いざ、歓迎パーティーへ!④
その後ノアとヒューゴ先輩に見送られ、私はエルザ様とダンスを踊ることになった。エルザ様が『私と踊った後ならヒューゴ先輩と踊ってもいい』という条件を出したのだ。ヒューゴ先輩に期待の目で見られてしまっては断れるはずもない。
先ほどヒューゴ先輩にストレートな告白をされたエルザ様は驚いてフリーズし、そして顔が柔らかく綻んでいた。お友達から始めるということだけど、彼女のあの顔を見れば恋仲になる未来はそう遠くないと思う。
「セリンセさん、ごめんなさい。本当はあまりダンスしたくなかったのでしょう?」
「伯爵家の娘としてはあるまじきことなのですが、私はダンスが苦手で。もしエルザ様の美脚を踏んでしまったらと思うと……」
「私の足は頑丈なので踏まれても平気です。身を委ねていただければ合わせられますので」
その言葉通り、エルザ様は私に合わせてくれたので段々ダンスが楽しくなってきた。
自然と笑顔になれるなんて不思議だ。
「それとセリンセさんに伝えておかなければいけないことがあります。悪に心を支配された時の話です」
私がダンスに慣れてきた頃、エルザ様は私だけに聞こえるような声でそう言った。
「エルザ様が落ち着き次第、その時の状況を伺おうと思っていました。もしかして、豹変してしまう前の記憶があるんですか?」
「それが原因かはわからないのですが、ただお手洗いで偽の髪を装着している最中に、ある新入生にこのショートヘアを見られてしまったのです。名前はわかりません。とても甘い香りのする生徒でした」
「っ…!あ、頭に薄紅色のカチューシャをつけていませんでした?」
「!……きっとその方です」
間違いない。ローズと接触したんだ。
「彼女は、私の髪がいじめられたから短いんだという主張をやめませんでした。髪が命である女性にそんなことをするなんて酷い、私が話してみるからいじめられた相手を教えてほしいと。いくら自分で望んで切ったのだと伝えても、そんなはずはないと聞く耳を持たなかったのです……」
あぁ、ローズらしいわ……可哀想な人がいたら救わなきゃいけないからね。
彼女の頭の中ではきっと、女=短髪が存在していない。だからありえないと、相手の話も聞かずに決めつけてしまうのだ。
前世では女の子のショートカットは男性にも人気で、ブームまであったというのに……
「それからです。彼女は私のためを思って言ってくれているのに、急に私自身が責められているような気がして、体から黒い感情が湧き出てくるかのようでした。それで私はこわくなって、逃げた先の図書館で気づけば意識を無くしていました……」
「黒い、感情……」
その黒い感情にルナシーは反応し、エルザ様は感染した。ただ疑問なのが、エルザ様にはなぜ魅了の力が効いていないのか、ということである。原作ではローズに関わる人間は、みんな魅了されている描写ばかりだ。
もしもそれが、全てではなかったんだとしたら?一定数力の効かない人間がいるとしたら、さっきノアが魅了されなかったことも頷けるわ。
それに全ての人間を魅了することができたのだとすれば、そもそもルナシーに感染されるようなことはないんじゃない……?あ〜〜、頭がパンクしそう……
「教えていただき、ありがとうございました」
ちょうど曲が一曲終わり、お互いに礼をしてエルザ様とのダンスを終えた。
するとヒューゴ先輩が待ってましたと言わんばかりにスタンバイしていて、エルザ様に『次は僕だ』と主張する。
「周りに男同士だと思われたって、そんなことは僕には関係ない。君はどうしようもない僕の心に花を咲かせた女神だ」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような台詞を堂々と言うヒューゴ先輩に、エルザ様はタジタジだ。本当に周りに何を言われても、ヒューゴ先輩がいればエルザ様の心は大丈夫だと思ってしまうほどに。
