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【連載版】夜会で「婚約破棄しよう」という常套句に呆れて振り返ったら、双子の愚兄だった件。  作者: 織子


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Episode.1


「ミネルバ・アウグスタ。貴方との婚約は今日をもって破棄させてもらう!」



きらびやかなシャンデリアが輝き、ドレスや正装に身を包んだ貴族達が集う、皇城での夜会。

高らかに宣言されたその発言に、夜会会場は騒然となった。



(‥‥‥婚約破棄?はっ。そんな常套句、本当に言う奴がいるなんて。昔、よく読んだな。その手の本を‥‥ん?) 


シリル・ラウザーは自身の思考に違和感を感じた。


(昔?本なんて読んだ覚えは‥‥‥)

脳に衝撃が走り、足元がぐらりと揺れた。


(ま、待て。そうか‥‥)

シリルの脳内に走馬灯の様なものが駆け巡る。見覚えのある建ち並んだ高いビル群。反りの合わない上司。自分に猛スピードで迫ってくるトラックのヘッドライト。


「――ッ」

ガタン!と音を立ててしまった。近くのテーブルを咄嗟に掴み、グラスが一つ倒れる。


「大丈夫ですか?お怪我は?」

近くにいた侍従が駆け寄る。シリルは頭を振り答えた。


「大丈夫だ。問題ない」


(‥‥‥‥そうか。俺は転生したのか)


まだ痛む頭を手で抑え、辺りを見渡した。そして自身の記憶と照らし合わせる。


(俺はシリル・ラウザー。ラウザー公爵家の次男だ。‥‥変な感覚だな)

前世と、転生後の記憶が混ざり合う不快な感覚。生前も物事の変化に動じる事はあまりなかった。とりあえず、『転生』を思ったよりも軽く受け入れ、先ほどの常套句を言った主を探す。


(前世で山程読んだな。異世界もの)

妹が先にハマり、勧められるままに自分もハマってしまった。


(まさか本当に言う奴がいるなんて。皇室主催の夜会だぞ)

そんな騒ぎを起こす馬鹿の面を拝もうと、周りの視線を追う。視線の先に居た人物を見て、シリルは驚いた。シリルと同じ顔をした人物だったからだ。


(おいおい。俺の愚兄じゃないか)

アレックス・ラウザー。シリルの双子の兄だ。


アレックスは隣にいる令嬢を引き寄せた。

「やはりしがない子爵家の娘など、ラウザー公爵家には必要ない。それに最近では、私と仲の良い事に嫉妬して、リリーア嬢に執拗に嫌がらせをしているそうだな」


愚兄の腕にしがみついている令嬢を見て、シリルは呆れた。リリーア・タナトス伯爵令嬢。桃色のふわふわと揺れる髪。露出の多いドレスを着ている。


(まさか、ミネルバ嬢と婚約破棄をしてリリーア嬢と婚約し直したいのか?)

どう見たって、リリーア嬢は性格に難がありそうだ。


リリーア嬢は震えながら口を開いた。

「私がアレックス様と仲が良いため、ミネルバ嬢を不快にさせてしまったのです。アレックス様、申し訳ありません‥‥‥」

涙目になるリリーア嬢を、愚兄アレックスは抱きすくめる。皆の目がある夜会会場でだ。

シリルは頭を抱えた。尚も愚兄は口を開く。


「気弱なリリーアにした嫌がらせ、償ってもらうぞ」


(あんなに胸を押し付ける淑女が、気弱な訳ないだろ)


たわわな胸をこれでもかと愚兄に押し付け、愚兄はミネルバ嬢を睨みすえながらも、鼻の下が伸びているのが隠せていない。なんとも見苦しい。


(俺たちは何を見せられているんだ)


人だかりで肝心のミネルバ嬢の様子が見えない。一番の被害者である彼女を、放っておくわけにはいかない。

(前世の記憶もあるが、シリルとしての記憶もある。身内の恥だ。恥死してもおかしくないほどの)

恥ずかしくて出たくないが、シリルは中央へ向かった。そして思い切り、侮蔑した声を出した。


「‥‥‥兄上、いい加減になさってください」


愚兄達と、ミネルバ嬢の間に割り込んだ。アレックスが目を見開く。


「お、お前、シリルか?今、なんと言った?」


(耳までおかしくなったのか?)

「耳までおかしくなったのですか?いい加減にしてくださいと申し上げたのです」

思った事を言ってしまった。出来る限り丁寧に、これ以上なく侮辱をしてみる。

アレックスは口をパクパクさせている。


(何をそんなに驚くことがある?――あ)


シリルは愚兄の驚きに納得した。前世を思い出す前の――数分前のシリルはこんな性格ではなかったからだ。公衆の面前に立ち、兄に堂々と意見を言うなど、以前のシリルを知る者からすれば青天の霹靂だ。


アレックスが愚兄ならば、シリルは愚弟だった。


傲慢で色欲の強い長男と、気弱で脆弱な次男。シリルは社交界どころか、邸宅から外に出る事も少ない引きこもりだった。幼い頃から兄に虐げられていた為に話し方もオドオドと小声で話し、要領も悪く暗い幼少期を送っている。


そんなラウザー兄弟に、帝国の貴族はラウザーの行く末を案じていた。帝国に二つしかない公爵家の後釜を、虎視眈々と狙う者たちもいた。


だが愚兄であるアレックスには、カリスマ性があった。良くも悪くも、人を惹きつける。上手く誘導出来る配偶者さえいればと充てがわれたのが、ミネルバ・アウグスタ子爵令嬢だ。アカデミーを首席で入学し、経営学を専門に学んでいる。








短編の方に連載にしてほしいとコメントをいただき、ありがとうございました!いいねも、ブクマもとても励みになります。



今日は5話まで更新致します。5話から短編の続きになります。読んでいただけると嬉しいです。

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