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15歳、始まりの日②



 それから私たちは受付で案内状と学園の地図をもらい集会場に来た。


「今日はここで話を聞いて、先生が学園内を案内してくれるっぽいな。その後は自由でいいと……緩い」

「本来の目的が結婚相手を見つけることなんだもの。勉学は二の次。相手をこの学園限定で選ぼうとするなんて、なんだかちょっとアホらしいわね」


 ノアとピピの言葉には同意だけど、なんせこのハレルヤ学園は『このセカ』のために造られた舞台だ。まともであるわけがない。それでいて学園の生徒が襲われるという、乙女系学園ファンタジー漫画だから。


「貴族に生まれてしまえば大体親に婚約者を決められていたり、親の都合で決められることが多いからね。逆にここで相手を選べるのは貴族としてはいいほうなのかもしれないわ。それに貴族通しでしか結婚できないという古臭い決まりもあるの。ピピやノアのように生まれは貴族でなくたって、環境が悪くなければ力を発揮できる人は多くいるというのにね……」


 集会場の大きな鐘が鳴り、集会の始まりの合図を告げる。そこに集まった新一年生は入学という形で何事もなく式典を終えたのだった。

 それからは、クラスに分かれて学園を案内してもらうことになった。原作では皇太子のオスカルがピピノアをこの学園に入学させたため、二人は彼と同じクラスになっている。そしてヒロインであり主人公のローズとも必然的に。

 しかし私はそれをなんとしてでも回避すべく、ローランス家の裏の力で私達三人を彼らとは別のクラスにしてもらった。それを最低だと言われようと、できる限りの事件・事故を未然に防ぐためには汚い手だって使う。それがセリンセ・ローランス、私のやり方だ。


 

「きゃーーーーっ!」


 クラス別で学園や宿泊施設を一通り案内してもらい、自由時間に事件は起こった。

 ピピノアと誰もいないカフェテラスで、『アレクお兄様にピピを可愛いと思ってもらうぞ大作戦!』を考えている最中のこと。


「今の悲鳴、図書館のほうだわ」


 ピピの言葉にハッとして、私は椅子から勢いよく立ち上がり走り出す。


 そんなことありえない。だって……だってまだ初日よっ!いくらピピノアが強くなったからって、毎日毎日襲われたんじゃ青春ってものが送れないの、わからない?少しくらい空気読みなさいよ…!

 まだ見えてない敵の存在にイライラを募らせてしまう。


「姉さん、もし危ない状況だったら隠れててくださいよ」


 いつの間にか先に走り出した私の足の速さに合わせ、隣で余裕そうに声をかけてくるノア。ノアは私が前髪を分けたらどうかと言ってからというもの、前髪をセンターで分けるようになった。芸術でしか存在しなかったであろう美形を、現実で押し出してきている。この姿はまさしく、走る芸術!見た人はそう言うだろう。

 それにさっきは気づかないフリをしていたけど、白髪のピピノアは集会場にいた時ずーっと…!チラチラ周りから注目を浴びていた。

 そりゃあこんな美男美女が同じ空気を吸ってるって思ったら空気すら美味しいわ。声だってかけてみたくなるじゃない?……それなのに私のような見た目のヤバそうな人間が隣にいたから、みんな二人に声をかけられなかったという話。


 ピピには想い人であるアレクお兄様がいたとしても、ノアにとっての大事な出会いのチャンスを奪ったことになる。そんなことも気にせずに私の心配をし続ける推し……

 ほんと、涙が出そう。そういうところよ……


「こ、これは…!」


 図書館に着くと数名の生徒がいて、その生徒達を庇うようにアレクお兄様が立っている。目の前には豹変化した女子生徒の姿があった。彼女の長くなった爪で引っ掻かれたのかアレクお兄様の手からは少し血が出ている。

