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番外編 セシリア 2




エカテリーナが、毒殺されそうになった。




エカテリーナといつものようにカフェテリアで待ち合わせをしていた。

セシリアがカフェテリアに着いてエカテリーナを見つけた時、エカテリーナが椅子から倒れたのだ。


「エリー!?」


セシリアは駆け寄りながら、歩いて去って行く少女の背中を見た。


(あれは、ヒロイン?)


エカテリーナの横に膝をつき、エカテリーナの片手を取る。

白いエカテリーナの肌が、いつもより青白く見える。


(毒?!)


「解毒!」


セシリアは渾身の魔力で解毒魔法を使った。

そして、毒で傷付いた内臓を治す為に治癒魔法を掛ける。


そこにルードヴィヒが走って来た。


「エリー?!」


慌てるルードヴィヒに、セシリアはエカテリーナが無事だということを伝える。


生きてはいる。ただし、いつ目を覚ますかわからないが。


エカテリーナが毒を飲まされたことも伝えた。


クリストフもやって来て、ルードヴィヒはエカテリーナを連れて行った。


セシリアとクリストフは、学園に常駐している騎士に事のあらましを伝え、とりあえず帰ることにした。


「セシリア嬢は、大丈夫?」


クリストフに訊かれて、セシリアはクリストフを見上げた。


「わたしは大丈夫。ただ、物凄く怒り狂ってるけど」

「ああ、うん、酷いよね、エリーに何も悪いところなんてないのに」


セシリアは少し考え、クリストフに打ち明けることにした。


「実は、わたし犯人を見ました」

「ええ?!」

「ただし、証拠が無いので、罪に問えるかどうか………」

「そっか。証拠を集めればいいんだね?で、誰?」


辺りを見回し、セシリアは声を潜める。


「フロリア・サンタリア男爵令嬢です」

「あー、第二王子の、あの」

「はい。だから、理由はなんとなくわかります」

「うん。僕は彼女の身辺調査と、毒の入手先や方法を探るよ」


クリストフが微笑んで頷いた。

この時ばかりは、クリストフの笑顔が頼もしく感じた。


「……………あ!証拠、あった」

「え?」


セシリアは自分が作った魔道具をエカテリーナに渡して、実験台になってもらっていたことを思い出した。


(でも、あれは最後の切り札にしよう。そうしないと、言い逃れられるかもしれない)


考え込んだセシリアの左手を、クリストフが取り軽く握る。


「大丈夫。エリーはきっと目を覚ますし、あの令嬢はちゃんと罪に問う」

「……………そう、ですね」

「だから、セシリア嬢が暗いと、エリーが心配しちゃうよ?」


クリストフから手を取り返し、セシリアは頷いた。









エカテリーナが無事目を覚まし、色々あったが、第二王子と男爵令嬢に復讐出来たので、セシリアは上機嫌だった。


エカテリーナがルードヴィヒと婚約したと聞かされるまでは。


「………………申し開きはあるか?クズ野郎」

「………………………」

「そう。反論も肯定も無し、と。いい度胸だ。そんな貴様に選ばせてやろう」

「……………セシー?キャラ変わってるわよ?」

「身体を細かくみじん切りにして粘土で固めて海に沈めるか、灰も残らない高温で焼き尽くして存在を無かったことにするか、どっちがいい?」

「え?なんでヤクザみたいな方法しかないの?」

「……………………」


ルードヴィヒの胸ぐらを掴んでセシリアが圧を掛けるが、ちょいちょい入るエカテリーナのツッコミに、セシリアは力が抜けた。


「あのね、エリー。婚約破棄してすぐにまた婚約するっていうのは、物凄く醜聞なのよ?」

「えっと、うん、そうよね。ごめんなさい、ルー」

「いやいや!エリーがこいつに謝ることはひとつもないからね!」

「え、でも、こんなわたしと、婚約してくれたし」

「それは、ほんっとうに言いたくないけど、こいつの勝手だから!エリーが好き過ぎて暴走しただけだから!ほんとだったら、一年ぐらいは間を置いて婚約の申し込みをするのが普通だから!」


