユズが自分で言ったんじゃない。魔女や魔法使いは杖を持っているって」
「うん……まぁ……言ったね」
「それに、魔女は創造力を持っているのでしょう? だったら、自分の可能性を狭めてはいけないわ」
「なるほど……。諦めたらダメってやつだね」
結珠は少し考え込んだ。
「そうだね……。ちょっと考えてみるよ。それに全く売れないってわけじゃないだろうし」
「あら、そうなの?」
「うん。私がお店初めてからは、魔法の杖風のかんざしってワーカード王国のお客さんには売れたことないんだけど、まだおばあちゃんがお店やってたときに一度だけ売れたことがあるんだよね。だから、用途さえわかったら売れる可能性もあるのかなって」
「リーナが店主の頃の話?」
「そう。前に話したことなかったっけ? おばあちゃんが多分私をこの店の跡継ぎに決めた、試験みたいなもので……。こういうかんざしを作ったんだよね。すぐ売れたって聞いたから、売れる商品なんだって思って作ってたんだけど……」
「へぇ……。髪飾りだとわかっていたのかしら?」
「どうなんだろうね? おばあちゃんは「すぐ売れたわよ!」なんて言ってくれたから、私はアリなんだ! って思ってたんだ。でもジュジュさんの話しを聞く限りだとそういうわけでもなさそう」
何はともあれ、こういう作品作りは成功と失敗を繰り返して試行錯誤していくものだ。
一度はあきらめかけたが、ジュジュの言う通り、もう少しチャレンジしてみるのも正解かもしれない。
このあと結珠は、ジュジュに結珠が言う魔法の杖というものはどういうものかと尋ねられて、絵を描きながら説明を続けた。
スマートフォンで画像を見せることが出来たらもっと話しは早かっただろうが、さすがにまだジュジュへスマートフォンを見せるには早いと思い、自分の絵で説明をする。
魔法の杖風のかんざしという実物もあった分、それは割とスムーズだった。
結局、話しは盛り上がり、店は閉めたまま夜を迎えてしまった。
□■□
次の日。ジュジュは通常通り、魔術師団へ出勤した。
城内はいつもより少しざわついている気がする。どうやら一昨日の夜会の件について、色々と騒ぎが続いているらしい。
まだ内々ではあるもののゲンクローシ公爵は宰相を辞任することが決まったようだ。
魔術師団の執務棟へ入った瞬間、最初に会った同僚がそう教えてくれた。加えてディーターが出勤したら自分の執務室へ来るようにと伝言されたとのことで、ジュジュはそのままディーターの執務室へと向かう。
執務室の扉をノックし、自分の名前を告げる。すぐに部屋の中から「入ってくれ」というディーターの声が聞こえた。
「おはようございます。お呼びだと伺いました」
「ああ。朝からすまない。座ってくれ」
促されてソファへと腰掛ける。ディーターもジュジュの向かい側へと座った。
「早速だが、一昨日の夜会の騒動についてだ」
「はい」
「ゲンクローシ公爵は宰相を辞任することが決定した。娘が起こした騒動の責任を取る形だ」
「先程聞きました。残念です」
娘の教育には失敗をしたが、ゲンクローシ公爵は宰相として申し分ない人間だった。これから誰が新しい宰相になるか、またひと騒動ありそうだ。
「ゲンクローシ公爵令嬢は、現在貴族牢に収容されている。裁判になるはずだ。恐らくは修道院行きになるだろう」
「そうですか……」
ワーカード王国に、いわゆる刑務所といった場所はない。貴族が罪を犯した場合、その役割に近いものは修道院となる。
罪の重さに比例して行き先の修道院は様々あるが、今回のような場合は一番厳しい修道院となるはずだ。規律も厳しく、外出も認められない。場合によっては一生そこでの生活になる可能性もある。
「ジュジュにも事情聴取に参加してもらいたい。あの魔法道具についての説明が主軸になるだろうが。実物を持ってきてもらえるだろうか」
「わかりました。今日は持参しておりませんので、明日持ってきます」
「頼んだ」
昨日、結珠へ返そうと思ったネイルチップとネイルリングは、結局結珠に受け取ってもらえず、ジュジュは持ち帰ることになった。
ある意味好都合だ。証拠品として王宮へ提出しなくてはならないようだ。もしも返却していたら、また結珠から借りなくてはならなくなっていただろう。
これから起きるであろう面倒事に、ジュジュは小さく息を吐きだした。
「憂鬱か?」
「あ……! 申し訳ありません。師団長の前でため息だなんて」
「いや。ジュジュは巻き込まれただけなのにな。半分は俺の責任でもある」
「……まぁ、そこは否定できませんね」
フォローしたくとも出来ない。ディーターがさっさと婚約でも結婚でもしていれば、ここまで大きな騒ぎにもならなかっただろう。
そして、ジュジュも装飾品で見返してやろうだなんて考えもしなかったはずだ。
様々な要因が複雑に絡み合った結果ではあるので、ジュジュにも何とも言えない後味の悪さが残っている。
「……私もいけないんです。仮にも子爵家の人間が公爵家の方を見返してやろうだなんて考えたから」
「それは違うんじゃないか?」
「そうでしょうか」
「ああ。上位だとか下位だとか関係なく、貴族なんて足の引っ張り合いだ。男には男の戦い方があるし、女性にも女性の戦い方があるだろう。身分の差で煮え湯を飲まされていた人間なんて、たくさんいる。たまには一矢報いたいと思っても、それは人として当たり前の感情だろう」
話しが長くなると思ったのか、ディーターは立ち上がって、お茶の準備を始めた。
ローブの内ポケットから魔法道具を取り出す。ティーポットに魔法で水を入れて、再度魔法を使いその水をお茶を淹れるのに適した温度にする。茶葉を入れてポットの蓋をした。
その様子をジュジュはぼんやりと眺めて、ディーターが手にしていた魔法道具を見て、あ! と声を上げた。
「どうかしたか?」
「あ、いえ……その……」
ジュジュがゆっくりと魔法道具を指さす。
「これがどうかしたか? ああ、そういえばあの魔女の店で、まだ先代が店主だった頃に買ったやつだな」
「え!? 師団長が買っていたんですか!?」
ディーターの手にあった魔法道具は、結珠が祖母の指示で作った、魔法使いの杖風のかんざしだった。
明日は例の一年前にもあったアレの日なので、更新ありまっせ。(ただし、別ページを作ります)
とりあえず3/10の7時を過ぎたら私のユーザーページでも見てください。
3/10 追記
「おばあちゃんと孫と魔女の店」の番外編を3/10 より始めました。
別ページでの不定期更新です。
シリーズとしてまとめてありますので、詳しくは私のユーザーページまたは、本編目次上部のシリーズ名から飛んでください。