ローズもこの場にはいないから、彼女の取り巻きから攻撃されることもない。むしろエルザ様を纏うオーラやそのお姿は、女性らしい格好や髪型でなくても素敵だと思わせる力があることを、周りにいる人達が証明していた。
なんだかんだかわいいお二人の様子をもう少し見ていたかったけど、他の方々のダンスの邪魔にもなるので、私はどこかで待っているはずのノアを探した。
「……姉さん、ここです」
キョロキョロと、見ていた先と違う方向から腕を引っ張られる。
「ノアっ」
「随分楽しそうでしたね」
「うん、楽しかったわ」
「……それは、何より」
そう言いながら、ノアは少し不貞腐れている。
「怒ってる…?」
「……俺は相手が公爵令嬢だから我慢したんです。あの先輩だったら絶対許しませんでした」
「ふふ、そうだよね」
ヒューゴ先輩を敵対視するノアも男の子らしくてかわいいなあ〜!と口元がつい緩んだのは一瞬で。
「……って、ヒューゴ先輩、殿下の護衛は……⁉︎」
焦って、開いた口が塞がらない。
もしかしてまた逃げてきた?だとすると、探されてるんじゃ……と、周りにオスカルがいないか確認するが、どうやら会場にはいない様子だった。
「それなら、胡散臭い令嬢と二人にしてくれと言われたそうですよ」
「……?胡散臭い?」
「ローズ譲のことじゃないですか?」
「ヒューゴ先輩が胡散臭いって言ったの?」
「そうです」
「…………え、それって直接ローズに会ったってこと?」
直で会わないと胡散臭いかなんてわからないだろう。
それにヒューゴ先輩も魅了対象外なの…?
「俺も不思議だったんで聞いたら、彼女に向けて紹介されたらしいです。先輩が殿下の今の護衛だと」
「…!」
まるで地獄ね……ヒューゴ先輩ごめんなさい、嫌な役回りを押しつけてしまって……せめて今は、存分に楽しんでほしいわ……
「姉さんがさっきご令嬢と話してたのはなんだったんです?」
「実は……エルザ様が豹変する前の出来事を聞いたの」
「何かわかりましたか?」
その言葉にひとつ頷くと、「ピピとアレクお兄様のところに行きましょう。一度ローランス家へ帰るわ」と答えた。
学園からローランス家までの道のりはそう遠くない。馬車に乗り今から帰ったとしても、夜中には辿り着く距離だ。
明日から早々に休日なので、私達はパーティー後に帰省することにしていた。
アレクお兄様はどうするか聞けていなかったけど、お兄様の今の状況がわからないからこのまま強制で帰省させるわ……
「ノアは誰かと踊った?私がいなかったから声かけられたでしょう?」
パーティー会場から出ると、だいぶ外は暗くなっていた。明かりを頼りにピピとアレクお兄様を探す。
「……なんですかそれ」
「え、こんな顔の私がノアのそばにいるとみんなノアに近寄れないって話だよ。私の顔、何考えてるかわからなくて近寄りづらいでしょう…?」
「鈍感すぎて言葉も出ません」
「言葉出てる出てる!今出したよ!」
しらけたような顔のノアに思わず突っ込んでしまったが、ノアは小さく溜息をついた。
「誰とも踊ってませんよ。誰かさんが他の人と踊ってたんで」
「それ、って私かっ…!ご、ごめん……」
「姉さんが楽しめたならいいです」
ノア……私と踊ろうと思ってくれてたのかな……だったら嬉しいな……踊れなかったのは残念だけど。
「本当はね、エルザ様に誘われる前ノアをダンスに誘おうと思ってたの。だから次のパーティーでは絶対踊ろうねっ」
「…っ、はい……」
次もノアが他の方ではなく、私と踊りたいと思ってくれるかは不明確だけど、それでもいい。
ただノアが他の女性とは踊ってないと知っただけで、こんなにもホッとしてしまったのは、どうしてかな……──
♢天の声♢
それはねぇ?それはねぇ?
ふふふふふっ




