15.Let's cook!
途中で畑に寄ってキャベツっぽい見た目の葉野菜を収穫して、キッチンに戻ってきた。
全員で順番に手を洗い、すみれは持参したエプロンと三角巾を着ける。
包丁を使えて、魚を捌ける子には下拵えを手伝ってもらう。包丁が危ない年齢のチビちゃんには食堂の(大きな机と沢山の椅子があるだけの部屋だが)準備担当だ。
「イーサンさん、こう……風魔法で、このパンを細かく出来たりします?」
イーサンというのはあの強面騎士の名前だ。ちなみにキリン獣人の騎士はニールと言うらしい。すっかり名前を聞き忘れていたので、作業しながら教えてもらったのだ。
「出来る……ますが、折角のパンを……いいのですか?」
「や、イーサンさん、敬語とかいいので……お願いします、出来るだけ細かく!」
「……わかった」
パンはすみれ達が城で大量に焼いて持ってきた物だ。他にも小麦粉や卵といったクッキーの材料になる物資も既にキッチンに山と積まれてある。
そしてイーサンに作ってもらっているのはパン粉だ。
小麦粉に卵とパン粉とくれば……もうお分かりだろう。そう!魚のフライを作るのである!
空中で細かく刻まれてボールに入って行く様子を子供達が興味津々で見つめているのが可愛い。
キャベツっぽい野菜は見る見る間にミアによって超細い千切りになっていくのもずっと見ていられそうだ。
下拵えの済んだ魚の切り身を、卵と小麦粉で作ったバッター液につけ、パン粉をまぶして熱した油へと投入する。
小気味いい音に全員釘付けになっているのにまた笑って、ふっくらキツネ色に揚がったフライを敷紙の上に置いていく。
すみれの額に、油の熱のおかげで汗が滲んだ。揚げ物は作業カロリーも高いのだ。熱せられた油が跳ねて火傷したりもするし、と見ている子供達にも注意を促す。
(それでもやっぱり美味しいから、皆に食べさせてあげたいって思ったんだよね)
この国では大体魚は塩焼きにしたり、乾燥させて干物にするのが主流だそう。揚げ物は大量に油を使うし、平民には贅沢品とされている。
大量のフライを揚げ終えたすみれはタオルで汗をふき、次の作業に移った。
この国では調味料の類いもあまり種類がない。生肉のままでも余裕で食べられる種族であるというのが大きい。
なのでマヨネーズなんて物も当然ない。いや、無かった。すみれがりんごに似た果物と、イースト菌と蜂蜜を瓶に入れて、実験よろしく数々の失敗を経て作り上げた酢に、卵黄と塩を入れてとにかく混ぜる!──のはニールにお願いした。そこへ少しずつ油も入れていき、もったりしたら出来上がり!
「レミィ、これ何?」
「私の国の調味料だよ、美味しいから楽しみにしてて!」
パンはコッペパンの形で焼き上げてある。パン粉にしたのとは別に置いておいたそれの真ん中に切れ目を入れて、フライ、キャベツ、マヨネーズを挟めば完成だ。
「出来たーーー!なんだろ、フライ・パンはややこしいな。フライ・コッペとか可愛い?」
「「「美味しそう~!」」」
「よォし、皆も手伝ってくれる?」
食い入るように全員がすみれの手元を見ていたので、大丈夫そうだ。
あるだけのお皿に目一杯フライ・コッペを載せて食堂へと運ぶ。数個取り分けて、イーサンにルト達の所へ差し入れてもらうことにした。
「皆揃って食べたいから、ルトに渡したら直ぐ戻ってきてね」
イーサンは嬉しそうに頷いて皿を手に食堂を出て行く。強面騎士とか思って申し訳なかったとすみれは胸中で反省した。
ワクワクと待ちきれない子供達の手にフライ・コッペを持たせ、戻ったイーサンにも手渡した。
「じゃあ、食べよう! いただきまーす!」
「いただきますってなぁに?」
「食べるぞーっていう号令みたいなものだよ。命や作ってくれた人への感謝とかを込めて言うんだ」
「へぇー! いただきます!」
「「「いただきます!」」」
ザクザクッという小気味よい音がそこここから聞こえる。すみれも大口を開けてかぶりついた。白身魚のふっくらした身も、サクサクの衣も美味しい。キャベツとマヨネーズとの相性もバッチリで口の中が幸せの洪水だった。
(はぁあ~!! マヨネーズ、美味しい!!)
