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『匂い』のメタい姉とメタい弟

「弟くん、気づけばこの物語も二十話超えてるよ」


 ……せやな。

 いつもの六畳一間に、俺と姉さんが対峙している。

 いつの間にやらこの物語も二十話。文字数にすると約六万字。正直、驚きだ。

 いや、ホントに。はじめた頃はこんなつもりじゃなかったんだけど……。


「くだらない話をしてただけなのに、二十話超えてたな」


「ねー。もし全話読んでる人がいるとしたら、謎の使命感を感じててもおかしくないよ」


 その使命感、大事にしてください。三流アマチュア小説書きが泣いて喜びます。

 実際、この物語を読みに来る人ってどういう人なのか。

 もしかして、罰ゲームか何かで音読させられたりしてるんだろうか?

 風景描写が少ないから、音読には最適だぞっ。問題は、内容自体はくっそどうでもいいってことだけだ。


「まぁしかし飽きるまでは続くんだ。読者がどんな感じで読んでても、こっちはあいかわらず何も変わっちゃいないさ」


 六畳一間から一歩も出てないし、姉さんと俺だけっていうスタンスも変えてない。

 あっ、妹は増えたか。

 まぁあれぐらい誤差の範囲だろ。


「うん……。だから設定も増えないよね……」


 姉さんが沈んだ表情で呟く。

 いい加減俺も欲しくなってきたな、設定。 

 二十話超えたし、もう一回特別編やる? そうすれば妹みたいに設定が生えてくるかもしんない。

 一応、節目ごとに『続いてますよ記念』で特別編やろうとは思ってるんだけど、今回は特に何も考えてないな。

 ちなみに前回の『劇場版』は、めっちゃ不評でした。当たり前か。


「それもいいかもねぇー……。次は『近所の幼馴染』かなぁ……?」


「いやいや、女ばっかり増やしてもアレだろ。やっぱ一人くらい男がいないとな。だから次は『何故かめちゃくちゃ情報通な男友達』とかじゃないか?」


「――……弟くん、友達いないじゃん」


「ばっ、馬鹿野郎! お、おお、俺だって友達ぐらい居るわっ!」

 

 今ちょっと具体的には思い浮かばないけど!

 つーかそんな設定すらないから、友達多いか少ないかもわからないけど!

 絶対居る! 多分居る! ……うん、き、きっと! ……おそらく。

 ……居る、よね?


「弟くんの寂しい交友関係は置いておいて――。ひとまず今日も物語をはじめよ?」


「……うん」


 俺、超しょんぼりである。

 姉さんの優しい笑顔と口調が、今はなんだかとてもツラい。

 

「もうっ。友達いなくてもお姉ちゃんが居ればいいでしょ?」


 いや、お前どこのヤンデレだよ。

 嫌だよ。お姉ちゃんだけしか居ないとか。俺はシスコンじゃねぇ。

 ……どうでもいいんだけど、『シスコン』って変換しようとすると『シス婚』って変換されるんだけど。

 あれ? もしかして俺って実はお姉ちゃん大好きっ子なの?

 そういう設定なの?

 

「――……ねぇ、アンタたちいつまで茶番してるの?」


 俺と姉さんの間。小さなテーブルに肘を付きながら、妹がジト目を向けていた。

 おぉ、妹! 居たのか!?


「『居たのか!?』じゃないわよ! 最初から居たわよ! 何が『俺と姉さんが対峙している』よ! ちゃっかりアタシを省いてるんじゃないわよっ!」


 妹、怒りのツッコミラッシュ。

 心なしかその金髪ツインテールも逆立っているように見えた。もちろん、アニメじゃないから逆立たないんだけどな。そういう物語じゃないからこれ。

 

「大体アンタたち、茶番だけで何文字使う気よ! 本題までが長いのよ! アンタらは、突然連絡してきて『用件を言え』って言ってるのに延々と話を引き延ばした挙句、『用がなきゃ連絡しちゃいけないの?』って言う女の子か! 用がないなら連絡してくんな!」


 お、おう。その例えはちょっと分からないけど、妹がすごく怒ってるのは分かった。

  

「わ、わかった。じゃあ話を進めよう」


 そう言って俺は、テーブルの上にある物に手を伸ばす。

 俺と姉さんの間、そして妹の目の前。

 小さなテーブルの上にはカセットコンロ。そして土鍋。

 もうお分かりだろう。


「――よーし。じゃあ、お姉ちゃん特製! 愛情たっぷり鍋をご賞味あれ!」

 

