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ピピ⑥

※ピピ視点です。


 ──私達はパピヨンとアベイユに変身し、ローズさんとアレク兄様を探し回っていた。そして学園裏にある森の入口で見つけた時には、既にアレク兄様は戦闘中。目先では激闘が繰り広げられている。

 辺りを見渡してもローズさんの姿は無く、どこかへ逃したと予想はついたけど、私は兄様の姿を見て心臓が止まりそうになった。誰にも負けないと思っていた彼が相手に押され気味で、至るところから流血していたから。同時に武者震いし、ノアからは毛を逆立てるような怒りを感じる。

 相手もそれなりに負傷しているものの、このままでは兄様がやられる……!


「ピピは来なくていい。ピピがケガでもしたら、兄さんまた拗らせるだろうから」

「っ⁉︎」


 目立つ背中の羽を消し大木に隠れながら、いつ戦闘に入るのがベストかタイミングを伺っていると、ノアにそう告げられた。

 拗らせる、とはなんのことかわからないけれど、ノアはアレク兄様を援護するように入り、うまく敵に攻撃を仕掛ける。そしてドカン、!という爆音と共に、地面に叩きつけた。変身したノアは特有の瞬間移動が可能なので、フルパワーでは無くなった相手に大打撃を与えることができたはず。


「ノア、お前なんで、っ」

「あとは俺に任せて下さい」


 呼吸を整えながら驚いた表情を見せるアレク兄様。身体から滲み出る赤く染まる傷が痛ましく、胸が苦しくなった。


「!……まじかよ」


 ……っ⁉︎

 ノアの視線の先では、叩きつけた地面から敵のフード男が立ち上がっていて、首の骨をゴキゴキと鳴らすように回している。その姿は、あれほどの威力の攻撃が効いていないようにも見えてしまう。ゾっとした。


 恐れてはダメよ……もっと恐ろしいことを、私は知っているでしょう……?私も役に立つの……

 パピヨンの武器である弓矢を静かに敵に向ける。ルナシー感染者用の尖っていない矢なので、相手に効きはしないが、先端に痺れ薬を塗り込んだ。

 幸い私の存在は知られていない。だからせめて、ノアとアレク兄様の手助けになれるように……


「…………」


 手が、震えている。それに距離があることに加えて、戦闘を再開した二人の動きが速すぎて狙いが定まらない。

 これでもし、ノアに当ててしまったら……?

 最悪の事態になりかねないと、私はそっと弓矢を下ろした。


「ピピ」

「セリ……っ!」


 断念した瞬間。後ろから囁くようにこっそり話しかけ、大声を上げる前に私の口元を塞いだのは、一番この場に来てほしくなかった人……セリィがいた。そして足元にはマチルダもいて、頭を上げクンクン匂いを嗅いでいる。


「お兄様、随分酷い怪我のようね……」


 木の影から戦闘状況を伺っているセリィの瞳が、少し潤んでいたことに気づく。


「それでローズは……え、森の中に?」


 彼女はなぜかマチルダを見ながらそう言った。その光景は、まるで本当に会話をしているように見える。


「……ピピ、お願いがあるの。これを使ってアレクお兄様の怪我を癒してあげて。ちゃんと説明書も入ってるから」


 そう言って渡されたのは、アンティーク調の茶色い救急箱だった。彼女が薬草で作った治療薬等が入っている。


「私はローズを学園の安全な場所へ送り届けるわ。だからピピ、これをあなたに任せる。辛いかもしれないけど、私が戻ってくるまでお兄様とノアのこと、お願いね」

「……っ、」


 勝手に離れた私を、こんな不甲斐ない私を、セリィはまだ信じてくれているの……?

 そう思ったら我慢できず、とうとう涙が流れてしまう。


「ごめ、っ、セリィ……」

「ピピ、ずっと私を守ってくれてありがとう」

「……!」

「絶対にみんなで生きて帰る。約束よ」


 セリィは私の涙を拭い微笑むと、マチルダについて行くように森の奥まで走って行った。


「はっ、⁉︎」


 敵の攻撃に受け身を取りながらも、横目でセリィの姿を見つけられるノアの溺愛ぶりが窺える。ノアは負けられないと更に気合が入ったのか、目の前の敵に一気に斬撃を入れていく。


「すごい……」


 片割れながら、カッコいいわ……早く倒してセリィを追いかけたい気持ちがダダ漏れだけど……

 その隙に私は、ネクタイで血が流れる腕を徐に自分で縛ろうとするアレク兄様の元へと駆け寄った。


「……っ!」

「貸して下さい」


 木を背もたれにして座らせ、セリィに預かった救急箱から液体の治療薬を取り出す私を見て、固まった兄様。

 驚くのも当たり前ね。他人からすれば気持ち悪いと思われてしまう義兄への愛を、告白して以来だもの……


「ピピ、お前もいたのか……」

「…………」


 返す言葉が見つからず、ただ手を動かす。アレク兄様が学園に入学したあとくらいに、セリィが傷口の処置方法を教えてくれていたのでスムーズにできた。

 きっとこうして、自分がいない時のことを考えて私達に教えてくれていたのね……


「……っ、」

「すみません……もう少し我慢して下さい。ここが一番重傷ですので」


 止血のために傷口を押さえると、兄様は痛そうに顔を顰めた。いくら冷静に声をかけても、内心心臓がうるさくて彼にも聞こえるんじゃないかと思ってしまう。

 やっぱり、好きで好きで、しょうがないの……


「……他人行儀なんだな」

「……これはセリィの頼みですから……」


 か、可愛くないわっ!なんて可愛くないのかしら……!本当はセリィにお願いされたからだけではなくて、私自身が兄様のことが心配で、助けたくてしょうがないのに…………


 怪我の消毒や処置が一通り終わり、残すところは顔の擦り傷だけになった。アレク兄様の目が私の視界に映る。


「……っ!」


 なに……?どうしてそんなに真剣な眼差しで、私を見つめているの……?

 彼の眼差しに、バクバク、と飛び出るかのごとく心臓が大きく動く。

 ダメ、こんなの耐えられるはずないじゃないっ!


「あとはご自分でなんとかなさって下さいっ」


 気持ちを隠しきれなくなりそうで、また兄様を困らせてしまう前に、私は咄嗟に立ち上がった。


「あぁ……ありがとな、ピピ。痛みがだいぶ和らいだ」

「っ!そ、それはセリィの作った薬のおかげですわ」

「それもそうだが、ピピがまた俺のそばに来てくれたことが嬉しかったんだ」

「……⁉︎」


 嬉しかったって……嬉しかったって、どういうこと……?


「ただこの場所は危険だ。お前はすぐ学園に戻れ」

「い、言われなくても戻ります……!」


 私は照れを誤魔化すように怒り顔で伝えると、ちゃんと前も見ずに走り出してしまう。


「バカッ、そっちは!」

「ひゃっ……」


 すぐに後悔した。あるはずの地面に着地できず、突然視界がグラっと揺れたのだ。

 しまった……!傾斜があった!


「ピピ……‼︎」


 大声で私の名前を叫ぶ兄様の腕が体に伸びると、ゴロゴロゴロゴロ……と斜面を勢いよく転がり落ちていく。

 何度も回転して目も回りそうなところを、優しい手が私の頭を支えてくれた──。




♢天の声♢


明日も続きを更新予定です!お楽しみに〜〜!

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