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『身長』のメタい姉とメタい弟




「最近、弟くんの下ネタがひどい件」


「突然なんだ?」


 物語はいつもの六畳一間からはじまる。

 休日の昼時。飯食いながら話す話題でもないと思うんだけど、そこんとこどうよ?

 ちなみに俺はカップラーメン、姉さんはコンビニで買ったサラダパスタ食ってます。こういうところでさらっと女子力アピールしてくる。あざとい。流石姉さん、あざとい。


「だって弟くん、ここ数話ずっとパンツばっかりじゃん」


 まぁそれは否定しない。

 自分でも『自己満足120%』と銘打ってるものの、やりすぎたかなと思い始めてる。

 なお反省はしてても、後悔はしてない。

 

「いい加減、他のネタも必要だと思うな、お姉ちゃんは」


「そうは言うけどな……」


 どういう人物かはおろか、容姿さえ決まっていない姉と弟である。その設定のガバガバ具合は、現在八話まであるのに部屋の方が先に説明されるというほどだ。

 登場人物として恥ずかしくないのって? いや、全然。


「一応、当初は感想が来たら考えようとか思ってたらしいぞ?」


 『自己満足120%』とか自分で言っちゃうような地雷物語に感想はそうそう来ないだろうけど、万が一来たら考えようと思ってた。ホントホント。

 ……来ないときのために、身長だけは決めてあるのは内緒だ。

 

「身長だけは決めてあるんだね……」


「まあ色々と便利だからな」

 

 贅沢いうならもっと色々決めておいた方がいいんだけど、そこは三流アマチュア小説書きが考えることだから余裕で見逃して。


「身長ってそんなに大事かなぁ……? 普通は先に容姿を決めない?」


「もちろん容姿も大事だ。だが、身長を決めることも大事だぞ」


「どうして?」


 サラダパスタを食い終わった姉さんは、ベッドに腰掛け尋ねる。

 食べるの早いな。ってまぁ大した量じゃないしこんなもんか。

 かくいう俺も食い終わったので、パソコンデスクの前という定位置に座ってるわけだが。


「例えばだ。仮に姉さんが俺より身長が高いとするだろ?」


「やった、弟くんより身長高い設定!」


「あくまで仮に、な?」


 できるだけ描写は手を抜く。いつの間にか、設定を出さない縛りでもしてるんじゃというぐらいだが。

 ちなみに実際に俺と姉さんの身長はどうなんだというのは秘密。下手に出すと、あとあと説明することで面倒になる。


「仮に姉さんが俺より長身として、その身長差も結構あるとする。そうだな……30cmくらいあることにするか」


 もし俺の身長が160cmなら、姉さんは190cmということになる。


「おぉ! なんかバスケとかバレーでもやってそうだね!」


「身長高い女の子が全員バスケかバレーやってるみたいな発言はやめてやれ。……んで、その状態で俺が姉さんの頭を撫でるとする。どうなる?」


 160cmの男子高校生が、190cmの女性の頭をなでなでする。


「……私がしゃがむか、弟くんが腕を結構伸ばさないと無理だね」


 まぁそうだろうな。腕の長さは大体身長に比例する。腕は肩から伸びてるから、身長160cmなら直立した状態で同じく直立した190cmの女性の頭を撫でるのはギリギリくらいかな。


「ぶっちゃけ、あんまりカッコいい絵づらじゃない」


 いや、それはそれでアリなんだけどさ。こう身長差カップルみたいで微笑ましいけど、ちょっと違う。

 何より、描写が増える。

  

「身長さがあるとそういうことも描写した方がリアリティが出る。……気がする」


 やったことはないからしらん。


「へー。でも身長差とかない場合は別にいいんじゃない?」


「いやいや、これがそうでもない」


 登場人物に身長差がなくても、長さっていうのは物体が存在する限りある。身長の重要度がなくなるわけではないのだ。


「例えば前回の話で出てきた棚だ。確か前回、姉さんは俺の部屋の本棚を物色してたよな?」


 居ないことになってる俺がなんでそれを知ってるかって? ご都合主義さんの力だよ。

 

「さらっと『可動式の本棚』で流したけど、実際にはどれくらいの高さだ?」

 

 可動式の本棚ってなんだよって思った人もいるかと思うが、可動棚って名称でちゃんとある。まぁ俺の部屋にあるのはちょっと違って、本棚自体は固定で棚が手前と奥に二重で分かれててレールで左右に可動するタイプ。コミックとか文庫本を入れるにはとってもお得。ただし、レールはすぐ壊れる。

