『祝PV100超え』のメタい姉とメタい弟
物語はいつもの六畳一間からはじまる。
「総合PV数100超えおめでとう!」
ベッドに座る姉さんが高らかにそう叫んだ。
その向かいのパソコンデスクで、投げやりに手を叩く俺。
うん、まぁ超えたのは結構前なんだけどね?
ほら、予約投稿とか色々なあれでさ……。察してくれ。
「ちなみにユニークアクセスも総合100超えおめでとう!」
正直驚き。
これはタイトルの引力なのかね? タイトル詐欺みたいでちょっと申し訳ない。面倒だからタイトルは変えないけど……。
「しかし、おめでたいよー。三流アマチュア小説書きの書いてる他の短編とか、ユニーク10とかだよ?」
「ホント、なんであっちは伸びないのかなぁ……?」
こっちよりよっぽど真面目に物語してるのに……。やっぱりタイトルか? タイトルがいかんのか?
「まぁ、PVの話は置いておいてだな――」
言ったそばから早速タイトルを否定する話題をするわけなんだけど。
「なんでコイツいるの?」
「人をコイツ呼ばわりした挙句、顎で指すな!」
俺の向ける視線の先には、姉さんより少し幼いくらいの少女。
半眼で睨んできてるんですけど。うわ、少女怖い。
つーか、前々回といい話が繋がっちゃってるじゃないか。どこから読んでも大丈夫とは何だったのか。……今更だけど。
「ほら、100超え記念に登場人物増やそうかなぁって」
「そんな記念品みたいな扱いなの、アタシ……?」
姉さんのセリフに対して、隣で座っていた少女が呆然と呟く。
「……姉さん、一つ良いことを教えてやろう」
「いいこと?」
「登場人物が増えると、書き分けがすごく大変」
ぶっちゃけ面倒くさい。
よく考えてみろ! 俺たちは名前すら決められてないんだぞ!?
今までは良かったよ? 姉と弟の二人だけだからな。
それが、この妹らしきものを加えたときどうなるか?
「俺は自分のことを『俺』と呼ぶ。姉さんのことは、設定上でも姉だから『姉さん』と呼ぶ」
「私は自分のことを『私』って呼ぶね。弟くんのことは、『弟くん』って呼ぶよ」
「アタシは自分のことを『アタシ』って呼ぶわ。兄貴のことは『クソ兄貴』か『お兄ちゃん』って呼ぶことにしてる。お姉ちゃんは『クソ姉』か『お姉ちゃん』って呼ぶわね」
さて、問題です。じゃあ俺と姉さんは『妹』のことを何と呼ぶでしょう?
「えーっと……私は『妹ちゃん』かな?」
うんうん、確か劇場版とかいうのでもそう呼んでたな。
じゃあ、俺は?
「えー……えー……い、『妹』……?」
「どこの世界に、妹のことをそのまんま『妹』って呼ぶ奴がいるんだよ!?」
「え、えええ!? いるよぉ! 普通にいるよ!」
「偏見で物言ってんじゃないわよ! だからアンタはクソ兄貴なのよ、このクソ兄貴っ!」
あ、あれれー? 大批判……?
全国の兄のみなさんどうなんです? 妹のこと「おい、妹!」って呼びますか? 「どうしたの、妹今日元気ないじゃん?」とか言いますか……?
呼びますか、言いますか……そうですか……。
「――ま、まぁ、じゃあ呼び名は百歩譲ったとしてだ。おいお前、とか呼ぶときどうするんだ?」
これは困る。
登場人物が二人なら、『お前』は間違いなく自分じゃない誰か。つまり今までなら姉さんだ。
それに妹が加わると、姉さんを呼んだのか妹を呼んだのかわからなくなる。
「そうすると、モノローグを足さなきゃいけなくなるぞ」
例えば、「『おいお前』と、俺は妹を呼び止めた」とか。
つまり俺の手間が増える。メンドイ。
「それぐらい我慢しなさいよ。アタシの兄っていう設定の割に、器が狭いのね」
「ぐ……!」
呆れ顔でポーズまで決める妹。
「弟くん、今までも大して『お前』とか使ってないよね?」
「ぐぐ……!」
それに便乗して姉さんまでもやれやれといったようなポーズを取る。
くそぅ、卑怯じゃねぇか。これじゃ二対一。いや、作者も入れれば三対一。ことの優劣は明らかだ。
「くそぅ……俺の平穏……」
さらば平穏な日々。だらだらだらけの手抜き物語。
これからはもう少しモノローグとか入ったりするかもしれない。面倒だけど入れないといけないかもしれない。
よく分かんない妹をなんか色々頑張って物語に加えなきゃいけない。
苦労しかねぇじゃねぇか。誰だよ、こんな登場人物出した奴。
「――いや、アタシはクソ兄貴たちと違ってちゃんと設定あるから」
「えええええええ!?」
妹の言葉にいち早く姉さんが驚きの声を上げる。
え? なにそれ? 今までメイン張ってた俺たちには設定無くて、ぽっと出で出来た妹には設定あるの?
