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『姉不在』のメタい弟と『テンプレ妹』




 物語はいつもの――。


「――はいはい、そういうのもういいから。早く物語をはじめましょ?」


 ――最後まで言わせろよ!

 姉さんの定位置には、今日は別の人物が座っている。

 何故かぶすっと無愛想な表情を浮かべる妹、その人だ。


「つーかなんでまだ居んの?」


 俺はパソコンデスクの前といういつもの定位置に座りながら問いかける。

 お前前回帰ったじゃん。もう出ない感じしてたじゃん。

 なに? 一話限りのゲストキャラじゃないの?

 

「お姉ちゃんが風邪引いたから、その代理。アタシだって冬期講習サボって来てるんだから、早く終わらせてよね」


 サボるなよ。あと姉さんが風邪引いたなら物語自体進めるなよ。


「そんなこと作者に言いなさいよ! いつもクソ兄貴が言ってることでしょ」


「むむ……」


 そう言われると俺も困るが。

 まぁ仕方ない。今日は俺と妹で物語をはじめよう。

 俺だって冬休みの間に溜まった録画アニメを消化したい。最近はブラウザゲームにもハマって、イベントやら何やらで大忙しでもあるしな。


「それで今日は何をするの?」


 あいかわらず素っ気ない口調で問いかける妹。

 その手元には参考書。冬期講習とやらはサボったのに、しっかり勉強はしているようだ。真面目なんだか不真面目なんだかわからんな。


「何するって言われてもな……」


 いつも何かしてるわけじゃないんだが。

 つーか大体、姉さんの方から話題を持ってくるからなぁ。

 ……あれ? もしかしてこの状況詰んでないか?  


「なに? もしかして何も考えてないわけ?」


「そりゃそうだろ」


 こっちのタイミングで何かをはじめられるわけじゃないんだぞ。いつもいつもそんな話題になるようなことがあってたまるか。

 しかしこれまでは姉さんが居たからなんとかなってたわけで。

 居なくなってはじめてわかる、姉さんの偉大さ。

 「へぇー」「そうなんだ」「すごいねぇ」の大切さ。


「……ねぇ、それってお姉ちゃんのこと馬鹿にしてない?」


「全然?」


「そ、そう? まぁ別にアタシはお姉ちゃんが何と言われても関係ないけどねっ。一応あんなのでも姉だから可哀想かなと心配してあげただけよ。あー、アタシ優しいなぁ」


「はいはい、雑なテンプレありがとよ」


「テンプレって言うな!」


 会話はそれなり。でもやっぱり話題に繋がらない。

 仕方ない。面倒だけどここは俺が話題を出してやろう。


「なぁ、相槌の大切さを知ってるか?」


「なに、突然? 相槌の大切さ? 知らないわよ」


「それはだな――」


「――あ、説明とかいいから。アタシ、そういうの興味ないし」


 ――こ、コイツ……!

 唯一俺が話題に出来そうな『小説雑談っぽい何か』を興味ないとか言いやがった……!

 コイツはめちゃ許せんよなぁ……!?


「なに怒ってんのよ。大体、アンタのクソみたいな小説講座っぽいクソ話とか、誰も聞いてないから」


「お、おお、お前! 言っていいことと悪いことがあるぞ!」


 PVを話数別で見てみたら、見事に『小説雑談っぽい何か』をしてる話だけPV伸びてたんだぞ! 俺が一番びっくりしたわ!

 何がびっくりしたって、むしろ第二話飛ばして第五話とか読んでる人がいるっぽいという状況にびっくりした! 

 ホント、あれなんなんだろうなぁ……?

 