 そんなことはさておき、姉さんはそんな本棚を見ながら答える。


「え、えーっと……私のおへそくらいの高さかな?」


「そうだな。……実はその本棚、150cmあるんだ」


「ええええええええ!?」


 もちろん嘘だ。

 本棚が150cmとすると、おへそが150cmの高さにある姉さんの身長は軽く2mを超えてしまう。プロレスラーかよ。

 そこまで身長が高くなくて仮に2mぴったりとすると、今度は脚がめちゃくちゃ長くて股下150cm以上。おへそから上に関してはお察し。もはや人間かどうか怪しいぞ。


「人間の目線の高さは身長とほぼ同じだ。そして、人間の構造は個体差はあってもほぼ変わらない。だったら、それと比較して周りの高さや長さを表現することが出来るんだ」


 そういって食い終わったカップラーメンの容器を手に取る。

 手に取ったカップラーメンの容器は手に少し余るくらいの大きさ。

 姉さんが座っているベッドは、姉さんが横になって余るくらいの広さ、とかね?

 身長が決まってくれば、脚の長さ、腕の長さも大体決まってくる。それに当てはめれば、表現の仕方は色々ある。

 まさしく人間ものさし。


「でもでも身長は低いけど脚は長い人とか、身長高いけど腕は短い人とかもいるよね?」


「その通り。でもそれが今度はその人物の個性になるだろ?」


 みんな違うからみんな良いとかいうじゃん。

 平均値ばっかりでもいいが、それはそれ。細かいところで個性が生まれる。だから設定っていうのは楽しい。

 

「あと身長が分かって体重が決まれば、大体の体格も決まってくるな」


 正直、ここらへんはどっから決めていいんだけど。俺は大体身長から決める。

 身長が高ければ比例して体重も重くなるはずだ。それが平均より重ければ横に広がるしかない。つまりデブキャラの出来上がり。

 逆に身長が高いのに軽いってことは、筋肉量が少ないから非力とかって表現も出来る。

 そうすると姉さんみたいにベッドの上で飛び跳ねても効果音が「ぼふんぼふん」とかで済む。別に姉さんがガリガリって意味じゃないぞ。そもそも姉さんの身長は――げふんげふん。


「これは文章に説得力を持たせるってことにも繋がるな。能力とかなんとか特殊な設定がなければ、物理法則に従うわけだし」


 さっきは「自分の身長と同じ高さの扉をくぐり」とか言ってたのに、あとになって同じ扉をくぐるとき「扉にぶつからないように身をかがめ、通り抜けた」とか言い出したら、誰だってあれれーおかしいぞー、と思うだろう。


「ふーん……。身長って重要なんだねぇ」


「身長だけじゃなくて他も重要だけど、身長を決めておくと便利だな」


 あとになって文章直すのが大変だから、長編を書くなら最初に決めておくことをオススメする。マジで。

 出来れば、身体測定で測るくらいの項目と、余裕があれば学校とかでやる体力測定の項目くらいは決めておくと楽。あと学園モノなら成績とか。そこから個性が出るときもある。

 数字化はしなくても、大体で決めておくとちょっとした小ネタが出来て、色々表現するときにも便利。


「ただ、設定したからって物語に無理に出す必要はない」


 ヒロインは砲丸を20m投げられるという設定をしたからって、ヒロインに砲丸を投げさせるシーンを書く必要はない。当たり前っちゃ当たり前だけど。


「えー、せっかく設定つくったのに出さないの勿体ないよー」


 姉さんはぶーぶーと頬を膨らませて抗議するが、それがいけないんだなぁ……。まあ設定がない姉さんからするとうらやましいことこの上ない話だろうけど。

 

「何? 姉さんは彼氏の身体測定データとか体力測定の結果とか全部知りたいタイプ?」


「いや、全然」


「それと同じだ。数値を知らなくても速く走れるっていうのが分かればいいし、握力なんて知らなくても楽しい会話は出来る」


 設定はあくまで設定。あれば便利な場面もあるけど、なかったからって何ともならないわけじゃない。

 逆に物語に設定ばかりだと、そればっかりで物語が一向に進まない。 

 

「あっ、私それ知ってる! あのね、どっかの三流アマチュア小説書きが書いてる、魔王で勇者で――」


「うん、それ以上言わなくていいから」


 悲しいなぁ。

 続き、いつ書こうかなぁ。

 そんなことを思っていると、姉さんが立ち上がり俺に歩み寄ってきた。


「よし、弟くん! 今から背比べしよう!」


「やだ」


 俺、即答。

 俺達の描写はガバガバくらいがちょうどいい。

 余計な設定どころか、明日にも設定が変わるからゆるくできるのだ。

 三流アマチュア小説書きの主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。




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