ルードヴィヒの胸ぐらから手を離して、セシリアはエカテリーナを振り返る。


クリストフが苦笑して頷く。


「そうだよ、エリー。ルードは少し、焦っただけなんだよ」

「くっ!わたしの可愛いエリーが、こんな男に言いくるめられて、可哀想に」

「……………メイヤー嬢のものではない」

「それはハッキリ否定するのか?!」


ぼそりとルードヴィヒが反論したら、セシリアがキー!と地団太を踏む。


「セシーは、反対?」

「うっ!………その、エリーが幸せなら、反対しないわ」

「うふふ。わたし、幸せよ」


エカテリーナはにっこり笑った。


セシリアは肩を落として諦めた。


「仕方ないわねぇ。エリーが幸せなら、わたしも幸せよ」


クリストフがルードヴィヒと何やら小声で話し合っていた。


「セシーも、幸せになってほしいわ」

「わたしは、好きなことやってるからそれなりに幸せよ。大体、結婚が幸せとは限らないし」

「そう、よね。男性は若い女性が好きだって、聞くし」

「え、ロリコン?」


セシリアとエカテリーナは、じっとルードヴィヒとクリストフを見た。

それに気づいた二人が首を傾げる。


「……………ないわぁ。わたし、ロリコンにいい思い出がないのよね」

「え?どういうこと?」

「前ねぇ、ちょっといいなって思った人がロリコンで…………って、それはどうでもいいのよ。ああ!下らないこと思い出したわ」


「セシリア嬢、好きな人がいたの?」


クリストフが目を丸くしてセシリアを見つめていた。


セシリアは顔をしかめて首を振る。


「この世にはいないわ。大体わたし男は友人どまりだし」

「……………そんな。こんなに可愛いのに」


クリストフが何か呟いていたが、セシリアとエカテリーナには聞こえなかった。










学園を卒業して、セシリアは魔術師団に入団した。

しかも、魔道具製作研究班という部署に希望配属された。


そこは、名前の通り魔道具を製作したり研究したりする部署だ。


セシリアは嬉々として毎日仕事をした。

それこそ休日も仕事場に行く程。


セシリアが寝泊まりしている寮と仕事場は然程距離が離れていないので、本当に寝食を忘れるくらいだった。


半月程そんな生活をしていたら、自分の私物があまり無いことに、ふと気づいた。


セシリアが開発製作した通信機――前世でのスマートフォンに似せて造った――でエカテリーナと話していたら、買い物に行く話になった。


すると、エカテリーナが買い物にクリストフを供に連れて行けと言ってきた。


「どうして?」

『えっと、ほら、セシーは王都の街にあまり行ったことないでしょう?クリフなら、たぶん、詳しいと思うから、その、案内してもらえば、楽かしら、と思って』


一生懸命話すエカテリーナに和みながら、セシリアは断ることもないか、とその提案を受けた。


『クリフには、わたしから話しておくわ。セシーの次の休日で、いいのよね?』

「うん。寮の前で待ち合わせね」


セシリアは深く考えずに、頷いていた。


次の休日、一応それなりにオシャレをして寮の前で待っていた。


約束の時間の少し前にクリストフがやって来て、キラキラ笑顔で挨拶され、セシリアはやや視線を反らす。


(眩しいわー。オタクにはリア充の笑顔が眩しい)


何故だかデートの定番のような会話になり、セシリアは切り上げるように歩き出した。


(とりあえず先にバッグを買って、そこに収納しよう。えーと、仕事中に口に入れる飴と、あと本も欲しいし、あ石鹸がなくなりそうだったんだ、それも買って)


色々考えていないと、なんだか甘い雰囲気になりそうで、セシリアは買い物リストを頭の中で反復していた。


最初に小物屋に入り、トートバッグを買い、それに魔術をかける。

バッグの中の容量を増やす魔術だ。


クリストフが興味を示したので、その魔術について説明していたら、なんだか話が段々と逸れていき。


「僕が好きなのはセシリア嬢だし!」


クリストフの言葉に、セシリアは固まった。


(え?なに言ってるの?!わたしを…………わー!!)


セシリアは真っ赤になった顔を隠すためにしゃがみ込んだ。


(ええと、うん、わたしも女として見られてたのね。クリストフかぁ。ワンコよね、この人。わたし、ワンコ大好きなのよね)


素直になってみようと思った。

セシリアはまだ赤い顔で、クリストフに返事をしたら、抱きしめられて身動きがとれなくなった。


全身で好きだと言っているところが、犬と同じだな、とセシリアは苦笑する。


しかし、なんだかクリストフが可愛く見えてきてしまって、セシリアはクリストフのプロポーズに頷いた。


大好きな魔術の研究を続けてもいいと言ってくれたから。

その大好きな魔術と同じくらい、クリストフを好きになった。


読んで頂き、ありがとうございます。


この回で、この話は完結とします。


たくさんの方が読んでくださったようで、大変嬉しく、また感謝しています。

ありがとうございました。

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