25 帰路
『人神。それは死後に信仰され、その霊格が巨大な力を持つまでに至った存在だ。シロの場合はこの洋館限定ではある。しかし、それでも神の名を戴いている以上はシロの力は絶大だ。そんなシロのテリトリーを脅かした事。あの不浄なる炎の存在。メメント・モリは一体何を抱えている?』
「ヨエル。あの連中は何者だったの?」
クロが俺に問いかける。
彼女も彼らが普通では無いことに気付いている。
「俺達はメメント・モリと呼んでいる」
「死を想え、ねぇ」
「ああ。地下にタナトス神にまつわる資料があった」
「タナトス?」
クロは呆れかえる。
それも無理ないだろう。
人間が接触を図る、いや、信仰する事すら恐れ多いのだ。
「何か分かる事はないか?」
「さぁね。神の事を語るのは禁じられているのよ」
「そうか」
神秘にも法がある。
彼女もそれからは逃れられない。
「まぁ、それに付いては心配は要らないわ」
「ああ。接触する事など不可能だからな」
「死は絶対よ。人間如きが踏み入れる事は許さない」
クロは少しの怒りを滲み出す。
彼女も死の眷属だ。
そこに踏み入れられるのは堪らないのだ。
「ねぇ、個人的な質問しても良いかしら?」
「俺に答えられる範囲ならな」
「貴方よ。貴方は何者?」
俺はシロとのお喋りに夢中なジョセフを横目で見る。
「それには答えられない」
「そう。なら良いわ」
クロは赤い瞳で俺の目を覗くように見る。
一瞬、妖しく輝いたかと思えば直ぐに元の瞳に戻った。
「やっぱり駄目ね」
「⋯それはもうしないでくれ」
「ええ。ごめんなさいね」
「もう良いか?」
「良いわ。察しが付いたわ」
あの祈りの時か。
必死で周りを見る余裕が無かったからな。
俺の落ち度だ。
「もう一つ質問しても良いかしら?」
「質問次第だ」
「何故、貴方がここに居るの?」
クロは真剣な様子で俺の返答を待っている。
それについてどう答えたものか。
暫くの沈黙の後、俺は口を開く。
「人々の助けになりたい」
「それは貴方の意思?」
「ああ」
「そう。分かったわ」
クロは納得してくれたようだ。
「それではまた会いましょう」
「ああ」
クロは黒い霧を纏ったかと思えばこの場から消え去る。
ブラックドッグか。
「あれ?クロさんは?」
「墓場に帰ったんだろう」
「なんだよ。お別れも無しかよ」
「今度来た時に会えるだろう?」
ジョセフは少し拗ねたように頭を左右に振る。
全くこいつは懲りない男だ。
さて俺達も帰らなければな。
「ではシロよ。ここでお別れだ」
「またな!シロちゃん!」
「分かった!気をつけて帰ってね〜」
俺達はシロとも別れる。
あんな事件の後だと言うのに別れはあっさりしたものだ。
いや、これが今、この世界の日常だ。
俺はジョセフと洋館を出て帰路に付く。
ジョセフと会話を交えながら歩いているとあっという間に街が見えてくる。
馬鹿馬鹿しくなるほどの高層ビル達。
あらゆる色のネオンがあの街は不眠だろうと言う事を物語る。
最初にあの街に着いた時は嫌で堪らなかった機械と油の匂い。
そこら中から流れる騒がしい音楽とそれに張り合うように声を上げる住人達。
洋館に居たのは少しの間だと言うのに今はそのどれも懐かしく感じられる。
ジョセフが言うようにマイ·スイート·ホームというやつだろうか?
とにかく俺達は戻った。
人もそうでない者も魅了する街。
人呼んでエンカントシティに。