「どうでもいいわよ、そんなこと。それより他になんかないの?」


「そんなに言うならお前が考えろよ……」


 俺にはもう無理だ……。どうせ俺なんて主人公のくせに助詞とか描写とか説明するしか能がないポンコツなんだ……。

 なんで主人公になっちまったのかなぁ。

 やっぱあれかな。男子高校生って書きやすいからかなぁ。


「なんでよ。書いてるのはおっさんでしょ?」


 俺の呟きに、参考書に向けていた目を上げ問いかける。


「まあな。でもな……書きやすいキャラってのはあるんだよ……」


「それがなんで男子高校生になるわけ? それならおっさんでいいじゃない」


「……お前、おっさんが延々と話してる話とか読みたいか?」


 朝起きて支度して着替えて仕事行って夜遅くに帰ってきて寝る。普通すぎる。

 いや、そんな普通の話もいいけどさ。


「せっかくなんだから、ちょっと違う要素欲しいだろ……?」


 おっさんの日常もいいだろうけど、それをおっさんが淡々と書いてたら、そりゃ創作じゃなくてただの日記だ。

 書くのは楽だろうけどな。だって毎日あることをずっと書いていけばいいんだから。


「でもちょっと大げさに書いてみたり、想像で補ってみたりとかして、はじめて創作って呼べるんだよ……」


 実際それってノンフィクションとかじゃね? と思わなくもないが、細かい違いはこの際知らん。


「あっそ。……ていうか、いい加減その喋り方止めなさいよ。こっちまで暗くなるじゃない」


 うるせぇ、暗くさせたのはお前だっつーの。

 結局、話題も出してないし。


「う、うるさいわね! アタシだって色々考えてるのよ!」


「へー、そうかいそうかい。じゃあぜひ聞かせてもらおうかなー」    


「う……え、えーっと……」


 妹はそう言ったっきり、口をもごもごさせて、何やら参考書も置いて手をもじもじさせはじめる。

 なんだなんだ、新手の魔術かなにか? 今度は何を呼び寄せようってんだ。妹の次は、近所の幼馴染とかかな?

 妹はあいかわらずもじもじしながら、もごもごと口を開く。 

   

「……か……」


「か?」


 看護士? それとも家畜?

 出来ればどっちも勘弁願いたい。場面が病院とか描写がメンドそうだし、家畜とか色々な意味でアウトだ。


「そうじゃなくて! あの、……い、か……」


 いか? 最近流行ってるアレか? 塗り絵する奴か!

 あいにく俺の家にはパソコンしかないからプレイできないぞ。

 つーか、はっきり言ってくれ。難聴系主人公ってほどでもないが、あいにく耳はそこまで良い方じゃない。


「あぁもう! だから合鍵よ! あ・い・か・ぎ!」


「はいぃ?」


 合鍵ぃ? 合鍵がなんだってんだ。

 もしかして何かのコードネームか。それとも俺の知らない妹世代で流行してる何かなのか。

 あいにくおじさん、若い人の流行には疎いからわからんぞ。


「そうじゃないわよ! アンタの家の合鍵! アタシにも渡しなさいよ!」


「え? ヤダよ」


 俺、即答。

 俺の最も楽しみにしていることの一つは、妹の要求にヤダと即答してやることだ!

 ディモールト楽しい。みんなも妹がいるならぜひやってみよう。


「な、なんでよ! お姉ちゃんには渡してあるんでしょ!?」


「いや、なんかお前、悪戯しそうじゃん」


 既に姉さんにも家探しされたけどさ。

 一応姉さんはああ見えて年上。妹は年下。あれから色々万全にはしておいたが、万が一ということもある。

 ほら、未成年者には危険なものもあるかもしれないから、一応ね。

 俺が未成年かどうかというのは明言していないので、問題ない。明らかに見た目未成年でも、この作品の登場人物は架空で未成年じゃありませんと言えば大丈夫。


「悪戯なんてしないわよ! いいから渡しなさいよ!」


「むしろなんでそんなに欲しがるんだよ」


「そ、それは……――別に何だっていいでしょ! ほ、ほら、合鍵もらえばアタシの登場回数が増えるから!」


 打算的すぎるじゃないですか、ヤダー!

 まぁ、しかしここまで登場してるなら、どうせ後の話でもちょくちょく出てくることになるだろ。


「……わかったよ。ただし、悪戯はするなよ。男の子の部屋には、爆弾が仕掛けてあるんだ。俺以外が勝手に触るとしめやかに爆発四散する羽目になるぞ」


「う、うん……?」


 俺のよく分からない台詞にも戸惑いながら頷く妹。ドン引きしないだけマシか。意外に素直だ。

 まぁしかし合鍵なんてほいほいあるわけがない。姉さんの時もわざわざ作りにいったんだ。あ、鍵の複製は許可が居る場合もあるから気を付けて。

 この物語では全く関係ないけどな。


「んじゃ、これマスターキーだから。ちょっと合鍵作って来てくれ」


 そういって俺はキーケースから一つの鍵を取り出し、妹に渡す。

 ないもんは作らないと仕方ない。ついでに金も渡しておこう

 流石に妹が欲しいって言ったからって、金まで妹に払わせるのは兄としてどうかなと思うし。設定上の兄だけどさ。


「ん……わかったわ」


「絶対失くすなよ。あとおつりは返せよ」


「ちゃんと返すわよ! ――……じゃ、行ってくる」


 そういって立ち上がり、部屋を出ていく妹。

 心なしか立ち上がる瞬間、その無愛想な口元が笑っていた気がする。

 ま、気のせいだろ。

 とりあえず妹が合鍵を作って帰ってくるまでは一人っきり。

 鍵がないから当然俺は部屋を出れないわけで。

 

「……アニメでも見ますかね」

    

 そう呟いて俺はパソコンに向き直った。 

 その後、妹が何やら嬉しそうな表情で合鍵を握りしめて帰ってきたり、それをからかった俺が何故か怒られたりしたんだけど、それは割愛。

 三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。

 作者が飽きるくらいまでは、続く。

 



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