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前世の希望通り②



「……セリィ……‼︎」

「わっ」


 私が目を開けたことに気づいたピピが、勢いよく飛びついてくる。

 見慣れた天井の景色。そこは既に懐かしさすら感じる、ローランス家の私の部屋だった。


「セリィ……っ、起きたのか⁉︎」

「お兄様、心配かけてごめんなさい。ピピにも、ノアにも……」

「目が覚めてよかった!本当によかった……!ロバート呼んでくるついでに、みんなにも知らせてくるからなっ」


 目頭を抑えながら、アレクはそう言って部屋を飛び出していった。


「私、どのくらい眠ってた?」

「……三日間、ぶっ通しです」


 ノアはそう返事をくれるが顔は逸らしたまま私のことを見てくれず……


「ノア、怒ってる……?心配かけてごめんね……」

「ぐすっ……セリィ……?ノアは怒ってるんじゃなくて、目覚めたことにホッとして、嬉しくて泣いてるのよ?全く、素直じゃないんだから……!」

「……ピピには言われたくない」


 涙を拭いながら私の体から離れるピピと、反抗するノア。ピピの言う通り、彼の目も少し潤んでいた。

 大好きな推しが生きている現実。こんな幸せなことはない、と思いながら、私はゆっくりと体を起こす。


「セリィ、起きて平気なの?体痛くないっ?」

「うん、大丈夫」


 三日間も眠り続け、こんなに心配してくれていたのに、生死を彷徨っていたわけでもなく、目覚められない危機にあったわけでもないというのはとても言いづらい……何より前世の自分と会っていただなんて言えば、気が狂ったかと思われてしまうだろう。

 はっ……!それよりノア、お母様のこと……


「姉さん、すいません……っ」

「……っ?」


 ベッド脇の椅子に腰かけていたノアは、突然頭を下げて謝った。私の右手を握ったまま。


「動揺して、黒い感情に支配されそうになって……情けないです……」

「いいえ……それを言うなら、私のほうが敵をノアに任せっきりにしてしまったわ。お母さんのことも私がちゃんと話しておけば、ノアが驚いて混乱することもなかった……二人とも、ごめんなさい……」


 え……どういうこと?私がちゃんと話しておけばって……


「ピピは……お母様のこと、知っていたの……?」

「なんとなくね……そうかなって」

「……っ……」


 ピピはえへへ、と言って笑顔を見せる。そんな風に笑い飛ばせるようなことではないだろう。ピピは自分が苦しいことは黙っている子だ。原作でも優しい嘘をつき、悪役になってしまうことがあった。

 それはまるで誰かさんと同じみたい……自分と似ているから救いたいと思ったんだったね、ぼたん……


「そんな顔しないで、セリィ。本当に大丈夫なの」

「母さんのことは俺とピピで話しました……それで俺達、姉さんが言ってた通りにしようと思います」

「……?」

「母さんの分まで、幸せに生きるってやつ……」

「……っ、!」


 ポロッと、思わず涙が出る。

 二人とも表には出さないけど、お母様が亡くなっていたと知って辛くないはずがない。寂しくないはずがない。それでも、二人が自ら幸せに生きようと思ってくれたことがすごく、すごく嬉しいなあ……

 私は二人の手を手繰り寄せ、体勢を崩したピピとノアをぎゅっと抱きしめた。


「ピピ、ノア、大好きよ。みんな無事でよかった……」

「私達のほうが大好きだわっ」

「……おかえり、姉さん」

「っ、……ただいま……!」


 きっと私が起きなかった間もそばにいてくれた。その証拠に、綺麗な二人の目の下にはうっすらクマが出来ていたから。

 まだ色々と暗殺者のこととか、聞かなければいけないことはたくさんある。でも今は、生きて現実にいる推し達の存在を噛み締めたかった。


「……⁉︎」

「セリィ……っ!」

「姉さんっ、動かないで下さい!俺がぶった斬ります」


 何かを見て、急に大声を出すピピとノア。二人の視線の先は、私の頭上だった。


「待って待って」


 ノアは鋭い目つきで剣をいきなり抜こうとするので、何事かと急いで止める。その瞬間。ピョーン、コロコロ、と、何かが頭から落ち、私の両手に収まった。

 こ、これは……私が体の中に入れた真っ黒い生物……


「ルナシー……?」

「ギャッ、ギャッ、ギャッ」

「……変な鳴き声ね」


 思いもよらなかった鳴き声が面白く、ついフフフッと笑ってしまった。手に乗った感触もふわっとしてて気持ちいい上に、黒いモフモフに隠れるつぶらな瞳が可愛らしい。羽の形は少し蝙蝠に近いだろうか。