 アレクお兄様、生徒達を守っていてくれたのね……相手も傷つけることができず、大変だったでしょうに。

 お兄様がいくら強くて豹変化した生徒を止めようとしても、目の前の敵は撃退できない。ピピノアの戦士の力でないと悪は取り除けないのだ。これはそういう敵だ。


「ピピ、ノア、初日からで大変だと思うけどお願いっ!」

「任せて」

「姉さんはみんなを外へお願いします」


 私はひとつ頷くと「お兄様っ!」と叫び、出口のほうに誘導する。その間に隙を見てピピノアが豹変した生徒のところへ移動した。


 敵と言っても、その敵は毎度生徒に取り憑く。『ルナシー』という前世でいうウイルスの一種のようなものだ。

 それはハレルヤ学園のみに現れて、生徒に感染するという。感染した生徒は自我を失い人々を襲ってしまう。ただ襲ったからといって相手も感染するというわけではない、というのがウイルスとは違うところ。

 ルナシーを感染した人間から取り除くには、まず相手の中にある悪を体に突き刺さらない特殊なピピの弓矢で引きづり出し、ノアの剣で切らなければいけないのだ。


「「変身」」


 あ"〜〜見たかったやつ〜〜っ!生で見れる〜〜…!

 生徒達を誘導させた後、二人の変身をこっそり覗き見る。気づけば常備していたカメラで撮っていた。

 まるで本当にこの二人が主人公だわ……

 ピピの背中の羽はキラキラ輝くガラス細工のよう。半透明な美しい青色のその羽はピピの体を宙に浮かせることができる。ひらりひらり。ピピはルナシーに感染した彼女から身をかわすように避ける。

 そして、天井から彼女に一発で矢を命中させた。


「ゔ、ゔあああ……」


 感染した彼女は力が抜けたように床に倒れ込み、その体から黒く形の定まらない物体がズブズブと抜き出てくる。


「ヨクモ……ヨクモ……ジャマヲシテクレタナ」

「⁉︎」


 言葉を、喋ってる……!

 原作ではこの真っ黒い得体の知れない敵はピピノアが倒すまで言葉など発しない。


「悪いが切らせてもらう。それが俺達に与えられた天命だから」


 敵のすぐ目の前にいるノアは驚きもしていなければ怖がりもせず。瞬間移動で向かってくる攻撃を交わし、剣で見事にバッサリと切った。瞬殺だった。最初の敵はもう少し手間取るはずなのだが、やはり早くから鍛錬してきただけのことはある。

 その光景は美しすぎて鼻血が出たかと思った。


「……やめ、て……消えたくない……」

 

 ふと、消えそうになっている敵から哀しみの声が聞こえた。まるで泣いているような。

 なんだろう……感覚的に消してはいけない気がするわ……

 その声は敵の声じゃなく、今床に倒れ込んでいる彼女の声だと思ったからだ。


「マチルダ、いるんでしょう?」


 私は姿を隠しているであろうマチルダを呼ぶ。すると、フワッと姿を見せた。空気中から跳んでくるように。


「どうしてかあのまま消してはいけない気がするの。消さないままでいられる方法はある?」

「あるには、あります。戦士の力が宿る剣で切ったことでルナシーはいなくなり、今はそれが抜けている状態、元々は彼女の中にあった負の感情です。それが具現化したものがあの姿であり、つまりルナシーは人間の持つ負の感情に感染するのです」


 負の感情に…………だから原作でピピノアが倒した後の敵は、何かを伝えたそうだったの?

 つまりこのままだと、今倒れ込んでいる彼女の負の感情が消えることになる。それはきっと彼女にとって楽になれて幸せかもしれない。

 それでも、消えたくないと言った負の感情だって彼女の気持ちであり、彼女のものだ。


「本当はセリィに先に伝えておくべきでしたが、これを言ってしまえばあなたは行動に移すだろうと思ったので言えずにいました。負の感情に人間が直接触るということは、相当な気力と精神力が必要です。持ち主自身の痛み苦しみだけを詰め合わせた負の感情を感じ取ってしまうのですから……それでも、消さずに彼女の元へ戻しますか?」


 あぁ……彼女が起きて事情を話せば、きっと恨まれて憎まれる。怒り狂う、そんな姿が安易に想像できる。

 それでも……──


「心配してくれてありがとうマチルダ。でもやっぱり彼女のものなら体に戻したいわ。方法を教えてほしい」


 私の強い意志が伝わったのか、マチルダは意外にすんなり教えてくれた。




♢天の声♢


早速ピピノア大活躍!と思ったら……

敵の正体は負の感情…?

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