劇場版『ある日、三流アマチュア小説書きが書いた物語の主人公にされた件』
――物語は突然はじまる。
「はじめまして、弟くん! 今日から私がお姉ちゃんだよ♪」
「は?」
――作られた物語。選ばれた登場人物。物語は、いつだって理不尽だ。
「だから、俺は主人公とか柄じゃないんだって!」
「そんなこと言っても弟くん以外いないの! この物語をはじめられるのも終わらせられるのも弟くんだけなんだよ!?」
――物語に襲いくる闇。幾多の物語から集った暗雲は、この物語にも牙を剥いた。
「なんだよ、『アレ』……!」
「『アレ』は物語の闇。皆が忘れた物語の結末。『アレ』はあらゆる存在を食い散らかして、どんどん膨れていくの」
「まだデカくなるっていうのか!?」
「……それだけじゃない。本当に恐ろしいのはそれだけじゃないんだよ、弟くん。『アレ』はもっと恐ろしいものを生む」
――そして現れた一人の少女。闇より暗いその瞳には、何が映っているのか。
「こんばんわ。お兄ちゃん、お姉ちゃん。あっ、初めましてかな。……でも、もうばいばいだね?」
――圧倒的な力は、全てを飲み込む。それでも飲み込まれまいと足掻く術を探す。
「おいっ、アンタ怪我してるじゃねぇか!」
「えへへ……。お姉ちゃん、ちょっとドジっこ属性あるから……。でも、大丈夫だよ……? お姉ちゃん、弟くんの分まで頑張るから……!」
「やめろって! アンタも逃げないと! 死んじまうぞ!?」
「お姉ちゃんは強いから死なないのだぁ……。――それに、姉は弟を守るもの……そうでしょ?」
――消えかかる灯。闇の中だからこそ、強く光を願う。
「あーあ、もう終わり? お姉ちゃん、案外弱いんだね。やっぱり姉より優秀な妹はいないっていうのは嘘なのかなぁ? ちょっと期待してたのに」
「……ま、まだだよ。お姉ちゃんは、まだ元気……だよ……っ!」
「もういいよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんの攻撃は全部アタシが食べちゃったから。ごちそーさま! もう二度と会うこともないねっ。――ばいばい!」
「――出来れば、弟くんには……自分だけの主人公じゃなくて、お姉ちゃんの主人公にも、なって……欲しかった、な……」
――そして。
「――おい。何勝手に人の姉さんいじめてんだ、クソガキ」
「弟、くん……?」
「あ、お兄ちゃんだぁ! ねぇねぇ聞いてよ。お姉ちゃんったら、アタシに暴力振るってくるんだよ? ひどいよね、ひどいよね?」
「うるせぇ! 俺には妹なんざいねぇよ。……姉なら、今日出来たけどな」
「……はぁ? 何それ。お兄ちゃんはお姉ちゃんの肩持つわけ?」
「俺はうるせぇっつったぞ。いいから早くかかってこいよ!」
「上等じゃん。兄の威厳っていうのも見たかったんだよねっ!」
「ニヒル気取って大勢になるのはもう止めだ! 俺が主人公だっていうなら言ってやるよ!」
――ここから俺達の物語がはじまる!
劇場版『ある日、三流アマチュア小説書きの物語の主人公にされた件』
三流アマチュア小説書きが書いた物語の主人公になった俺と、同じく登場人物にされた姉の物語は、続く。
作者が飽きるくらいまでは、続く。




