限界突破その17
「勇者様、早く起きろよ」
湿気の強いカーテンの無い部屋で、太陽の光が差し込むということも無く、美女ではない無愛想な少年に起こされる。
正直、起きたくない。
せめて、もう少し…
「もう少し…」
思わず声に出してしまう、弱弱しい情けない声だ。
「いい加減にしろよ。ボス戦行くよ」
少し苛立ちの混じったサーズの声。
やばい、起きないと。
「おっけ。もう大丈夫」
布団から出ないで目を擦る。
そして、サーズの視線を感じて布団からバッとすぐに出る。
「遅い。外で待ってるから、準備終わったらすぐ来いよ」
舌打ちしそうな勢いのサーズが外に出て行く。
怒らせてしまった…失敗。
歯磨きなどを急いでして、すぐに外に出る。
サーズは静かに老人が死んだ場所を見ていた。
「あ、勇者様。じゃあ行こう」
すぐに俺に気付くと、こちらへ歩いてきた。
「よし! 気合入れよう!」
俺はそういって、井戸のほうに近寄って、顔に水を思いっきりかける。
思ったより冷たくてビックリした。
そして、桶でまた水を掬い、サーズに思いっきりかける。
「うわっ! 何するんだよ!?」
かなりビックリした様子だね。成功。
「じゃ、行こうぜ」
ニヤッとサーズを見る。
ははっとサーズは半分呆れた笑い、すぐに無表情に戻る。
「分かった。すぐ行こう」
俺達は町の外に出て、遠い目的地に向かって歩き出した。
かなり遠いらしい。
で、体力温存のために極力避けるが、出たら無魂石を俺が投げる。
そして、すぐにサーズがとどめ。
あくまで、雑魚の対処法だ。
強い奴は逃げる。
これで話がまとまった。
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思ったより強敵の死神が現れず、体力の浪費を少し抑えられた。
結構歩いたが、疲れてはいない。
「あ、あそこじゃない?」
遠くからでも一目でわかる。
しばらくいってなかった場所だが、あの門は覚えている。
あんな馬鹿でかい門を忘れるはずも無い。
「あぁ。ちょっと休憩しよう」
サーズはすぐに挑戦といわずに休憩することを選択した。
案外冷静だな。
俺は緊張しまくり。門が近くなって足ががくがくしているし。
「絶対勝つぞ」
そこら辺の岩に二人でもたれかかって、そんなことを呟く。
「当然」
いきなりで少し戸惑ったが、すぐに返事を返してくれるサーズ
老人のためだけじゃない。これからのサーズのためにもだ。
勝つんだ。
「全力で頑張る。力もついた。戦いにも慣れた。二人で頑張ればいける。いざとなったら逃げよう。また挑戦すればいいさ。俺はお前に死んで欲しくない」
いきなり凄いことを言われたサーズはぽかんとしていた。
そして、
「そう」
すぐに無表情に戻り、そうとだけ言った。
やはり、心はまだ閉ざされたまんまか?