「当たり前じゃない。設定も決まってない登場人物とか、学芸会でやる演劇の馬と同じよ」
「どうしよう弟くん。私たち設定上とはいえ、妹に馬と同じって言われてるよ……?」
うん、正直俺も泣きそう。むしろ鳴きそう。ヒヒーン。
「なに? もしかしてアンタたち、ホントに設定が何も決まってないの?」
「え? え、ええっと、そ、そそ、そんなことないよ? ね! 弟くん!?」
今更見栄張んな。あと明らかに目が泳いでて声も上ずってるし。姉さん、嘘がド下手だな。トランプとかめっちゃ弱そう。
ため息一つ、俺は妹に答える。
「何も決まってねぇよ。設定どころか容姿すらあやふや。明日には違う容姿になっててもおかしくないな」
「なにそれ? ネタじゃなかったんだ? ねぇ、それって物語の登場人物として恥ずかしくないの?」
うるせぇ! こちとらそれで十話以上やってんだぞ!
文句なら作者に言え、作者に!
ちなみに、先ほどの妹の台詞で姉さんは完全に沈黙してしまった。
口は半開きで白目剥いて、人様には『見せられないよ!』っていう感じになってる。おぉ姉さん、死んでしまうとは情けない。
まぁ、そのうち何事もなく登場するでしょう。多分。
「はぁ、飽きれた。どうやらアタシが来て正解だったみたいね」
おい、なに『物語の途中で現れておせっかいを焼くヒロイン』みたいな台詞言ってんだ。
お前それ、物語の途中で主人公に助けられて『べ、別にアンタの助けなんかいらなかったわよ!』とか言う奴だろ。
そういうキャラなのか、妹。
「べ、別にアタシは気にしないけど、一応クソ兄貴も設定上は兄ってことになってるし? このアタシがどうにかしてあげてもいいのよ? 別にアタシはどっちでもいいんだけどね?」
何回、別にを言うんだお前は。
ん? つーかもしかして、あれか?
「お前のキャラ設定って、ベッタベタの先人の手垢だらけのテンプレ街道まっしぐらなツンデレキャラ?」
「うぐ……!」
分かりやすく声を詰まらせる妹。
ははーん、なるほどね。
「へー、妹のキャラってそうなんだー。いやぁ、羨ましいなぁテンプレキャラ。分かりやすくていいなぁ。ほら、俺たち設定とかないから羨ましくてしょうがないわー」
俺たち馬と同じだからさ、ヒヒン。
「まぁでも? テンプレって様式美っていえば聞こえはいいけど、使い古されてるともいうし? あっ、俺あれ聞いてみたかったんだよね。『べ、別にアンタのことなんて全然好きじゃないわよっ!』ってヤツ。ちょっと設定すらない俺に聞かせてくれないかな、先人の魅力的なキャラに似た感じでいいからさ」
もうこれでもかってくらい煽っていく俺。
いや、正直テンプレキャラ大好きなんだけどな。
「う、うぅ……」
こんなちゃっちな煽りでも涙目の妹。
はっはっはっ、先人の作り出したテンプレツンデレ妹という重圧に押しつぶされて消えるがいい!
テンプレと無個性は表裏一体! 多くの光あるところには多くの影が差すのだ!
……あれ? 俺の方が妹より悪役してないか?
「……流石に外道すぎると思うな、お姉ちゃんは」
いつの間にか復活した姉さんがそう呟いた。
そうは言っても、設定があるのはいいぞ。それがテンプレでも、だ。
「前にも言ったが、身長とか容姿とか設定は重要なんだよ」
テンプレってことは、それだけ想像させやすいってことだ。表現もしやすい。だって良いお手本がいっぱいあるじゃん。
そっから個性うんぬんとか言い出したら大変だけど、それは物語によって違うから何ともかんとも。
「見てみろよ、この典型的なツンデレ妹の姿を」
低めの身長に、ぷにぷにとした肉付き。やや吊り目なものの愛くるしい瞳。そしてもはやツンデレの象徴である長い金髪ツインテール。
「これでツンデレじゃなきゃ、もはや詐欺だぞ」
いや、金髪ツインテールで吊り目でもツンデレじゃない妹とかいっぱい知ってるけどさ。
見た目だけ見たら「おや? もしや?」と思うじゃん。
これで台詞の最初に「別に」と最後に「なんだからねっ!」を付ければツンデレだ。異論は認める。
まぁでもそれぐらいテンプレって根深いし、上手く使えば武器になる。
「ふーん……そんなものなのかな。じゃあ私もツンデレしようかなぁ?」
「誰にだよ」
「弟くんに?」
やめてください、死んでしまいます。
こんな口調のキャラが二人も居たら、区別つけるの大変すぎて俺が過労死する。しかも片方は容姿決まってないし。
安易なキャラ付けも危険だ。
「あ、アタシのこと無視して……!」
そんなことを思っていたら、泣き止んだのか。今度は妹が復活。
完全に忘れてたわ。ごめんごめん。
三人になると会話が面倒だからさ。片方倒れてるくらいが楽だ。
妹は目元に残った涙のあとを拭いもせず突然立ち上がると、玄関へ駆けていき、振り向きざまに口を開く。
これはあれだな。テンプレ通りなら、次の台詞は決まってる。
「今日のところはこのぐらいにしてあげるわっ! 覚えておきなさい!」
はい、ごちそーさま。
妹の姿が見えなくなり、部屋には俺と姉さんだけが残された。
つーか結局何しに来たんだ、アイツ。別にいいけど。
「……なんか弟くんは妹ちゃんには優しいよね」
「いや、そんなことないだろ」
「べ、別にお姉ちゃんも構って欲しいとか思ってないんだからねっ!」
「おい、やめろや」
この後、ツンデレが感染った姉さんを宥めるのがとても大変でした、まる。
……ホント、面倒だから妹は二度と来ないといいなぁ。
三流アマチュア小説書きの物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。
作者が飽きるくらいまでは、続く。




