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『擬音』のメタい姉とメタい弟

 物語は六畳一間からはじまる。

 いつものごとくベッドに腰掛ける姉さんと、パソコンデスクに向かう俺。

 時刻は午後二時。ガラス戸から日の光が射しこみ、姉さんの頬を淡く照らしていた。

 昼食あとのまどろみに身を任せながら、俺たちは――。

 

「――……ごめん。正直、間が空きすぎてこの物語のテンション忘れかけてるわ」


「ええぇぇぇ!? 弟くん、唐突すぎるよ!」


 いや、だって『劇場版』除いたら約二週間ぶりの物語だぞ?

 元々、設定もない登場人物がぐだぐだ喋るだけなのに、今はそのテンションすら思い出せない。

 

「なんか軽快なテンションでやってた気がするんだけど、間が空くと忘れちゃうよなぁ」


 俺と姉さんの口調とか、もうブレブレだと思う。

 ほら、マンガとかでもよくあるじゃん。「第一巻と最終巻で主人公の顔が全然違ぇ!」みたいなこと。ああいう感じ。

 いやぁ一貫性って大事だね。


「大丈夫だよ、弟くん! この物語、最初からこういうぐだぐだした感じだから!」


「あぁ、うん。まぁそうなんだけどね……?」


 それで納得出来てしまうのもどうかと思うけど。

 設定が無い分、「テンションくらいは常に軽くいきたい」と思ってたんだけど、それすら忘れたことがちょっとショック。

 

「気にせずやっていこ? 物語進めていくうちにまた思い出すよ。お姉ちゃんも頑張るから、元気出してっ」


「お、おう……」

 

「うんうん。……えーっと、じゃあ今回は何を話すの?」


 姉さんが首を傾げながら問いかける。

 テンションとかそのうち思い出すよな。

 気にせずやっていこう。

 かぶりを振ると、俺は答えた。


「そうだなぁ。とりあえず、前回の『劇場版』の反省からいくか」

 

 『続いてますよ』記念の『劇場版・ある日~2』の話だ。

 まだ読んでないって人のために簡単に説明すると、『俺が街の中を走っていたら、なんか変質者が現れて、謎展開』って感じだな。


「えー、弟くんカッコよかったよ? ほら、俺つえーモノの主人公みたいだったし」


「この物語と全く違うけどな? つーかもう、ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコんでいいのかわからんな……」 

  

 突然勇者とか出てるし、戦闘シーンはやたら短いし、最後のポエムってるとこも意味不明だしで、自分の中でも不評だ。

 

「そうかなぁ……? 結構よくできてたと思うんだけど……」


 姉さんが呟く。

 ……なんか自分が書いてる小説の登場人物に「結構よくできてる」とか言わせてるかと思うと、むしろ俺が悲しくなってきた。

 何度も言ってるけど、俺、あくまで主人公だから。作者と別人だから。そういう設定だからぁ!

 まぁ、それは置いておいて、だ。


「俺だって評価したい部分はある。ちょっと試したいことがあったんだが、それは概ね満足している」

 

 決して『続いてますよ記念』のためだけにアレを書いてるわけじゃないぞっ。ホントホント。


「試したいこと?」


「おう。前回の『劇場版』では、映画予告風にしたよな?」


「確か、妹ちゃん初登場の話だよね? ――そういえば今日はいないね」


 なんか妹は塾の冬期講習らしいぞ。昨日帰り際に言ってた。


「……へー、妹ちゃん昨日来たんだ。私も昨日来たはずなんだけど」


「あぁ。夕方に姉さんが帰ったあと来たぞ。『学校で調理実習するから、その予習をさせなさいっ!』とか言って」


 同級生に、料理も出来ない女の子って思われるのが嫌なんだとさ。

 肉じゃが作って一緒に食べて、帰ってった。

 俺としては食費が浮いたから大助かり。

 妹がしきりに味の好みを聞いてきたけど、出来たものは普通に美味かった。

 それははじめて作ったとは思えないほどで、まるでこの日のために練習をしてきたんじゃないかと勘違いしたほどだ。

 ……なんだろう。男に味の好みを聞くってことは、ついに妹にも春が来たのかね?

 

「……ふーん。肉じゃがなら、私も作れるよ?」


「ん? いや知ってるよ」


 姉さん料理上手いじゃん。

 肉じゃがも前に一度作ってもらったし。普通に美味かった。

 俺がそう返すと、姉さんは呆れ顔で呟く。

 

「弟くんって、たまに主人公してるよね……」


 え? 今の会話のどこに主人公要素が?

 っていうか、たまにってなんだよ、たまにって。

 俺はいつも主人公っぽく……――してないな。

 まぁ、いいが。


「――話が逸れたな。とにかく、だ。前回の『劇場版』は、映画予告風。今回は、普段使わない感じで擬音を使ってみた」


「へー、そうなんだー……」

 

 あ、あれ? なんか姉さん投げやり?  

