エピローグ
エンカントシティにある高層ビルの大群。
その内のビルの一つの最上階にその店はある。
そこは質の良いお酒と苦いシガーの香りが来る者に程よい陶酔感をもたらす。
中では小洒落たエレクトロ·スウィングが流れており、客達がそれに合わせて踊るのがここの常だ。
入り口ではコートを預けるように促されるが俺はそれを拒否する。
大きなガラス貼りのウィンドウを見れば最上階だけあってその景色は絶景だ。
仕立ての良いスーツを纏った老紳士がウィンドウ近くのソファーに座り葉巻を嗜んでいる。
俺達が横を通るとジョセフに気付いた老紳士が挨拶を交わす。
ここはBarハスラーズ。
ジョセフがよく通う店だ。
街の絶景を見ながら頂く酒も絶品ではあるが、俺のお気に入りは薄暗い照明に照らされたカウンター席だ。
俺とジョセフはカウンター席に着くと酒を注文する。
俺はいつものウイスキーを頼む。
透明なグラスに注がれた琥珀色のそれからはうっすらだがハーブの香りを感じ取れる。
ジョセフに勧められて飲んでからは俺はずっとコイツだ。
ジョセフもいつものを注文する。
彼はアルコール度数の高いラムに少しばかりの蜂蜜と数適ばかりのライムを絞ったものを好む。
煙草の趣味はともかく、酒に関してはこの男は少々うるさいのだ。
「悪いな、カウンター席はあまり好きじゃないだろう?」
「好きじゃないというか、扉に背を向けて飲むのが落ち着かないだよ」
「それは遊び人の知恵か?」
「おう。俺はそれで何回か助かってるんだ」
彼は夜の男だ。
きっと色々あるのだろう。
俺も今後、この知恵を取り入れても良いかもしれないな。
「今回はお前が居てくれて助かった」
「いいさ!さぁ、この話はこれで終い!飲もうぜ」
「ああ。乾杯」
「乾杯」
グラスのぶつかる心地良い音が鳴る。
乾杯が済むとジョセフはカウンターに身を乗り出して流しにお酒を少し零してから飲む。
彼と飲む時はいつもこうだ。
「いつも思うんだが、それはなんだ?」
「最初の一口は大地に帰すのさ、先祖達へのものだな」
「それはいい心掛けだな」
まぁ、流しだから辿り着くのは排水溝だけどな!とジョセフは笑う。
正直、彼の生き方は危険だ。
それでもこういう行いが彼の守護に繋がっているのだろう。
危険を承知で自由に生きる彼の事だ。
少しでも守ってくれるものがあれば良いだろう。
彼の場合は純粋な感謝の意でやってるのだろうがな。
「しかし世の中いろんな愛があるもんだ」
「人の心は誰も踏み入れる事の出来ない禁足地だ」
「まぁな。理解は出来ないけどな」
「しなくでいいさ。お前は自分の愛を貫けばいい」
彼との雑談を楽しんでいると二人の女性がジョセフに近付き、踊りに誘う。
「おう、ヨエル!噂をすれば愛が俺を呼びに来たぞ!」
「クククッ、行ってこい」
「じゃあな、ヨエル!」
「ああ、またな。遊び人」
またいずれ、お前の力が必要になるだろう。
それまではただ楽しんでくれ。
神のご加護を、ジョセフ。