 姉さんが言うと同時に、俺は土鍋の蓋を開ける。

 もわわん、という蒸気が上がり、温かい湯気が俺たちを撫でた。

 そして突如として部屋に立ち込める、昆布の良い匂い。

 湯気がはれたとき、目に飛び込んできたのは白菜。

 出汁でほどよく萎びており、旨味がたっぷりなのに白菜本来のシャキっとした食感も残している。

 白菜に紛れて出汁に浮かぶのは、肉団子。こちらは姉さんが独自にレシピを考えて作られた鶏肉団子だ。

 ニラや人参をはじめ、野菜も豊富に使って栄養にも考慮されたヘルシーな一品。

 そして――。


「――……ねぇ、アンタがやりたいことってコレだったの?」


 描写の途中だと言うのに、妹が口を挟んでくる。

 

「いや、違うんだけどさ。なんか、つい……」


 せっかく料理出したんだから、食レポまがいのことをしたくなったんだよ。

 

「ええー、せっかくのお姉ちゃんの特製肉団子の描写がぁ……」


 うん、ごめん。

 ぶっちゃけ俺、肉団子とか美味しい作り方知らないから。これ以上は正直無理だな。


「まぁしかし、やりたいことは半分出来たも同然だ」


「弟くんのやりたいことって、鍋を囲むっていうこと? もしかして、そのためにわざわざお姉ちゃんに『今日鍋作れ』って言ったの?」


「アンタ、お姉ちゃんになに我儘言ってんのよ。鍋くらい自分で作りなさいよ」


 あ、はい……。

 いや、違うんだよ。


「本当はね? こう、『物語には見えるものだけじゃなくて、匂いとか音とかを登場させた方がリアリティが出るんだ!』みたいな話をしたかったんだ」


 ただ、前半の茶番を長引かせすぎて文字数が足りないんだけどな。

 えーっとだな。匂いや音の話は、食べ物レポート。通称、食レポが実に良い例になる。

 

「テレビって匂いや温度までは伝わらないだろ? でも食レポでは必ずと言っていいほど『いい匂いがします』や『あつあつです』みたいな言葉が出てくる。これは、より視聴者に想像してもらいたいからなんだ」


 音と映像だけでも美味そうに思える。でも、匂いや温度を伝えわれば、もっとそれが美味そうに思える。


「物語だってそうだ。『鍋がある。色とりどりの野菜が見える』だけより、『湯気が上がって、良い匂いが立ち込める』と加えた方が、より美味しそうだ」


 食べ物以外でも、そう。

 ただし、なんでもかんでも足せばいいってものじゃない。

 事あるごとに匂いの話を出されても、『この作者は匂いフェチなんだろうなぁ』と思われるだけだ。


「つまり、それを言いたいがために弟くんは私に鍋を作らせたの?」


「全然言い訳になってないじゃない」


 あぁ、うん。まぁそうなんだけどさ。

 いやいや、待て。


「これで半分だ。もう半分は、お前たちのためだ」


「私たち? どういうこと?」


「ほら、姉さんが『妹ちゃんからのメールが突然減った』って悲しんでたからさ――」


 主に「んほおおぉぉ!」とかメールで言うせいで。

 ちなみにその後やんわり叱っておいた。

 

「――メールなんかより、実際に会って話す方が早いだろ? それなら鍋がうってつけだ。なんせ、みんなで食える。鍋がなんで丸いか知ってるか? 隣に人が居ても、どの位置からでも料理をつつけるようにするためなんだぜ?」

 

 ――もちろん嘘である。今三秒で思いついた。内緒だぞっ。


「弟くん……」


「兄貴……」


 おぉ、珍しい。姉さんと妹からの尊敬の眼差し!

 そうだろうそうだろう。

 いやぁ、喧嘩ってわけじゃないけど、どうせならみんな仲良くにっこりぐだぐだ物語を続けたいしな。

 俺だってたまにはいいことをする。

 ――そう思ったのもつかの間。二人は口を開く。


「……『メールより会って話す方が早い』って、弟くん、絶対筆不精だよね」


「……友達が少ない奴がよく言う言葉ね。だから仲間内から付き合い悪いとか言われるのよ」


 ……言うなよ。

 だんだん視界がぼやけてきた気がするが、これは多分、鍋が出す湯気のせいだと思う。

 決して、俺の涙ではない。

 泣いてないっ。俺、泣いてないからっ!



 それから、俺たちは仲よく鍋を食べた。

 やっぱり姉さんの作る料理は、普通に美味かった。

 姉さんと妹は結局、メールだけじゃなくてちょくちょく俺の部屋に顔を出すことにしたんだそうな。

 だったらあの一言は余計だったんじゃないですかねぇ……?

 三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。




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