 いつもなら『擬音って? どういうこと?』とか言うじゃん。


「あぁ、うん。そうだね。あー……、擬音ってどういうことぉー?」


 完全に棒読みじゃねぇか。

 まぁ、いい。

 何故か姉さんが投げやりモードになってるけど、物語は続いていくのだ。

 つーか続けないと終わらないのだ。


「ほら、よくあるだろ。『ジャキン!』とか『どかーん!』とか『ヒューン!』とか。ああいうのが擬音だ」


 ホントは『音喩』っていうのかもしれないが、細けぇことはいいんだよ。

 分かりやすいから擬音と呼ぶ。おーけー?


「今回は『――シュン!』という謎の擬音を多用してみた」

 

 それが試したかったことの一つ。

 『――シュン!』は、剣を振るときに出る音をイメージしている。

 速く振ってるところを想像させたいから、ちょっと高めの擬音をチョイスしてみた。


「へー……。でも擬音なんて今更じゃない? よく見るよー」


 いまだ投げやりモードの姉さんが口を開く。

 いや、まぁ、そうなんだけどね。

 これには、実はちょっと恥ずかしいというか、馬鹿みたいな話がありまして……――。


「――……昔の俺は、『擬音を多用する小説ってなんかヤだなぁ』って思ってたんだよ」


 むしろ、『擬音を多用する小説は陳腐』とさえ思ってた。

 文中に『どっかーん!』だとか『ざしゅっ!』とか入れる小説は、程度が低いと思ってた。

 今思うと、めちゃくちゃ恥ずかしい話なんだが。

 

「例えば、戦争を題材とした硬派ちっくな小説で、『銃身が吠えた』とかの表現なら許せるけど、いきなり『機関銃の引き金を引いた。――ババババババ!』とか書かれると萎えるみたいな?」


 ちょっと例えが極端だけど、そんな感じ。

 昔の俺はそんな風に思ってた。


「思ってた、ってことは今は違うの?」


「今は違うな。面白ければ、それで良い。さっきの例は極端だけど、作風によったら全然問題ないだろ」


 要は表現の問題なわけで。

 昔の俺はそれを許容出来なかった。

 一つだけ目にして、『こんな表現をしている作品は、全部駄目だ』みたいに決めつけた。

 『擬音を使うような作品は、全部面白くない』みたいな決めつけ。

 今思うと、すごく勿体ない話だ。


「だってそれって、表現の幅を縮めてるだけじゃん。もちろん、作品や雰囲気にあった表現は大事だ。でも、『擬音が陳腐』っていうのは言いすぎだな」


 他の表現がそうであるように、擬音だって使いどころ。

 それを試したくて、前回の話を書いた。……まぁ上手く使えてる自信はないけれど。

 擬音は昔から使われている表現方法の一つだ。

 ドアをノックするとき『コンコン』と音を表現したりする。


「擬音に苦手意識みたいなものがあったんだな。それを払しょくしたかった、ってとこだ」


 前回はそのために出来た。

 ……決して思いつきで勇者を出そうとか思ったわけじゃないぞ!? ホントだぞ!?

 あっ、後半は完全に思いつきの後付けなんですけどね。


「ふーん……」


 姉さんは俺の言葉に納得したのかしてないのか、そう呟く。

 というか、俺の話聞いてる?

 投げやりモードの姉さん、完全に相槌マシーンになってるけど。

 ……あっ、それはいつものことか。

 そんなことを思っていると、おもむろに姉さんが口を開いた。

 

「――……ねぇ、それよりさ。妹ちゃんは私がいないときもよく来るの?」


「それよりってなんだよ。人がせっかく恥ずかしい話までしたってのに……」


 俺、泣いていいかな?

 心の中で涙流しつつ黙っていると、姉さんは更に言葉を続ける。


「ねぇ、どうなの? よく来るの? 料理も作りにくるの!?」


 ベッドから腰を浮かせながら俺へと迫ってくる姉さん。

 ちょ、ちょっと待て。一体どうした!?

 思わず焦る俺。

 さっきまで投げやりな返事だったじゃん。

 つーか、姉さんなんか怒ってます? 俺、なんかした?

 

「怒ってないよ! それよりどうなの? ねぇ!」


「お、怒ってないなら大声出すなよ……! あと迫ってくんなっ!」



 ――この後、何故か投げやりモードからお怒りモードになった姉さんを宥めるのに、小一時間掛かった。

 ……結局、今回、何の話したんだっけ?

 あぁそうそう。擬音の話か。

 俺の尊敬する小説家はこう言っていたよ。

 『良識の範囲内なら、面白いモノを書くために何でも使え』。

 喰わず嫌いは勿体ねぇ。

 ……まぁ味の好みも多少はある。

 妹だけでなく、姉さんも執拗に聞いてきたから一応、ね?

 三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。 




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