元の世界では当たり前のようにあった調味料を、こちらで生み出すのには本当に苦心したのだ。
子供達の幸せそうな顔を見て、頑張って良かったと心の底から思えた。
「美味しい! 特にこの黄色いの!」
ミアも大興奮だ。気に入ってくれて良かったとすみれもつい得意気になってしまう。
「これはね、マヨネーズって言うんだよ」
「へぇー!」
既に食べ終わった子が、モジモジすみれを見上げている。おかわりだな、と新しいフライ・コッペを渡してあげるとキラッキラの笑顔を見せてくれた。
「皆もおかわりあるからねー! お腹いっぱい食べてね」
「わぁい!」
「美味しい~!」
盛り上がる子供達とは少し離れて黙々と食べている子らを見つけて、すみれはゆっくりと近付いた。
「ねぇ、あなた達、牢に入れられていた子よね?」
「はっ、はい!」
「…………」
女の子はあからさまに怯え、男の子はジッとこちらを睨むように目を逸らさない。二人とも十代前半くらいだろうか、少女は丸い茶色の耳に同色のフワフワの髪をしていて、くるりと巻いたおっきな尻尾がプルプルと震えていた。
(リス……かな)
少年には獣耳は無かったが、背中に成長途中の羽根があった。オレンジのメッシュが入った焦げ茶色の翼と、髪もお揃いだ。そして眼光が鋭い。
(なんか……ワシっぽい。えー翼がある獣人初めて見た! 空翔べるのかな)
「あなた達はどうして牢にいたの?」
「借金のカタに売られたんだよ!
あのクソ野郎……ぜってぇ許さねぇ」
(口わっる……)
「あなたも?」
「は、はい……うちは、きょうだいが沢山いるので、貧乏で……でも慎ましく暮らしてたんです。でもお父さんが、騙されて借金を作ってしまって……」
「……そっか。それじゃあ、お家に帰りたいよね?」
「あんな家!
帰るもんかよ!」
「わ、わたしは帰りたい、帰りたいです……っ」
なんと言うか両極端の二人だな、とすみれはちょっと笑った。
名を尋ねると少年はジェド、少女はリズだと教えてくれた。
「リズは帰りにお家まで送るわ。ジェドは……帰らないって言うなら……この孤児院に残る?」
リズは嬉しそうに何度も頷いているが、ジェドはあからさまに嫌そうに喚いた。
「じょーだん! 誰がこんなとこ!」
「こんなとこって……まぁ、そりゃあそっか」
「……そうだ! あんた……レミィについてく。うまいもん食えそうだし」
「ええ? うーん……それはどうなんだろ。私、後二ヵ月しかこの国にいられないんだよねぇ……それでも良かったら、いいけど」
いや、いいのかな。戻るのはお城だけどと思案するが、ジェドが一瞬だけホッとしたような顔をしたので、まぁいいかと問題を先送りにした。
「その代わり、私の言うこと聞いてね。秘密を知っても誰にも話さない、とか」
「元から知り合いなんていねーし、別にいい」
「家族は?」
「あんな奴ら! 家族なもんか!!」
なにやら複雑な家庭事情がありそうだったので、それ以上何も聞けなかった。
「レミィ」
「あ、ルト、カイルさん」
「変わったパンだったが美味しかった。ご馳走さま」
「いやホント美味かったですよ! あんなの初めて食べました!」
「へへへ……気に入ってもらえて良かった。まだまだあるから沢山食べてね」
二人共嬉しそうに頷き、今度はジェドとリズに視線をやった。
「彼らと話していたのか」
「うん。リズは帰りに家に送ることになって」
「すす、すみません……っ」
「いーのいーの、でこっちのジェドは期間限定で私の弟になりました」
「……はぁっ!?」
声を上げたのはジェドだけだったが、ルトもカイルも目を見開いて驚いていた。
「……期間限定の、弟?」
「うん、あと二ヵ月しかないけど、私についてきたいって言うからさ、じゃあ弟にしようかなって。恋人……は無理があるし」
「……無理がある……か。ジェド、君は今何歳だ?」
「は? ……十五」
「十五……」
ルトが何故か落ち込んでいる。
(ん? あ、あー……)
「あ、あくまで設定だからね。じぃじがちょっと厳しい家なので、どう言って連れて帰ろうかなと思ってて」
じぃじとはグレイールのことである。弟にしたと言っても置いてもらえるかどうかは未知数なのだが。
「なーんだ! 良かったな、ルト様……いてぇッ」
カイルがルトに足を踏まれているのを見てしまった。
「……院長のことで話があるんだ。院長室にいいか」
「わかった。じゃあ二人とも、また後でね。おかわりもあるから、遠慮せず食べてて」
「は、はい」
「……ん」
移動し始めた途端、背後にミアの気配がした。
(ううん、凄い。さっきまで向こうでフライ・コッペ頬張ってたのに)
読んでくださってありがとうございます!
ジェドの年齢を変更しました。