「セリィっ、笑ってる場合じゃないわ!」

「俺が切るんでこっちに投げて下さい!」


 緊迫ムードのピピノアとは裏腹に、ピョンピョン楽しそうに私の周りを転がっているルナシーの姿。


「ねえ……ノア……言いたくはないんだけど、これってセリィに、懐いてるんじゃない……?」

「…………なんで……?」


 そして私の肩に乗った。


「ギャギャッ」

「なぜだか私、このルナシーとお友達になれたみたい……?」

「……⁉︎」


 驚いて固まる二人に、コンコンと慌て気味なノックが聞こえ、部屋の扉が開く。知らせを聞いたお父様達が入ってきたのだ。


「ギャルル……ギャルルにするわ、名前!」


 お母様にお父様。そして医療道具を持ったロバートも。戻ってきたアレクも、私の発言とルナシーが跳ねてる状況に、何がなんだかわからないまま、しばらくの間みんな固まっていた──。


 それから、ルナシーは近くに置いて安全なのかという家族会議が行われている最中、私は部屋でノアにもっと重大な報告を聞くことになる。


「ノア……今なんて……?」


 動揺して体が震えてしまう。


「アレク兄さん達、想いが通じたみたいですよ」

「……っ、⁉︎……え、え、っ」

「姉さんの希望通り、晴れて今は仮婚約者です」

「えぇぇぇぇ〜〜っ⁉︎⁉︎」


 そうして私の知らない二人の話を聞いた、数時間後……

 ヒック……ヒック……と嗚咽を漏らしながら、私はひたすら泣き叫んでいた。


「泣くか喚くかどっちかにして下さいよ」

「だって、っ……それはもちろん二人がカプになって嬉しいに決まってるわ……!でも私、その経緯一切見てない!……お兄様がピピとの承諾を貰いに帰ってただなんて知らなかったし、二人の想いが届くところ見たかったの〜〜……っ!オタクにとってこれは重要なことなのよおおお……」


 ノアからしてみれば、傍迷惑な話だろう。まるで駄々をこねる子供みたいだ。終わってしまったことは仕方ないのに、悔しくてたまらない。


「でも嬉しいぃぃ……複雑よ〜〜……」


 私の壮絶な嘆きに対し、ノアは少し呆れ気味に、でも幸せそうな笑顔で笑っていたのだった。



 その夜。推し達が眠りについた姿を見届けた後、部屋の扉の前でマチルダが座っていた。私が戻るのを待っていたのかと不思議に思いながらも声をかける。


「マチルダ、あなたにもお礼を言わないとね……ありがとう。マチルダのおかげですごく助かったわ」

「…………」

「マチルダ……?……あれ?眼が金に戻ってない?」


 月光に照らされる金色眼。それは前世と同じマチルダの姿だった。

 この世界のマチルダは金とブルーのオッドアイなのだと思っていたけど……そういえばブルーの眼、ピピノアのスカイブルーの瞳とそっくりだったわ……


「!……まさか……っ」


『それは……セリィを生まれ変わらせた決定的な理由になるのですが。これから先の未来で闇堕ちし、結果的にヒロインに殺される運命にある双子の戦士を、どうか救ってもらいたいのです』


「精霊ってもしかして……二人の亡くなったお母様だった……?」


 どうして気づかなかったんだろう……二人を救いたかったという理由に……


『私の心からの願いは、セリィを含め皆様が一緒に、この世界で笑顔で生きられることです。そのために私は、最善を尽くす所存です』

『ということは……マチルダは推しを救うために共闘する相棒ってことね!今日からよろしく』


 理解した途端力が抜ける。しばらくの間、座り込んで床を濡らしていた。猫のマチルダのそばで……




♢天の声♢


残すところ次でラストとなります!(たぶん)

全然関係ないんですが、silent見てて更新遅れちゃった〜〜そして泣けた〜〜( ; ; )

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