プロローグ 始まりは朝からが定番。
第14回ネット小説大賞参加作品です。よろしくお願いいたします。
うう、ヒゲよ。
ヒゲよ、伸びてくれ……。
伸びてくれヒゲ。
ヒゲ? 何でヒゲ?
なんでだ?
夢の中で意識が戻ってきたが、ボーっとする。
ああこれ、もうすぐ起きないといけないのか……。
トントントントントン――
目覚まし時計が来た。何度も聞いている、軽快に階段を上がってくる音。
もう足音だけで分かるんだよなぁ。
そして――ガチャ!
「おっはよー! 可愛いボクが起こしに来たぞー!」
はいはい、いつも通りだね。目覚まし時計を設定する意味がない。というかほとんど聞いたことがないかもしれない。毎日こんなふうに起こされてるからさ。
ベッドの上で、うすぼんやりと目を開けて。
誰がやってきたのかは見なくてもわかる。ショートボブの髪に、顔は程良い輪郭をした、俺の活発な美少女姿の幼馴染。
「今日から、高等部初日だぞ! さあ、起きろ! ユースケ!」
「おおう……」
俺はその言葉に反して、布団にくるまった。
「外は春でもう暖かいぞ! ユースケ」
俺、羅生門游介。そして幼馴染は俺の部屋にずかずか入ると、布団を引っ張ってきた。
「お布団から出ろー!」
「お前が毎回布団を取り上げるからこうしてるんだよ!」
「まったくもー」
本当に勘弁してほしい……を通り越して、これが俺の毎日の起床の仕方になっているんだよな。毎日毎日いつも、幼馴染が起こしに来てくれる状況。羨ましいと思う? 俺はもうが当たり前過ぎてどっちとも思わない。
幼馴染が布団を引っ張るのをやめると。その場でくるりと一回転した。
スカートがふわっと綺麗に回る。
「どう? ボクの高等部の制服!」
どうと言われても、ブレザーにミニスカートにした制服なだけなのだが。中等部では学ランとセーラー服なので目新しさは一応ある。
「別に良いんじゃね?」
俺は布団をどかして起き上がった。
「早くガッコいこーよもう!」
「朝から元気すぎるんだよお前は……」
隣にあまりにも天真爛漫で陽気な奴といると、なんだかエネルギーが吸われているんじゃないか? って思うぐらいに、こっちは真逆に気持ちが下がることあるよなぁ。
「だって今日から高校生だもん! 高等部用の新しい制服なんだもん!」
「はいはい……んで、『滉介』。お前やっぱりスカートを選んだのか。
斜陽滉介。それがこの女の子の姿をしている俺の幼馴染の名前だ。
「そーだよ! 可愛いでしょ?」
「あー、そうだな……」
それこそ産まれた時から一緒。赤ちゃんの時から一緒。当然幼稚園児小学生一緒。学園も一緒。家が隣同士で、常に一緒にいた幼馴染のコイツは。女の子の姿をしているが、男である。
――これを巷では『男の娘』と、そう呼ぶ。
「はい! コースケのブレザーの制服! 早く着て見せてよ!」
「はいはい、着替えるから。ちょっと下で待っていてくれ」
「はーい! 二度寝はダメだかんね!」
トントントンと、軽快な足音で部屋から出て行った滉介。
「はあぁぁぁぁ……」
静かになって、春の陽気のせいか? 俺は大きくため息をついた。
あれは俺たちがまだ幼かった、小学三年生の頃。
俺と滉介。俺たちの母は双子同士である。
新しい洋服を買いに行った時だ。
母たちの遊び半分なチョイスで、滉介に女の子の洋服を選んで着せてみたんだ。白いフリルのついた上下ピンクのスカート服に、髪には赤いリボン。典型的なお姫様っぽい女の子の洋装。そして俺は――
それを見て、腹を抱えるほど笑った。
そりゃもう店内に響くほど、笑ったのだった。
滉介は顔を赤くして、スカートをぐっと握って泣くのをこらえていたのを鮮明に覚えている。あそこまで顔を赤くした滉介の女装姿が面白すぎてしまったのだ。――その頃の俺は、つくづくクソガキだったと思う。
また、それが滉介の『転機』でもあった。
次の日、いつもは一緒に登校するはずだった小学校に、遅れてアイツはやってきた。
教室に入ってきて、いの一番に俺の前に立ち、そして滉介は叫んだ。
「ユースケ! これならどうだっ!」
滉介の姿は、上下デニムの短パンで、髪にはヘアピンが付いていた。
俺は生まれて初めて、唖然とした。
何とかギリギリ、ギリギリで女の子に見えるその姿。
――それが滉介の、『男の娘』の始まりだった。
ぶっちゃけ、俺のせいである。
「あ、ヒゲ……」
窓から暖かい日差しが差し込む自室で、俺はなぜか見ていた夢の内容を思い出した。
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