付き合いは短かったが、あの頃のサーズとは雰囲気が違う。
戻って欲しいと思うが、今のサーズもサーズか。
しかし、笑って欲しい。
ここまで努力してきたんだから、自分のために笑っていいと思う。
「絶対無理はするな。やり直しはできるんだ」
「分かってるよ」
「じゃ、もう行こう」
無言で立ち上がって準備を始める。
俺も準備して、あるものを取り出し、サーズに投げる。
「何これ?」
「まぁ、いつか分かるさ。首に下げとけ」
死神がドロップしたものだ。
まぁ、HP0の時、一度だけ物理攻撃不可…透けるというものだ。
首飾りでダサいけど。
そういえば、結局食材アイテムで一度もスキルを獲得できなかった。
無念…
「ボス一体だろ? なんとかなるさ」
サーズが珍しく不安そうな顔をしていたので声をかける。
「これで自由だろ? 老人のためにもさ」
老人という単語でピクッっと反応した。
「あぁ」
一言で返される。
声が震えている。やはり、怖いのだろうか…それとも、老人のことでだろうか。
そこまで遠くも無いのですぐに門の前へ着く。
雰囲気が凄い。
何度も死神と戦ってきたから分かるが、普通の死神の並じゃない。
普通の死神にもあるものの、その上を余裕で行く。
これは〝怖い〟の感情だ。
恐怖で足が震える。
今もだ。横を見るとサーズも。
だが、前より少ない。
戦える。
「よっしゃぁ! 行くぞ! 気合入れようぜぇ…サーズ、背中叩いて」
「いいの? 思いっきり行くぞ?」
「ドンと来い」
じゃあ…とサーズが振りかぶる。そして、静かな周りに響く、鋭い音。
その手が振り下ろされた時には俺のHPゲージが少し減っていた。
多少の痛覚だけとはいえ、かなり痛い。
やはり、鍛えられた筋肉は違う。
いってぇ! と飛び上がりながら辺りを走っていると、サーズがあははと笑った気がした。
「じゃあ、俺もやってもらおうかな」
サーズがこちらを向いていう。
おっなんか、いい感じ。
「じゃ、いくよ…」
思いっきり振りかぶって、力任せに平たい小さな背中を叩く。
弱い、小さな音が当たりに響く。
「勇者様、筋肉ないね。痛くないよ」
サーズが小馬鹿にしたように言う。
「うっせ」
サーズを見ないで、ぶっきらぼうに言うと、サーズがまた笑った気がした。
そして、すぐに
「本当に行くか」
「おう」
今までとは違う気合の入り方をした会話が出来た。
これで、何にも負ける気がしない。
何でも来い。
俺達には誰も勝てない。
なぜかそんな気分になった。
そして、門の前に立つ。門の周りは巨大な岩の壁。
HPなども問題ない。疲労も無い。
二人で顔を見合わせ、目線で開けるぞと言う。
そして、サーズは目の前の門をこれでもかと思いっきり蹴った。
俺も続いて、もう片方の扉を押す。
蹴っても開かなかったので、少し赤い顔をして、サーズは俺の押すのを手伝う。
馬鹿でかいので、少々開けるのに、時間がかかった。
中に入るとそこには、軽い一軒家ぐらいの大きさをした、死神が椅子に座っていた。
赤い目。
テレビでしか見たこと無いような豪華な椅子。
ありえないほど綺麗なローブ
体に合う大きさの鎌。
周りには小さい死神が何体か。
あれらは俺達が今まで戦ってきた死神より強い。
見ただけで分かる。
しかし、小さいほうは倒せる。
でかいほうは…赤い目を見たら体がすくむ。
恐怖で足が震える。
サーズもだ。
「倒せるよ、きっと」
サーズが声を出す。
充分。それで充分だ。
震える足を叩いく。
「おう! 一体ずつな…」
二人で死神の元へと歩いて近づいていく。
恐ろしく静かだ。
とても、沢山いるとは思えない。
中は大広間みたいな、体育館みたいな所だ。
でかい。
「何故、そこに立つ。何が目的だ」
一言一言空気が揺れている気がする。
恐ろしい声。
「てめぇを倒しに来た」
サーズの恨みの篭った声。
睨みつけている。
あっ ちょっとやめてくれ!
と言いかけてやめた。
びびっていては何も出来ない。
「ほぅ…では、この者達を倒したら相手をしてやろうぞ」
笑わず、怒らず。
淡々と言うその声は馬鹿にするといった雰囲気が見られない。
倒すと言う言葉を真面目に受け取ったというのが分かる。
その言葉に周りの死神達はゆらりとこちらへ向かってくる。
「すぐに行くぜ? 待ってろ」
サーズはぎりぎり全員に聞こえるぐらいの声で呟く。
「「こっからが本番だ」」
やべ、かぶった。




