『助詞』のメタい姉とメタい弟
唐突に物語ははじまる。
いつもの六畳一間。ベッドに座る姉とパソコンに向かう俺。
そういえば世間は冬休み。一般的な男子高校生である俺も授業がなく、平日だというのに部屋でごろごろしていられる。
っていうか作中はいつも休日だ。年中休み。嬉しいね。
「そういえば弟くん」
「なんだい、姉さん」
「文章を読みなおすのって大事なの?」
いきなり本題をぶち込んだね、姉さん。
いつものようにもうちょっとふざけた話からはじめてもいいんだよ?
つーか不自然極まりないから。もう少し流れってものを考えて欲しい。
「そんなこと言われても……」
ベッドの上で口を尖らせる姉さん。
癖なのかな? もしくは三流アマチュア小説書きが書く物語の登場人物だから、同じ描写になるだけか。
……多分両方だな。
「私の癖はどうでもいいでしょ! それよりどうなの?」
「そうだなぁ……。それってあれか? 自分で書いたものを読み直した方がいいかってことか?」
「うん、そうそう。やっぱり私たちも昔やったことを振りかえって訂正していった方がいいかなぁーって」
なるほどね。過去の行いを訂正したいと。
タイムスリップしたいみたいな発言にも聞こえるが、実はタイムスリップも充分可能だ。
――そう、この物語ならね?
って、このネタももういいか。
「あー、そうだなぁ……。そりゃ出来ればしたほうがいいな」
過去の行いうんぬんはともかく、自分で書いた物語は読み返したほうがいい。
んで、気になるなら直した方がいい。
「どういうところを直すのがいいの?」
「そりゃあ、あれだよ……。どういうところだろうな……?」
ごめん、俺自身もわからん。
なんとなく直したいなぁって思うことはいっぱいあるんだが。
でもそれじゃ話が終わっちまうしなぁ。あー、なんかないかな。
……いや、そうだ。あれがあるな。
「とりあえず、助詞を見直してみるといいかもな」
「女子?」
いや、違ぇよ。助詞だよ、助詞。
なんで文章直すのに女の子見直す必要があるんだよ。欲求不満か。
「助詞っていうのは、『何々は』とか『何々へ』とか『何々に』とか文章の合間に入る言葉だな」
説明が正しいかどうかはしらん。世の中知らないことばっかだ。
ちなみについさっきまで助詞と接続詞を勘違いしてたのは秘密だ。急いでググった。
ネット時代万歳! 誰だよ、ネット時代の弊害とか言ってた奴。こんなに良い世の中なのに。
俺の掌はモーターよりも速く高速回転していた。
「ふーん……。でも普通そんなに気にしないと思うんだけど」
「まぁそこまで気にならないな。つーか俺自身もあんまり気にしない」
っていうか、これまでの物語でも気にしてないし。
気づいたものもあるけど面倒だから直してない。
「でもせっかく読み直すなら、直すかどうか考えてみてもいいと思うぞ」
「ほー……。具体的にどういうとこ直すの?」
「とりあえず『へ』と『に』だな」
「『へ』と『に』?」
「ふむ……、よし。じゃあ、『姉さん』は『俺』に『携帯電話』を投げる」
そう言いながら、片手で姉さんに手招きする。
ほら、持ってる携帯電話を投げろ。
「えっ、何言ってるの弟くん?」
「いいから早く姉さんの携帯電話を投げろ!」
テンポが悪くなるだろ! ただでさえ無駄話とおふざけでテンポが悪いんだぞ!
姉さんは慌てて携帯電話を取り出すと、俺に向けて投げた。
その様はまるでメジャーリーガー。姉さんの放った短距離レーザービームが俺目掛けて襲い掛かる。
自分の携帯電話だろ。慌てたからってそれはどうなのさ。あと強肩すぎ。
「ふぐぉっ!」
案の定、短距離レーザーは俺の顔面にストライク! その後、携帯電話はレーザーの余韻を全く残さずぽとんと床に転がった。
誰が全力投球しろっつったよ。普通に投げろ、普通に。
しかもわざわざ顔面狙いやがって。何か恨みでもあるのか。
……いや、よく考えたら恨みしかないわ。パンツとかトイレとか。
「あぁ! ごめん、弟くん! 大丈夫?」
「大丈夫だ……。そしたら『俺』は『姉さん』に丁寧に『携帯電話』を投げるぞ……」
そう言って、床に落ちた携帯電話を拾って投げる。
姉さんはそれをキャッチ。姉さんもこうやって投げてくれれば良かったんだよ。
「で、これで何がわかるの?」
「むしろわからなかったのか、姉さん」
読んでる方は大体気づいていると思う。
『姉さん』は『俺』に『携帯電話』を投げた。
『俺』は『姉さん』に丁寧に『携帯電話』を投げた。
もう分かったかな?
「二回目に携帯電話を投げたのは俺だ。そして投げた先は『姉さん』。『姉さんに』でも意味は同じだけどさ」
『丁寧に』と言葉をつけると分かりやすい。
『俺』は『姉さん』へ丁寧に『携帯電話』を投げた。
『に』と『へ』が違う。
「『へ』というのは移動先に対して使う助詞だ」
『に』でも構わないけど、今回のように『丁寧に』とかをつけた場合、なんだか座りが悪い。気にするのであれば変えてもいいだろう。
語順を変えるってのも一つの手だ。俺は姉さんに携帯電話を丁寧に投げた。これなら『に』が重ならないから、語感もそこそこ。
……結局は好みだけど。
「他にも、『に』と『で』も同じ用法だな」
世界に一つだけの鼻だろうが、世界で一つだけの鼻だろうが、意味は一緒。
とにかく助詞の『に』は便利。
色んな助詞が『に』と置き換わりやすい。他にも『は』と『が』とか助詞には色々あるんだけど、今回は割愛。
つか、ググれば出るから。決して説明するのが以下略。
「うーん……でもなんか置き換えると堅苦しいなぁ……」
「だから好みなんだって」
助詞とか気にしながら会話する奴はあんまりいない。
「どこへ行こうと言うのかね?」と「どこに行こうと言うのかね?」の違いなんて、そうそう気にすることもないだろ。
「それで、この物語の中では気にするの?」
「気にするわけねぇじゃん」
そんなこといちいち気にしてられっか。あっ、でも気が向いたら直してるかもしれない。気が向いたらね?
ひとまずのところは、気にせずやっていくスタイル。
「えー、せっかくだから使っていこーよー」
「じゃあ姉さん一人でやってて、どうぞ」
俺は気にせず気ままに物語を進めさせてもらう。
文句は三流アマチュア小説書きに言え。俺は一切受け付けないぞ。
三流アマチュア小説書きの主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。
作者が飽きるくらいまでは、続く。




